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駿足の冒険者  作者: はるあき
0章 プロローグ
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024 喫茶店を始めよう(8)

「配膳のやり方についても、まず俺とマリーで手本を見せるから覚えてくれ」


 そう言って俺は厨房へ行ってグラスを取り出し、その上でウォーターボールを唱えてドートルウォーターを作り出した(原価ゼロだ)。

 そしてドートルウォーターが入ったグラスとコースターをお盆の上に乗せて、マリーが座っている席まで歩いていく。


「お待たせしました。こちらドートルウォーターでございます」


 俺はコースターをマリーの前に設置して、その上にそっとドートルウォーターの入ったコップを置いた。


「ありがとう」


 マリーの言葉に一礼した後、厨房前の待機位置まで戻って待ちの体勢に入った。


「これで終わり。みんな大体分かったか?」


「「「はい!」」」


 うん、みんな良い返事だ。

 ベロアも返事は良いんだよな。また何かやらかしてくれそうな気がビンビンしているから、安心はできないが。


「ねぇはじめ。練習に入る前に、一度メニューにあるものを試飲とか試食してもらったほうが良いんじゃないかしら?」


 俺が次の練習に入ろうとしていると、マリーがそんな提案をしてくれた。たしかに、メニューにある料理がどんな物か知っておいた方が、配膳とかもやりやすいもんな。そうするか。

 ちょうどお昼時だしな。


「ちょうどお腹が空く時間になったし、そうしよう!みんな、一旦休憩だ。今から俺とマリーがメニューにある料理と飲物を作ってくるから、適当に休んでおいてくれ」


「やったー!ご飯だ!」


「休みは重要だからな。休むことで筋肉は育つんだ」


「かしこまりました」


 俺の言葉に、三者三様のリアクションを返してくれた。

 かわいいフェルと何か語ってるベロアは良いとして、メニスはちょっと硬すぎる気がするな。ちゃんと休憩できるんだろうか?


 まあ何はともあれ作ろう。


「じゃあマリー、タッキーの盛り付けとドートルティーを全種類頼む。俺は他のものを作るから」


「おっけー!じゃあ、ドートルウォーターをお盆にためておいてね。紅茶作るのに使うから」


「了解!」


 よしっ、作るぞ!

 俺とマリーはエプロン風にカットした布の服を着て、調理を開始した。

・・・



「出来た!」


「出来たわ!」


 10分程で全てのメニューを作り終えることが出来た。

 少し前からマリーと早く作る練習をしていたかいあって、早く作ることが出来たぞ。


「じゃあ持っていくか」


「おっけー!」


 俺とマリーは出来た料理をお盆に乗せてフェル達の待つテーブルへと持って行った。

 ちなみに、全てのメニューを三個づつ作っている。たくさん食いそうなのはベロアしかいないし、多分足りるだろう。


 厨房からフロアに出ると、皆んなが思い思いに休んでいた。

 フェルは普通に椅子に座って足をブラブラさせている。正面にベロアがいるのを見るに、雑談でもしていたのかね?

 そしてフェルの正面に居たベロアだが、何故かヒンズースクワットをしている・・・それで休まるのか?

 むしろ研修中よりも疲れる気がするんだが。

 メニスはフェルの隣の椅子に座って、何かを羊皮紙に書いていた。ひょっとしてさっきの研修の内容を元にマニュアルでも作ってるんだろうか?

 真面目だな!


「みんなお待たせ!昼飯にしよう」


「おまたせ~」


 ちょうど良く三人が一つのテーブルに集まっていたので、そこに料理を並べていった。


「おいししょう!!」


「おー、こりゃ美味そうだな!」


「良い香りがしますね」


 三人共、料理に興味津々みたいだな。

 フェルは奇跡的な噛み方で、師匠呼んだ弟子みたいになってるが。


「この赤いパスタ風の料理がナポリタン。この卵の塊がオムライスだ」


「はじめって説明雑よね」


 ・・・そうかな?

 ニュアンスは伝わると思うんだが。

 伝われば良いんだ、伝われば。


「おお!このオムライスって奴はうまいな!好きな味だぜ!」


 早速、ベロアがオムライスを食べていた。

 こっちに無い料理だから心配だったけど、美味しく食べれるみたいで良かったぜ。


「いただきまーしゅ・・・このニャポリタンも美味しいでしゅ!甘めの味付けが最高でシュ!」


「私はこのオムライスが好きですね。卵がこんなにふんわりとした食感になるとは、驚きです」


 フェルとメニスも気に入ってくれたみたいだ。

 三人共気に入ってくれるなら、店で売っても問題なさそうだな。

 異世界で日本の食事を出しても受け入れられるのか不安だったけど、一安心だ。


 さて、安心した所で俺達も食べるとするか。

 そう思ってふと皿を見てみると、既にオムライスがほとんど食べられていた。


「食べるの早いな!」


「うめぇ物は思わず早く食べちまうからな!」


 ベロアが食べたのか!

 しまった、5食分ずつくらい作るべきだったな。


「じゃあ、ナポリタンの方を食べるか」


 そう思って、ナポリタンの皿を見るとそっちはフェルとマリーがほとんど食べ尽くしていた。


「こっちもか!」


「だって美味しいんだもん!」


「美味しいのが悪いでしゅ!!」


 二人は言い訳になってない言い訳を言いながら、手を止めること無く食べていた。

 俺の昼食が!


 しょうがないので、タッキーで腹を満たすことにした。

 まさか自分の作ったものが一つも食べられないとは。

 しかし、このタッキーもやっぱり美味しいな。日本でいうとサクサクしたカントリーマアムみたいな感じだ。

 ・・・甘いもの食べていると、コーヒーが飲みたくなってきたな。

 淹れるか。


「ちょっとコーヒー淹れてくる!」


「おっけー」


「ん?コーヒーって何だ?」


 ベロアから質問が来たような気がするが、早くコーヒーが飲みたいのでスルーして厨房へと向かった。


 さて、コーヒーを淹れるか。

 さっきカフェオレを作ったから、その時に挽いたコーヒー豆がまだ余っていた。それをネルに詰めてドリップできるようセッティングした。

 そして沸騰させたドートルウォーターをポットに詰め替えて、少し冷ましてからネルにお湯を落としていった。

 お湯は初めに少し落としたら、三十秒ほど蒸らしを入れて、またくるくると円を描くように落としていく。

 このコーヒーをドリップするときの時間が俺は好きだ。

 コーヒーを淹れる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで「このカフェオレってやつは最高にうまいな!!!!」



 ・・・・・・・まあ、ベロアも悪気はないんだろうから許すとしよう。静のマインドが重要だからな。

 そんな事を考えていたら、ドリップし終わってしまった。

 うーむ、何か不完全燃焼だな。

 もう一杯淹れるか。


 俺はネルに詰まっていた出がらしのコーヒー豆を捨てて、あたらしい豆をセットした。

 先程セッティングしたお湯がまだポットに残っていたので、それを使って再びコーヒーを淹れていった。

 まずは少しお湯を落として蒸らしの時間だ。俺はこの蒸らしの時間にひときわ強く香るコーヒーの匂いが一番好きだ。世界一良い香りだと思う。

 そうして蒸らしが終わると、円を描くようにまたお湯を落としてゆく。

 良いね。これだよ。

 コーヒーを淹れる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静か「なんだこの水は!!!只の水かと思ったらとんでもなくうめえじゃねえか!!」


「うるさいよ!!」


 ベロアのリアクションでかすぎだろ!

 あいつ本当に元引きこもりとは思えないな。筋肉バッキバキだし、声はでかいしリアクションは良いし。


 そんな事を考えていたら、またドリップが終わってしまった。

 ・・・うん、今日は諦めるか。

 また一人の時にいくらでも時間は取れるさ。

 俺はそう自分を納得させて、ドリップした2つのコーヒーを持ってマリー達の待つテーブルへと戻った。


「おかえり、はじめ。結構時間かかったわね」


「訳あって二杯淹れてていな・・・」


「何故二杯?」


 それは聞かんでくれ。


「おお、また新しいものを持ってきたな。そいつは何なんだ?」


 俺が持ってきたコーヒーを目ざとく見つけたベロアが、そう声をかけてきた。


「これはコーヒーという、苦味と香りが素晴らしい飲み物だよ、この筋肉バカ!」


「なんか当たりきつくねえか!?」


 別にベロアが悪いわけではないが、さっきのことがあるからな。ついつい邪険にしてしまうな。


「面白そうな飲み物でしゅね。ちょっと飲ませて欲しいでしゅ」


「おう、良いぞ」


 フェルがコーヒー党になってくれたら嬉しいし、大歓迎だぜ!

 横でベロアが何か扱いが違くね?って言っているが当たり前である。可愛いフェルとドリップタイムを邪魔するベロア。どちらが印象が良いかは明瞭である。


「いただきましゅ・・・・にがっ!」


 そう言って目を閉じてバッテン(>_<)にするフェル。

 うーむ、やはりコーヒーは子供の舌には苦すぎるか。


「私も飲んでみてよいでしょうか?」


 フェルのリアクションに興味を持ったのか、メニスも申し出てきた。


「良いぞ!」


 メニスはこの中では一番年上の大人だし、普通に飲めるかもしれんな。


「・・・苦いですね。飲めなくはないですが、あまり得意な味ではないです」


 メニスでもだめか~。

 やっぱりこっちの世界の人の舌には合わないのかね?


「俺も飲んでみて良いか?」


「良いぞ。ベロアにコーヒーの良さは分からんと思うがな!」


「いやだから、当たりきつくね!?」


 うるさい!至福のときを邪魔された恨みは強いぞ。

 ドリップタイムを邪魔するベロアにコーヒーの良さがわかるとは思えないけどな。

 そんな事を考えていたら、ベロアがカップに顔を近づけて匂いを嗅いでいた。

 ふむ。

 ガタイが良いから、コーヒーが似合うな。

 匂いも気に入ってるみたいだし。

 いや、しかしコーヒーは味が理解できねば、好きだという主張を認めることはできんのだ。

 あの苦味とコクとボディー感なくして、コーヒーを語ることはできん!


 俺が内心でツッコミを入れつつ見ていると、ついにベロアがコーヒーを飲んだ。


「美味いなこれ!強烈な苦味の奥に仄かな甘みもあって、最高だぜ!」


「なん・・・だと?」


 ベロアにコーヒーの味が分かるというのか!


「本当ですか?私には苦味しか感じられませんでしたが」


「いや、その苦味を味わっていると、甘みも出てくるぞ」


 ベロア!

 お前ってやつは!

 よくわかってるな!


「流石ベロアだ!良く分かっている!その苦味を楽しめてこそ男ってもんだ」


 コーヒーを飲み交わす同志がこんなに近くに居たとは。

 驚きである。


「急に扱いが良くなったな!・・・・・・まあ良いか。やっぱそうだよな!この苦味ははじめて味わうが、良い味してるぜ」


「そうだろうそうだろう!その苦味を出すために、俺が手間ひまかけて焙煎しているからな!その苦味を出すには、コーヒーを焙煎する時間を長めにしてな、あとは・・・」


「はじめのコーヒーうんちく語りが始まった!」


 横のマリーが何故かウンザリした顔をしているが、関係ない!

 俺はこの世界にきて初めて見つけた同志と、心ゆくまでコーヒートークを楽しむのだった。


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