015 盗賊団のアジト
爺さん達と別れた俺達は、盗賊団のアジトがあると思われる魔の森に向けて歩いていた。まさか、また魔の森に戻ることになろうとは。
ちなみに、討伐した盗賊達は魔物が集まらないように埋めたほうが良いとマリーに言われたので、操者の男と俺で協力して穴を掘って埋めた。
この時、盗賊の装備なんかは討伐した人の物になると言われたので全て貰っておいた(全部収納袋に入れてある)。装備品なんかは大したものが無かったが、リーダーの男が現金で金貨8枚ほど持っていたので、かなりの報酬になった! (銀貨100枚で金貨1枚なので、銀貨800枚分も手に入ったぜ!)
ドートル爺さんたちは一旦ファンタジスタに帰ると言っていた。俺達が盗賊から荷物を取戻せたにせよ、諦めたにしろお礼がしたいので、一度喫茶店[ドートル]まで来てくれと言われた。
「しかし、俺達も魔の森からファンタジスタ方面へ向かっていたはずなのに、馬車なんて見なかったよな?」
「見ていないと思うけど、自信はないわ。あの時は事ある毎に走り出そうとするはじめを止めるのに必死だったし」
そういえば、そんなこともあったな。
忘れてたぜ!
「今はもう落ち着いてきてるの?」
「一回暴れたからだいぶ落ち着いてはいるな。ただ、今も出来ればずっと走っていたいし、何だって出来そうな気がしてるぜ!」
盗賊討伐の時に走った感じからすると、最高速が倍以上になってる気がする。
だが、あの時は距離がそんなに無かったせいで、加速しきれなかった。どこか長い直線で最高速チャレンジしたい!
「ふぅ・・・まだLevelUpハイは治ってないみたいね」
そう言って呆れたような顔をするマリー。
今日はずっとこんな顔で見られてる気がするな。気のせいか?
そんな会話をしながら歩いていると、魔の森の直ぐ側まで来ることが出来た。ここからどうするかと、森の方を見ていると少し先の魔の森と砂地との境界部のところに、薄っすらと車輪の跡のようなものを発見した。
近づいてその跡を見ると、馬車の跡のように見える。
おそらくこれが盗賊の下っ端の馬車の跡なんだろう。
「どうやらここを入って行ったみたいね。この跡を辿りましょうか」
「そうだな」
俺達はこの車輪の跡を辿ることにした。
車輪の跡はいわゆる獣道に続いていて、車輪によって踏みつけられた草で道筋がきっちりと残っている。
二つの線がまっすぐと続いているもんだから、なんか陸上のレーンみたいに見えてきたな。この上を全力で走ったら気持ちよさそうだ。足がウズウズしてきた!
しかし、それをやるとマリーに呆れられるからな。
自重せねば。
足の疼きと戦いながら、ひたすら車輪の跡を追跡し続けた。
すると十分ほど歩いたあたりで、少し開けたところに出た。前に広がる学校の運動場ほどの砂地の奥には洞窟があり、洞窟の側には複数の馬車が止まっている。おそらく、洞窟の中が盗賊団のアジトで、あの中の一つがドートル爺さんの荷物が入っている馬車だろう。早く取り戻してやらねば。
ただ、いきなり出ていくのも危険なので、木の陰から洞窟の方を見ていると馬車の中から4人の盗賊っぽいヒゲモジャ男が出てきた。どうやらここがアジトで間違いないらしい。
「さて、どうするか」
「そうね。洞窟内に盗賊しか居ないなら、ファイアーランチャー打ち込んでやれば一撃なんだけど」
「中々にエグい手だな」
だが、確実だしそれが一番良いかもしれない。
正直言うと数十人居るだろう盗賊の団体と戦って勝てるかどうかも分からないし、ここはサックリ殲滅戦といきたいところだ。
というわけで、洞窟の中に民間人が居ないことさえ確認できれば、ほぼミッションは成功できるな!
「ちょっと走って確認してくる!」
「えっ!?」
俺は全力で洞窟に向けて走り出した。(時速200kmくらい)
今の俺なら速すぎて目では負えないはずだ!
俺はそのまま洞窟の中に突入した。
「うん?何か今通らなかったか?」
「俺は見てないぞ、気のせいだろ。」
後ろからはそんな盗賊たちの声が聴こえる。
やはり、俺の速さに追いつけるものなどいない!
洞窟に入って二秒ほどでホールのような大きな空間に出た。
慌てて止まると、そこには50人ほどの盗賊が居た。
「なんだこいつは?ここが俺達のアジトだと分かってるのか?」
「迷い込んだ冒険者とかだろ」
「ボス、どうしますか?」
「「「リーダー、俺にやらせてくださいよ」」」
「「あいつを殺るのは俺だ!」」
俺に気がついた盗賊たちは、殺気立って俺を殺そうと近づいてきた。中にいる全員が殺気立っているのを見るに、ここにいるのは盗賊だけみたいだ。
ってかリーダーって呼ばれた奴が4人とボスって呼ばれたやつが1人いたな。あの眼帯野郎は盗賊団のトップじゃなかったのかよ!
盗賊野郎と同じかそれ以上の奴が5人も居るとなると・・・うん、これは勝てないな!
「間違えました!」
俺はそう言って洞窟内部から全力で逃走した。
「おい待て!!」
「逃げるな!殺すぞ!」
後ろからはそんな盗賊の声が聞こえてくる。
だが、逃げている俺に追いつけるやつは居ないようだ。
外に出ると、気絶して転がっている盗賊が4人と、その側にはマリーが立っていた。
「あ、はじめ。あんたまた言う事聞かずに突っ込んで言ったわね!」
俺を見つけたマリーが腰にてを当ててそう言ってきた。どうやらお冠らしい。
「すまん!だが話は後だ。洞窟の中に民間人はいない!全力でファイアーランチャー撃ってくれ!」
あいつらが洞窟から出てきたら、不利になる!最悪負ける!
ここで殲滅しないと!
「分かったわ!獄炎の矢を降らせ、赤き空を呼び込め ファイアーランチャー!」
俺の必死の表情に説得されてくれたのか、マリーは直ぐにファイアーランチャーを撃ってくれた。
数十本の太い炎の矢が洞窟の中に打ち込まれていった。
相変わらずすごい迫力だ!
「「「ぎゃー!!」」」
「「焼ける!!」」
「ウォーターボール!」
中からは盗賊たちの阿鼻叫喚が聞こえてきた。
・・一人ウォーターボールで何とかしようとしてる奴いるな。あの水の量ではどう考えても無理だろ。
それから洞窟の中を警戒していたが、中から声が聞こえていたのは最初の一瞬だけで、数秒もすると何も聞こえなくなった。
どうしたんだろう?流石にあの攻撃だけでは全員を倒すのは難しいと思うんだが。
「マリー、洞窟内の様子が分からない。もう一発撃ってくれるか?」
「分かったわ。MPが足りないからファイアージャベリンにするわね・・・ファイアージャベリン!」
マリーがそう言うと、先程より細い火の矢が数十本現れて、洞窟の中に突入していった。
しかし、炎の矢の行く末を見ていると、洞窟に入って10mほどの所で突然消えてしまった!
「どういうことだ?相手に結界魔法を使うやつでもいたのか?でもそんな風には・・・・あ、そうか!酸欠か!」
洞窟内は密閉空間だ。
あれだけ炎が燃え続ければ、洞窟内の酸素なんて一瞬でなくなってしまうだろう。
「酸欠?その言葉は知らないけど、多分洞窟内の空気が悪くなったんじゃないかしら?」
俺に同意してくれるマリー。
どうやら酸欠という概念はないみたいだが、火が燃えれば空気が悪くなるという事はこの世界でも一般的みたいだな。
「じゃ、後五分ほど待って中に入るか?でも酸素がないと危険だよな・・・」
「とりあえず洞窟の入口を布かなんかで塞いでおいて、ギルドに報告して風魔法の使い手を呼んだほうが良いんじゃないかしら?」
「その手があったか!」
言われてみれば、何も俺たちだけで解決する必要は無いしな。
それから俺達は、気絶した4人の盗賊を縄で縛り上げた後に、馬車の幌の部分をいくつか使って、洞窟の入口を塞いでおいた。
これで、洞窟内は酸欠状態が続いて、盗賊たちは出てこれないだろう。
というか、よほど生命力が強いやつ以外は死んじゃってる気がする。
入り口を塞ぐ作業を終えて馬車の中をチェックすると、一つの馬車の荷の中にマグカップやケトルなどの喫茶店用具と金塊が入った馬車があった。
「どうやらこれがドートル爺さんの物みたいだな。他の馬車の荷物はもらってしまうか」
「そうね」
他の馬車の中にも、金塊や高そうな装備品などが何個か入っていたので、それらは収納袋に入れて持って帰らせてもらうことにする。
結構な金額になりそうだ。
こんな事やってると、俺達が盗賊になったような気がしてあんまり気分は良くないが。
「さあ、早くギルドに報告へ行かないといけないわね。馬車を使うか徒歩かで迷うところだけど」
「そうだな・・・ちなみにマリーは馬に乗れるのか?」
「乗れないわ!!」
「俺もだ!!」
どうやら徒歩で決定らしい。
俺たちは少し早歩きをしながら、来た道を引き返してファンタジスタへと向かった。