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駿足の冒険者  作者: はるあき
0章 プロローグ
15/123

014 盗賊討伐

11/25 誤字改定

「完!全!復!活!」


 翌朝目覚めると、あれだけ全身を駆け巡っていた痛みがキレイに消えていた。

 しかも、LevelUpの効果なのか体の奥底から力が漲ってくる感じだ。今なら何だって出来る気がするぞ!


「おはよう、はじめ。起きたのね」


 テントの入口を見ると、湯気がたった鍋を片手に入口の軒先をくぐって中に入ろうとしているマリーが居た。

 朝ごはんを作ってくれたのかな?


「おはよう、マリー!完全に目が覚めたぜ。もう痛みも消えてるし、なんならいつもより調子が良い!何でもできる気がする!滾ってきたー!!」


 体の調子が良いせいか、話していてもついつい大声になっちゃうぜ。


「そうなんだ。痛みが消えたようで良かったわ」


 収納袋から出した木の板の上に、鍋(スープが入っていた)を置きながらそう言ってくれるマリー。


「おお!良かったぜ!今日なら昨日よりたくさんゴブリン倒せそうだ!テンション上がってきたー!!」


 この体のそこから出るエネルギーをゴブリンにぶつければ、どんな強いゴブリンにでも勝てそうだ!

 なんならドラゴンとかにも勝てるんじゃね!?


「・・・完全にLevelUpハイになってるわね」


 そう言って、何故か呆れたような目つきで俺を見てきた。

 またマリーが妙な和製英語を使い始めたな。なんだそのLevelUpハイって。


「LevelUpした時に、体が急に成長しすぎたことで高揚感に満ち溢れる現象よ。半日もすれば落ち着くはずだけど」


 そう言って、スープを注いだ茶碗を俺に差し出してくるマリー。


「そんな現象があるのか!」


 そう言いながらスープを受け取る。


「ええ。まあそれについては後で話すとして、まずは食べましょう」


「そうだな!」


 LevelUpハイについてもう少し聞きたいところではあったが、腹が減っては戦は出来ぬということだし、まずは腹ごしらえをしないとな!

 それから十分ほどかけて、俺とマリーは野菜スープとパン(ドイツ式っぽい丸い奴)を食べた。スープがとても美味しかったので、このスープ最高だな!とか、マリーの料理は世界一ぃぃぃ!などと言って褒め称えていた!

 マリーは最初のうちは嬉しそうにしていたが、後半は声がでかいだの落ち着いて食べろだのと言って、喜んでくれなくなった。なぜだ!?


 ちなみに朝ご飯を食べている途中で、ステータスを確認してみると、こんな表示になっていた。


名前:西東はじめ

種族:人間

職業:冒険者 Fランク

LV:7

HP:70/70

MP:70/70

STR:24 [備考:筋力値]

VIT:25 (+2) [備考:物理防御力]

AGI:35(×100) [備考:俊敏性]

INT: 8  [備考:魔法攻撃力]

MND: 20   [備考:魔法防御力]

所持スキル:なし

所持魔法:なし


装備品

神の靴:速さのみを追求した神の作りし靴。俊敏性×100。レア度☆10

収納袋:空間魔法が施された袋 ☆3


 昨日あった矢印(→)マークが消えているのを見るに、ちゃんと能力値が上がったということなのだろう。

 体感としても、筋力がアップした感じがするし、今の俺なら誰よりも早く走れる気がする!Sランク冒険者にだって負ける気がしないぜ!


 朝食後は、俺は引き続きゴブリン狩りをしようとしたのだが、マリーがLevelUpハイの時に戦うのは危険だからやめようと言ってきた。

 なぜだろう?こんなにも力が漲っているのに!

 しかし、俺はこの世界に疎い!マリーの言うことは聞いておいたほうが良いだろう。

 ということで、俺達は歩いてファンタジスタの町に帰っていた。


 しかしあれだな。このままのペースで行けば、一時間と少しもあれば着きそうではあるが、俺が本気で走れば5分もかからない気がする!

 なんか走りたくなってきたぞ!


「なあマリー、ちょっと走ってきていいか?」


「やめときなさい。まだ高くなった能力値に体が馴染んで無いんだから」


 俺が正直に伝えると、マリーは俺を止めてきた。

 なぜだ!?

 仕方ないのでそれからも歩いているが、足がウズウズしてしょうがない。ああ!走りたい!

 

「誰か!助けてくれー!」


 俺が足の疼きと戦っていると、前の方から男の声が聞こえてきた。

 目を凝らしてみると、かなり先の方(500m先くらいか?)に馬車があり、その周りを何人かの人影が取り囲むようにして立っている・・気がする!詳しくは遠すぎて見えないが。


「お、あれは盗賊か!?」


 明らかに助けを求める声だったし、おそらく間違いないだろう。

 であれば助けに行きたいところだ。

 この国では、冒険者は盗賊を見かけたら積極的に討伐するように言われてるし、盗賊に対しては怪我をさせても殺してしまっても罪にはならないことになっている、行かない手はないだろう!


「そうみたいね。ここは、慎重に近づいて情報を探りましょう。勝てそうにない相手だったら、ギルドから援軍を呼ばないと


「うぉー!!盗賊め、覚悟しろー!」


 俺はそう言いながら、全力で盗賊の元へ向かった。

 ついに戦えるということでテンションが上がりきっており、マリーの忠告がよく聞こえて無かったのだ。


「ちょっ、待って・・」


 後ろからそんな声が聞こえた気がしたが、一瞬で加速してしまったのでもう何も聞こえない。

 俺は全力で馬車の元へ駆けていた。

 その全力さたるや、風切り音で耳が痛くなるほどだ!

 俺はかつて無い速さで、走ることが出来ていた!もはや新幹線の速度と並んでいる気がする!

 もはや、俺に追いつくものなど誰もいない!

 俺は風!風になれたのだ!


「うぉぉー!」


 馬車にかなり近づいたのが見えた!

 もう50mもないだろう。

 しかし、スピードを出しすぎては止まれそうにない!


「助けに来たぞー!」


 俺はそう言いながら、猛スピードで馬車の横を通り過ぎた。

 通り過ぎながらかろうじて見えた光景では、盗賊風の剣を持った男たち8人が馬車を取り囲んでおり、馬車のそばには馬の操者風の男(鞭を持っている)一人と、老夫婦が一組の計3人が立っていた。


「なんだ、今のは!?」


「リーダー、砂埃がひどくて何も見えません!」


「目が痛ぇ!」


 俺がようやく止まって後ろを振り返ると、砂地を駆け抜けたことで大量の砂埃が舞っており、ほとんど何も見えない状態になっていた。

 そこの中からは、盗賊らしき男たちの声が聞こえる。


 声を頼りに馬車の方に近づいていると、強めの風が吹き付けて砂埃が晴れ、見通しが良くなった。


「やっと見えるようになったか」


「リーダー、今のは何だったんでしょう?」


「知るか!いいから荷物を奪うぞ!」


「「「「「「「ヘ、ヘイッ」」」」」」」


 俺のことは気にしないことにしたのか、リーダーの掛け声で下っ端の盗賊たちが馬車に殺到し始めた。


「まてっ!」


 そう言って、俺は剣を持ち上げて老夫婦を斬ろうとしていた盗賊を蹴り飛ばした。


「ぐぁっ!」


 吹っ飛ぶ盗賊。


「なんだお前は!?」


 ようやく俺の存在に気がついたのか、リーダーと言われていた男がそう問いかけてきた。

 リーダーは2m超えの大男で、背中には身の丈ほどもある大剣を背負っている。また、顔つきは髭面で堀が深くあくどい顔をしており、左目を眼帯でおおっている。


「おい眼帯野郎、お前がこの盗賊団のリーダーだな!俺は冒険者のはじめだ。お前らを強盗の現行犯として討伐する!」


「8対1で勝てると思ってんのか!野郎ども、かかれ!!」


「「「「「「「オォ!」」」」」」」


 眼帯野郎の掛け声で、下っ端共が剣を持って俺を切ろうとかかってきた。

 しかし、こいつら遅いな!

 そんな速さで当たると思ってんのか!


「はっ!」


 俺は盗賊の背後に回り込んで、ゴブリンを討伐したときのようにナイフで首を切っていった。

 ゴブリンよりも盗賊たちのほうがVITが強かったのか、首を切断することはできなかったが、頸動脈は切れたらしく血が噴水のように吹き出している。

 もう長くは持たないだろう。


「な、なんだ!このすばしっこい奴は!!」


 3人の盗賊の首を切ったところで、残りの盗賊は俺の強さ(速さ)に気がついたのか、斬りかかるのをやめて、剣を構えて待ちの姿勢を取った。

 だが、足は引けており完全にビビっている。

 これは勝ったな!


「おい、お前ら落ち着け!」


 盗賊の下っ端が俺に臆したのを察したのか、ついに眼帯野郎が背中の大剣を抜いて前に出てきた。

 こいつは下っ端の奴らとは違って、かなり強そうだな。


「俺がやる。お前らは俺の邪魔にならないように、援護しろ!おそらくあいつは素早いがが筋力値は少ねぇ、力押しで勝てるはずだ!」


「「「「了解です!リーダー!」」」」


 眼帯野郎の言葉に気合を入れられたのか、下っ端の目にも力が戻ってしまった。

 眼帯野郎は観察眼があるのか、俺の筋力値不足を見抜いてきたな。

 だが、それでも俺が負けるとは思わない!


「死ねぇ!!」


 眼帯野郎が大剣で切りかかってきた。

 身長と剣の長さを合わせて4mほど上から振り下ろされたせいで、迫力と剣圧が凄い。


「だが遅い!」


 俺は、後ろにバックしてその剣撃を躱した。


「クソッ、ちょこまかと逃げやがって!」


 苛立つ眼帯。


「おい、お前ら!あいつを足止めしろ!スピードさえ殺せばあんな筋力不足の男、簡単に倒せる!」


「「「「了解です、リーダー」」」」


 下っ端共が俺の足を止めようと、こちらに殺到してきた。

 筋力不足の男か、なるほど正解だ。だがそれでもお前らでは俺には勝てん!


「お前らには速さが足りない!」


 まずは下っ端の一人に近づいて首を切った。


「そして、俊敏性も素早さもスピードも足りない」


 次に残りの三人の下っ端も、後ろに回って首をかき切る!


「そして何より、速さが足りない!」


 そう言って俺は、最後の一人であるリーダーの男に接近し、首にナイフを振るった!


「ぐっ!」


 しかし勘が良いのか、眼帯野郎はナイフが首を切る直前に体を横にずらしてナイフを躱してきた。

 一応当たったが、皮を切っただけで致命傷にはなっていない。


「くそっ異常な素早さだな!何度も同じことを繰り返し言いやがって」


 そう言って、眼帯野郎は大剣を捨てて長めのナイフを構えた。

 どうやら、俺の速さに対抗するために、軽い武器に変えたらしい。だが、


「そんな程度で、対応できる速さだと思うなよ!」


 俺は、真正面から眼帯野郎の元に走っていった。


「もらった!!」


 俺が眼帯野郎に近づくと、ナイフを俺の顔めがけて振ってきた。


「そう来ると思ったぜ!」


 しかし、俺はその攻撃を予測していた!

 俺はナイフが届く範囲まで近づく前に、ジャンプして眼帯野郎を飛び越えた。


「なっ・・ぐあぁぁ!!」


 そして、眼帯野郎の頭を飛び越えたと同時に、後ろ手で首にナイフを突き立てた!


「くそっ、こんなところで・・・」


 眼帯野郎はそんなやられ脇役のようなセリフをつぶやきながら、前向きに倒れ込んだ。

 俺は少しの間、警戒して眼帯野郎の倒れた姿を見ることにした。

 最初はもぞもぞと動いていたが、いずれ完全に静止した。どうやら死んだらしい。


「ふう、なんとか討伐できたな」


 眼帯野郎が予想外に強くて焦ったな。あれで下っ端に遠距離魔法が使えるやつがいたら、足止めされてやられていたかもしれん。危なかった。

 今回は相手の俊敏性がゴミだったから何とかなったな。

 やはり戦いにおいて速さは正義!


「コラ!何先走ってんのよ!」


 俺が今回の戦いの反省をしていると、ようやく走って追いついたのかマリーが語気を荒げながら俺の方に向かってきた。

 しかしコラって。

 その怒り方久々に聞いだぞ。


「相談も無しにいきなり走り出して!追いつくの大変だったんだからね!」


 マリーは俺のそばまで来ると、肩で息をしながら俺に文句を言ってきた。

 うん、ちょっと申し訳無いことをしたかもしれない。


「悪いな。しかし、盗賊達を放っておけなかったんだ。おそらく俺の中にある正義のココロが暴れだしたのだろう」


 俺はそう言って馬車の方を見つめた。

 助けられてよかったぜ。


「いや、今のはじめのそれは只のLevelUpハイだから」


 肩で息をしながら、眉間にシワを寄せて怒りを伝えつつ、呆れた表情をするという高等テクを使って俺を見てくるマリー。

 怒るのは分かるが、なぜ呆れられているんだ?


「まあ今のはじめに何を言ったって無駄ね。私もはじめてのLevelUpハイはひどかったし」


 俺達が、そんな風に今回の反省(?)をしていると、馬車の方から馬の操者風の男が近づいてきた。

 男は40代位で、ぽっちゃりした体つきをしている。短髪で優しげな顔立ちだ。何も武器を携帯してないし、おそらく戦闘の経験も殆どないのだろう。


「助けてくれてありがとう!少し盗賊たちとの会話が聞こえたが、君たちは冒険者なのか?」


 操者の男が、頭を下げてお礼を言ってきた。


「そう、冒険者だ。だから盗賊の討伐は仕事みたいなものだからな、気にしなくていい。怪我はないか?」


 感謝されすぎるのも照れくさいので、俺は怪我の具合を聞いて話をそらした。


「ああ、お陰様で俺に怪我は無い。ただ馬車のところにいる爺さんが足をくじいてしまってな」


 そう言って、馬車の方を見る操者の男。

 なるほど、それは不運だったな。

 だが幸い、収納袋にはポーションが何個かあることだし、治してあげに行くか。


「(なあ、あそこのじいさんにポーションをあげたいんだが、良いか?)」


 ポーションは俺とマリーの二人で買った物なので、相談しておかないとな。


「(良いわよ!)」


 マリーは二つ返事でオッケーしてくれた。


「そういうことなら、ポーションを持っているから、治してやるよ」


「本当か!助かる。じゃあ、こっちきてくれ」


 そう言うと、操者の男は俺たちを馬車のところまで案内してくれた。


「ドートルさん、こちらの冒険者の彼がポーションを分けてくれるらしい」


 老夫婦の近くまで来ると、そう言って操者の男が話しかけた。

 あのじいさんはドートルさんって言うらしい。


「おお、それはありがたい!盗賊から助けて貰えるだけじゃなく、ポーションまでもらえるとは」


 そう言って、頭を下げてくる爺さん。

 爺さんは彫りの深い厳格な顔つきをしているが、目元は柔らかく優しそうな印象も受ける。元々厳しかった人が年取って丸くなると、こんな感じの顔になりそうだな。

 ちなみにお婆さんの方は気絶してしまったらしく、爺さんの肩にもたれかかって寝ていた。


「冒険者として当然のことだ。気にしないでくれ」


 俺はそう言って、爺さんの足の治療を始めた。

 といっても、俺は足首にポーションをかければ終わりだと思って、かけた後放置していた。すると、見かねたマリーがカバンから包帯を取り出して足首を固定し始めた。なので実際に治療したのはマリーとも言える。


 治療した時に盗賊に襲われた時の話を聞いていると、どうやらこの馬車は元々荷台が2つついた馬車だったらしく、そのうちの一つは俺が駆けつける前に馬に乗った盗賊の下っ端に取られてしまったらしい。

 そして、その下っ端はアジトに帰って行ったとのことだ。

 

「あの中には、王都で開く予定だった喫茶店の開店資金と調理器具一式を積んでいたのじゃ。わしらは元々ファンタジスタで40年ほど喫茶店をしていてな、ようやく開店資金が貯まって、夢だった王都で店を買えたとこだったのじゃが・・・」

 

 そう言って、悲しそうな目をするドートル爺さん。

 うーん、かわいそうだな。


「(なあ、かわいそうだし、盗賊のアジトから荷物を取り戻してやらないか?)」


 同情してしまった俺は、マリーに相談してみた。


「(うーん、助けたいのは山々なんだけど・・・アジトとなると大量の盗賊がいそうだけど、倒せるかしら?)」


「(それなら大丈夫だ。さっきリーダーって言われてた奴倒したから、もうアジトには下っ端の弱いやつしか居ないはずだ!)」


「(なるほど・・・うん、それなら良いわよ!)」


 よしっ、マリーの許可が取れたぞ。


「なあ、ドートルさん。ここで助けたのも何かの縁だし、その荷物俺達が取り返してきてやるよ!」


「おお、本当か!それはありがたい。お主の強さなら本当に取り返せそうだ。ぜひともよろしく頼みたい」


 俺が助けを申し出ると、ドートル爺さんは地面に着くほど頭を下げて、俺達にそう頼んできた。


「任せてくれ!それで馬に乗った盗賊はどっちに向かったんだ?」


 俺がそう言うと、ドートル爺さんが指を指してその方角を教えてくれた。

 ドートル爺さんの指が指す先を見ると、そこには俺達がさっきまで居た魔の森があった。


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