017 喫茶店を始めよう(1)
「では、また会おう!喫茶ドートルのファンタジスタ支店を頼んだぞ!」
「おう、またな!」
「王都に行った時はお店寄らせてもらうわねー!」
俺達は今、ファンタジスタの門からドートル爺さん達を送り出していた。
あれから、盗賊から取り返した喫茶道具と金塊のお礼にドートル爺さんの喫茶店の権利書をもらって、ファンタジスタ支店を任される事になっていた。(店の建物だけ貰えるのかと思っていたら、何故か喫茶店経営を任されていた。しかも俺が店長。思い返しても、どうしてこうなったのか分からない)
とは言え、特にアレコレ指示を受けた訳ではない、ドートル喫茶の看板を下げて週一くらいで営業してれば、それで良いらしい。内装も変えて良いと言われたし、利益が出たら全部貰って良いと言われたので、軽い副業くらいに考えれば良いのかもな。
「ちなみにマリーは店の経営とかやったことある?」
「無いわ!」
「俺もだ!」
一応、ドートル爺さんから店の登録とかは解除してないから、税金も今年度分は既に収めたし、紅茶淹れて店だけ開けてれば良いと言われているんだが。
「俺は紅茶すら淹れたことが無いからな」
「紅茶なら私が淹れるわよ」
「おお!本当か!?」
ありがたい。これで何とか喫茶店を開くことはできそうだな。
胸に手を当てて自慢げにしてるし、おそらく自信があるのだろう。
これで問題は一つ解決。あとは、
「軽い食事なら俺が作れるし・・・マリーも野営した感じだと作れるよな?」
野営の時に飲んだスープはめちゃくちゃ美味しかったし、マリーは料理上手と言えるだろう。かくいう俺も日本に居た時は一人暮らしで自炊していたから、ある程度は作れる。喫茶店っぽいやつだと、ナポリタンとかオムライスとかな。
「野営で作ったレベルで良いなら作れるわ」
「十分だ!あのスープ凄い美味しかったし」
「ほんと!?えへへ」
よし、マリーの気分も乗ってきたみたいだし、これで食事と紅茶はある程度問題なさそうだな。
後は、注文を取る従業員が何人か必要だな。
ドートル爺さんの喫茶店はカウンターが8席にテーブル席が4人かけで10席もあるから、かなりの人数が入れてしまう。まあ満員にはならないだろうけど、最低三人は必要だ。
「あとは注文を取る従業員だな。盗賊団討伐で結構儲かったから給料は問題なさそうだけど、どうやって募集すれば良いんだろ?」
異世界にもハローワーク的なものはあるんだろうか?
「うーん、私もその辺詳しくないわね。とりあえず、店の前に張り紙でも張っておく?」
張り紙か。
「ありだな」
という事で、羊皮紙に募集要項を書いて店の前に貼ることにした。こんな感じだ。(張り紙の☆はマリーが書いた)
☆☆☆☆☆☆☆☆従業員募集中☆☆☆☆☆☆☆☆
・週1-2日で勤務してくれる人を探しています。
・勤務時間は朝から夕方まで
・勤務内容は注文を取ることと、料理の配膳
・給料は一日銀貨4枚
・2週間後にオープン予定
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
これで2・3日待ってみて、誰も来なかったらリリーさんに相談してみよう。
ただ、マリー曰く一日銀貨4枚というのは喫茶店従業員としてはかなり条件が良いらしいから、すぐに集まるんじゃないかと思う。
どうせなら、少し癖があっても良いから面白い人が来てほしいな。
今のところ、土日しか開かない予定だから、本当に趣味みたいな感じになりそうだし、楽しくやりたいところだ。
「よし、じゃあ食材でも買いに行こうか!オープンまでに試作してメニューを決めたいし」
「良いわね!私の本気の料理を見せてあげるわ!」
おお、頼もしいことを言ってくれる。
という事で、俺達は食材を買いに市場へと向かった。
・・・
「まさかエレファントシャークがこんなに安く買えるなんて!」
「よく分からんが、それ本当に美味いのか?」
市場に行った俺達は、主にマリーの目利きで色んな食材を手に入れていた。
マリーは鮮度の良い食材を見極めたり、店主から値段を値切ったりと大活躍だった。
俺?俺は何もできなかったよ。
そもそも食材の名前が初耳のものばかりで、相場も分からんし味も分からん。
色々と話しながら喫茶ドートルまで戻ってくると、扉に貼った張り紙を食い入るように見つめている女の子が居た。
お、早速従業員候補が来てくれたのかな?
「募集に興味持ってくれたのかな?」
俺達が近づいてもこちらに気が付かないようだったので、マリーが声をかけてくれた。
「は、はい!」
女の子は強張った声を出しながら、こちらを向いてくれた。
近くで見ると、頭に可愛い猫耳を生やした小さな赤髪の女の子だった(獣人さんかな?)。日本の感覚で見ると、小学生高学年くらいの見た目なので雇えないが、こちらの世界では10歳になれば普通に働ける。おそらく大丈夫だろう。むしろ小動物的な可愛さがあるので、マスコットキャラクターとして人気者になってくれるかもしれない。
「応募してくれるなら、今からでも面接するけど、どうする?」
ここは是非うちのウェイトレスになってもらわねば。
という事で、積極的に勧誘してみた。
「はい!よろしくお願いしましゅ!」
・・・噛んだ。
可愛いな!
「可愛い!」
横を見るとマリーが声を出して言っていた。
いや、ホント可愛いな。
「じゃ、どうぞ」
とりあえず喫茶店のテーブルで形だけの面接をして、もう採用してしまおう!
という事で、獣人の女の子を店に招き入れた。
「失礼しましゅ!」
また噛んでる。
癒やされるぜ!
面接っぽさを出すために、獣人の子には4人がけのテーブルの向かい側に座ってもらって、こちら側に俺とマリーが座るというスタンスで面接することにした。
とりあえず店長ということで、俺が面接を進めることにする。
「まず、お名前を教えてもらえるかな?」
「はい!名前はフェルって言いましゅ」
「フェルちゃんね。歳はいくつ?」
「十歳でしゅ」
・・・うん?
ひょっとして、緊張して噛んでるんじゃなくて、単純に滑舌が悪いだけなのかな?
「ちょっと今から言う言葉を繰り返してみてね。【肩叩き機】」
「かちゃちゃちゃきき!」
「可愛い!」
横にいるマリーはさっきから可愛いしか言ってないな。
俺も同感ではあるが、注文を取る上で滑舌は重要な事だし、真面目に調べねば。
「【新人歌手新春シャンソンショー】」
「しゃんじんかしゅしゅんしゅんしゃんしょんしょー!」
・・・どうやらサ行とタ行が苦手らしい。
だが、喫茶店の注文を取るくらいなら大丈夫かな?
可愛いから、滑舌悪くてもお客さん怒らない気がするし。
「【パン、ミルク】」
「パン!ミルク!」
やはり、サ行とタ行を避ければ発音できるらしい。
「【ナポリタン】」
「ニャポリタン!」
にゃるほど。
猫属性もあるので、な行も怪しいようだ。
「うーん」
俺は可愛いからアリ!って思うんだけど、こっちの世界のお客さんはどんな感じなんだろうな。マリーみたいな人ばっかなら問題なさそうだけど。
「あ、あの。ひょっとして、ふしゃいようでしゅか?」
俺が迷っているのを感じ取ったのか、不安そうな顔つきでそう聞いてきた。
「お願いしましゅ!頑張るので雇ってくだしゃい!もう三件も断られてるんでしゅ!お母さんに楽しゃせてあげたいんでしゅ!」
「分かった!大丈夫だから落ち着いて!」
その後、落ち着いて話を聞いてみた所、どうやらフェルは飲食店の従業員に応募して、面接で落ち続けているようだ。働きたい理由としては、商人ギルドの従業員をしている母親と二人で暮らしているらしく、病気がちになった母のために少しでも働いて親孝行したいとのことだ。
ええ子や!
「(もう採用しましょうよ!これだけ可愛かったら滑舌悪くても問題ないわよ!私が保証するわ)」
マリーが小声(鼻声)でそう言ってきた。ほんと涙腺弱いな。
「(ああ、そうだな)」
しかし、俺も同じ考えだったので、力強い声(鼻声)でそう答えた。
・・・いや、ホントいい子すぎで涙がね。
「うん、そういう事情なら真面目に働いて貰えそうだし、問題ない。採用するよ!」
「ホントでしゅか!?やった、ありがとうごじゃいましゅ!」
こうして、喫茶ドートルに新しい仲間が加わった。
多少不安はあるが、大活躍してくれるに違いない!