018 喫茶店を始めよう(2)
とりあえず、フェルちゃんには開店1週間前から研修をしに来て貰うことにした。そこでメニューの取り方とか掃除の仕方を教える予定だ。
つまりはそれまでにメニューを決めて開店準備を済ませておく必要がある。
「まずいな、全然メニュー決まってない」
フェルちゃんを面接してからもう3日がたった。しかし決まったのは、紅茶とナポリタンとオムライスだけだ。
トマトっぽい野菜があったから(トムトムって名前だった)、ナポリタンとオムライスは作れたんだが、自炊の時作っていたパスタとかの料理は調味料が無くて作れそうに無いんだよな。
「喫茶店っぽいものだったら、タッキーなら作れるわよ」
「タッキー?」
アイドルか?
「砂糖と生地を混ぜて焼いたお菓子で、サクサクして美味しいのよ」
「サクサク?」
あっ、クッキーみたいなやつか!
・・・この世界の固有名詞は日本にいた頃と近いものが多いけど、何か理由があったりするんだろうか?
まあいいや。
「大体分かった。じゃあ、それもメニューに載せよう」
もう作れるものは全部載せていこう。
「分かったわ!じゃあ早速試作してみるわね!」
「ありがとう!頼んだ」
どうやらやる気になっているみたいだ。
これで美味しければ、もう喫茶店としては成立する気がする。美味しいお菓子とお茶と軽食があれば、誰も文句は言うまい。
「後は、従業員だな。最低でもあと二人いる」
あれから、リリーさんに頼んでギルドの壁にも張らせてもらったが、まだ誰も面接に来ていない。
猫の手も借りたい勢いだから、よほど変な奴じゃなけりゃ採用するんだけどな。
「あ!そう言えばさっきギルドに行った時に、リリーさんが応募者がいたから喫茶店までの道を教えたって言っていたわ」
マリーがクッキーの生地を練りながら、嬉しい話を提供してくれた。
「ほんとか!」
良かった。
これで従業員問題が解決するかもしれない。
そんな話をしていると、喫茶店の入り口から扉を二回ノックする音が聞こえてきた。どうやら早速来てくれたらしい。
きちんとノックをしてくれるなんて、荒くれ者の多いこの世界ではかなり紳士的な人だ。これは期待が持てるな!
「はい、お待ち下さい!」
俺は従業員候補者を迎えるために、入り口の扉を開けた。
すると俺の目に入ってきたのは、分厚い大胸筋とよく発達した上腕二頭筋、そしてはち切れんばかりに膨張している腹筋だった。
「うおっ!化物か!」
「ち、ちがう!」
俺が驚いていると、前に居た筋肉の塊が腰を折って顔を見せてくれた。
そこには、ケモミミをつけたヒゲモジャでダンディなおっさんが居た。・・・おっさんとケモミミって全然似合わないな。
「驚かせて申し訳無い。俺はクマの獣人で名前をベロアと言う。冒険者ギルドで募集を見て、働けないかと思って来たんですが」
「ああ、応募者でしたか。こちらこそ驚いてしまって申し訳無い。では面接をしたいので、こちらに来てもらっても良いですか?」
「はい。失礼します」
そう言って、ベロアさんは少し腰を曲げて扉をくぐって入ってきた。
この扉も2mくらいはあるはずだから、ベロアさんの身長は余裕で2m超えてるな。店内は天井が広いので、何とかなりそうではあるが。
マリーは今タッキーの試作中だし、俺一人で面接するしか無いな。
とりあえずフェルの時と同様に、テーブル席の向かい側に座ってもらった。面接スタートだ。
「応募ありがとうございます。俺が店長のはじめです。ではまず、年齢と今までの経歴を教えていただけますか?」
「はい。まず年齢は20歳です。クマの獣人で体毛が多いので老けて見られがちですが」
年下だったのか!
たしかに言われてみれば、肌のハリとかは若い感じがするが。ヒゲモジャだから勝手に年上かと思ってしまってた。
「経歴は・・・実はこうみえて体が弱いので、今までは親から引き継いだ家の家賃収入で暮らしていました」
「体が弱い!?」
まじか!
とてもそうは見えんぞ!
ちなみにベロアの今の格好を描写すると、布で出来た半ズボンを履いている・・・だけである。
上には何も着ていないし、靴下も靴すら履いていない。
「では何故その格好を?」
純粋に気になったので聞いてみた。
「俺は身長がでかすぎて売ってる服が入らないんです。そもそも今までは家に引きこもって生きてたので、服なんて無くても生活出来ましたし」
おお、なるほど。異世界にも引きこもりは居たんだな。
ん?まてよ。
「でも、ローブとかなら多少体が大きくても、着れるんじゃないですか?」
俺が試着したときもかなり生地が余っていたし、ベロアが着ても着れそうだが。
「いや、ローブなんて洒落たもの俺には似合いません。ローブ着るくらいなら筋肉着たほうが良いですよ!ほら、この上腕二頭筋の盛り上がり!最高じゃないですか!?」
「無いですかと言われても!」
なるほど。只の筋肉バカか!
もう敬語使うの馬鹿らしくなってきたな。
「筋肉ほど格好良いものは無いですらね!服なんて局部が隠れてればそれで良いんですよ!」
「暴論だな!面白い考えではあるけど」
引きこもりとは思えないほどの我の強さだ。
「ちなみに、筋肉ってどうやって付けたんだ?」
これだけの筋肉だ。普通に引きこもってたら付かんだろう。
クマの獣人は元々筋肉量が多いんだろうか?
それとも、引きこもる前に実は体力系の仕事をやっていて、それでついたとか?
「筋トレが趣味なんです!」
「なるほど」
思った以上に理由が浅かった。
もう面白くなってきたし、滑舌も良いし配膳も人一倍(下手したら5倍くらい)できそうだから採用にしようかな?
まあ、一応志望動機くらい聞いておくか。
「ちなみに、なぜうちの応募を受けてくれんだ?」
「さっきも言ってしまいましたが、恥ずかしながら俺はまだ働いたことがないんです。でも最近ようやく病気もあまりしなくなったので、週1・2日程度で室内仕事なら働けると思うんです!それで、この募集を見てこれだと思って応募しました」
なるほど。
筋肉の仕上がりを見るに疑わしかったが、どうやら病弱だったというのは本当らしいな。
それで、週1・2の室内仕事でちょうど良かったと。
「たしかに条件は一致するな。でもそれなら他の喫茶店でも良かったんじゃないか?」
「そうなんですが、ここの方が他の店より倍くらい給料良いんですよ。家賃収入だけだと何とか食べれるくらいなので、どうせ働くなら沢山お金を稼ぎたいなと」
志望動機に給料を挙げるあたり、かなり素直な性格してるな。
俺は好きだぜ!(日本の面接だと落とされるが)
「分かった。では、元気よく働いてくれそうだし、採用ということにする!まずは4日後に研修をするから、またこの店に来てもらえるか?」
「はい、分かりました!ありがとうございます!」
という事で、喫茶ドートルに更に新しい仲間が加わった。
多少不安はあるが、大活躍してくれるに違いない!