016 ドートル爺さんのお礼
「はじめさん!良かった、無事だったんですね!」
ファンタジスタへ帰り着いた俺達は、盗賊団討伐の報告をすべくギルドまでやってきていた。
ギルドに入ってリリーさんのところまで行くと、心配していたようで俺達の無事を喜んでくれた。
「ゴブリン退治の道中でLevelUp痛がひどくなってしまってな。魔の森の側で野営してたんだ」
今回の任務でLevelUpについて体感出来たのは良かったな。LevelUp痛にLevelUpハイ、どちらも知らないと怪我や病気を疑うレベルだからな。
あ、ちなみにLevelUpハイはさっき唐突に治った。一度治ると、なぜあんなに高揚感があったのか、根拠にない自信に満ち溢れていたのかと不思議に思うくらいだ。
「そうだったんですね。帰りが遅いから、ゴブリン討伐中に盗賊にでも遭遇してやられちゃったんじゃないかと心配していたんですよ」
「あ、盗賊には会ったわよ」
「ええ!そうだったんですか!?」
手を開いて口に当てて、目を見開きながら驚いてくれるリリーさん。
このひと一々仕草が可愛いんだよな。
「盗賊に民間人が襲われていたので助けていたんですよ」
「あ、ひょっとしてドートルさんを助けた冒険者がはじめさんだったんですか?」
ほう。もう話がいっていたらしい。
これなら一から話をしなくても大丈夫そうだな。
「でもおかしいですね。ドートルさん曰く、やたらテンションが高くて熱い男に助けられたと言ってたんですが」
・・・LevelUpハイの弊害だな。
「まあ、そこは訳あって。ちなみにその盗賊たちの大元の盗賊団も討伐してきました」
「え!盗賊団を討伐できたんですか!?」
再び驚くリリーさん。
なんか驚かせてばっかりだな。
俺達はその後、盗賊団のアジトが魔の森にあることと、今は火炎魔法による酸欠で意識を奪ってアジトに閉じ込めていることを説明した。
すると、リリーさんは直ぐに風魔法を使える冒険者と確認のためのギルド職員(元冒険者)を手配して、アジトへ向かわせてくれた。
「盗賊団が討伐できたと職員が確認し次第、討伐金が払われますから、またギルドへきてくださいね。あと、ドートルさんがぜひお礼をしたいとおっしゃってたので、喫茶店に行ってあげてください」
地図を預かっていますから、と言って羊皮紙に書いた地図を渡してくれた。
「ありがとうございます。行ってきます」
「ありがとう、行ってくるわ」
俺達はリリーさんにお礼を言って、ドートル爺さんの喫茶店へと向かうことにした。
・・・
「ここがドートル爺さんの喫茶店か」
俺達はドートル爺さんの喫茶店の前まで来ていた。
爺さんの喫茶店は中々味のある見た目をしている。扉の上にある黄色い背景に茶色の文字でドートル喫茶と書いてあって、扉の脇の窓にはステンドグラスがはめ込んである。俺の好きな雰囲気だな。日本に居た頃は、神保町なんかに行って、こういった味のある喫茶店を巡っていたものだった。
「中々良い店構えね」
俺がノスタルジックに浸っていると、マリーもこの店の外観が気に入ったらしく、そんなことを言ってきた。
「そうだな。行きつけのお店が欲しかったし、常連にでもなろうかな」
いつもの、とか言ってホットコーヒーが出て来るのが理想だな。
まあ、この世界には珈琲が無いらしいし、爺さんは王都に店を移すって言っていたから、夢のまた夢だけど。
入り口にたむろしているのも悪いので、俺達は中に入ることにした。
扉には【本日閉店】の札が下がっていたが、呼ばれている事だし入って良いだろう。
「おじゃまします」
「失礼します」
とはいっても、客として入るわけじゃないので、一応そうやって声をかけながら入った。
「おお、来てくれたか!」
俺達が店の中に入ると、ドートル爺さんが嬉しそうに歓迎してくれた。
「おう。ちゃんと荷物と金、取り返してきたぜ。」
「ほんとうか!いやー、お主ならやってくれると信じておったぞ」
そう言うと、俺の手を掴んでブンブンと振り始めた。
よっぽど嬉しかったのだろう。
「おなごの方もありがとう!お陰で王都に店を持つことができそうじゃ」
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
ドートル爺さんはマリーの手も掴んで上下にブンブンと振っている。
「そうだ、忘れないうちに取り戻した荷物と金を渡してしまっとくぜ。一応確認してくれ」
俺は収納袋から、爺さんの荷物(喫茶店用具)と金塊を取り出した。
しかし、改めて見るとかなりの量の金塊だな。50kg位あるぞ。
「おお!間違いない、わしが長年愛用してきた道具だ」
爺さんは喫茶店用具を一つ一つ愛おしそうに手にとっている。本当に大事なものだったんだろうな。
これだけ喜んでもらえると、取り戻してきたこっちとしても嬉しい。
「お主らには本当に感謝している」
改めて深々と頭を下げて、お礼を言ってくるドートル爺さん。
「この道具と金塊が無ければ、わしの夢は消えてしまうところじゃった。それを・・」
そう言うと、感極まって泣きそうになったのか、黙って上を見上げる爺さん。しかしそれでも涙をこぼさないのは男らしいな。
数十秒ほどそのままでいた爺さんだったが、こらえきったのか再び俺達の方を向いてきた。
「お主らには最大限のお礼をしたい。しかし、貯金などは全て開店資金とするために金塊に変えてしまっていてな」
「いや、そんな無理してお礼してくれなくても良いぞ。俺達はギルドから討伐金をもらえることになってるし、盗賊団からも色々と頂いたし」
「そうよ。王都に言った時に美味しい紅茶が貰えればそれで良いわ」
別にお礼が欲しくて取り戻してきたわけでは無いしな。
「いや、しかしそれではわしの気が済まん!」
そう言って、爺さんはカウンターの後ろまで歩いていって、棚を開いて何かを取り出した。
「これはこの店の権利書じゃ。わしらは王都に移るにあたって一度はこの店を手放そうとしたんじゃがな、愛着があって中々売ることができんかった」
そう言って、遠くを見つめる爺さん。
「しかし、お主らになら渡しても良いと思う!誰にも使われずに放って置かれるよりこの店も喜ぶはずじゃ!」
そう言って再び遠い目をする爺さん。そんな爺さんの目からは耐えきれなかったのか涙がこぼれていた・・
いや、そんなエピソード聞くと受け取りづらいんだが。
「わがっだ!大事にずるね」
俺が躊躇していると、横にいたマリーが号泣しながら権利書を受け取っていた。
「おお、受け取ってくれるか!ありがとう、だいぜつにづがっでぐれよ!」
爺さんもマリーに釣られたのか、号泣しながら権利書を渡していた。
なんだこれ?
今回少し短めです