013 ゴブリン討伐(後半戦)
11/25 誤字改定
「ウゴゴ」
「(いたぞっ)」
俺達は魔の森に入って早々、ゴブリンを発見していた。今はゴブリンに見つからないように木の陰に隠れてタイミングを見計らっているところだ。
今眼の前に居るゴブリンは、日本に居た頃のRPGゲームに出て来るような見た目で、肌が緑色で身長は120cmと小柄だ。縄文人みたいな皮の服を来ており、石の斧を持っている。
しかし、ゲームで見るより生で見たほうが数倍キモいな。独特の獣臭みたいなのもするし、半開きの口からはヨダレが滴り落ちている。
「(生で見ると、キモさと迫力が数倍増しだな。倒す自信無くなってきた)」
「(キモさは強さと関係ないでしょ)」
ゴブリンを見つめながら、小声で作戦会議をする俺たち。
「(よし、俺がまずはサッと近づいて首切ってくるから、マリーがトドメを指してくれ)」
「(いや、首切ったらその時点で死ぬわよね!?)」
作戦は決まった!
後は実行するだけだ。
俺は足に力を入れて、ゴブリンのもとに駆け寄った。(時速100km)
「ウゴ?」
そんなうめき声が聞こえたと同時に、俺はゴブリンの首を長めのナイフで切りつける!その瞬間、ナイフを持った右手に壁をバットで叩いたときのような衝撃が伝わってきた。
しかしその数瞬後、ゴブリンの首は割りとあっさり切れて、頭と体を分断することができた。
「今だ!マリー、トドメを!」
「いや、だからもう死んでるって!」
俺がボケるときっちり突っ込んでくれる。
優しいマリーだった。
しかし、思ったよりあっさりとゴブリンを倒すことが出来たな。
この世界に来て、初めて魔物を倒したけど罪悪感とかも生まれなかったし。これが盗賊の人間や獣人とかなら、躊躇してしまったりするんだろうか?
「まあいいわ。はじめ、お疲れ様。」
「ありがと。とりあえず魔石とるか」
討伐依頼の場合は、証拠の品を持ち帰る必要がある。
ゴブリンの場合、魔石の形が独特なので魔石を持ち帰れば良いらしい(リリーさん談)
俺は、剥ぎ取り用のナイフでゴブリンのみぞおちのあたりを切りつけて、解体を始めた。すると、直ぐに四角い形をした黒い魔石が出てきた。
「これが魔石か。初めてみたけど、思ったより綺麗じゃないな」
むしろ黒ずんでいて汚い気がする。
「そりゃ、ゴブリンの魔石だし。魔物としてのランクが高いほど、魔石は透明に近づいていくらしいわ」
なるほど、強い魔物ほどキレイな魔石を出してくれるのか。
「ちなみに、これはどれくらいで売れるんだ?」
「銅貨10枚ってところね」
「安いな!」
倒して魔石を取り出すまで、結構時間かかってるし、労力のわりに合ってない気がする。
手紙の配達のほうがよっぽど儲かるぞ!
「そう。だからゴブリン討伐やってるのは、Fランク冒険者でも駆け出しだけね」
「なるほどね。まあ、今日はデビュー戦だし丁度良いか・・・今日は怪我なくバシバシ討伐していこう!」
「ええ、そうね!」
それから俺とマリーはゴブリンを探しては討伐し、探しては討伐しを繰り返した。最初のうちは緊張していたが、どのゴブリンも俺のスピードに付いてこれないのか、まったく反撃されることもなく討伐できたので、苦戦はしなかった。なんなら、背後から忍び寄ってゴブリンを狩るというアサシン的な行為に若干楽しさを覚えるほどだった。
ちなみに魔の森には、大量のゴブリンが居た。2・3時間ほど探し回って、計30体ほど討伐することが出来た。
内訳で言うと、俺が25体でマリーが5体ほどだった。マリーが、はじめは早くLevelを上げるべきだと言って討伐を譲ってくれたのだ。
というわけで、俺達は大量のゴブリンの魔石をゲットして、魔の森の中にある大きな石の前で小休止していた。
今は石を背もたれにして、俺のウォーターボールで出した水をコップにためて、水分補給しているところだ。
「ゴブリン相手とはいえ、これだけ連戦するとちょっと疲れるな」
「そうね、幸い3体以上で固まっているゴブリンが居なかったから、一戦一戦は楽だったけれど」
そう言って、杖の手入れをしているマリー。
先端についている魔石が汚れると、魔力を増幅する効果が薄くなってしまうらしい。
「なんか、もう筋肉痛がしてきたんだけど。久々に重労働したから、体がびっくりしてるのかな?」
感覚的には、一ヶ月ぶりくらいに全力でサッカーとかバスケをした翌日の筋肉痛に近い。筋肉だけじゃなくて筋とかまで痛くて、普通の動きに支障が出るレベル。
休むと痛みが減るかと思っていたのだが、何故か余計に痛くなってきている。
「ひょっとして、それLevelUp痛じゃない?」
「LevelUp痛?」
なんだ?その和製英語みたいな名称。
名前から察するに、LevelUpのときに出てくる痛みなのか?
「そう。はじめはLevel1だったしひょっとしたら知らないかもしれないけど、Levelが上がった時に体が作り変えられるせいで、体中が筋肉痛みたいに痛くなるのよ」
「そんな痛みがあるのか!」
てっきりLevelが上がると自動的に能力値が上がるのかと思っていた。
でも考えてみれば当然か。体に何も変化がないのにステータスが上がるはず無いもんな。
「ってことはステータスが上がるたびに筋肉が付いていくのか」
だとすると、高レベルの冒険者の体はえらいことになってそうだな。
筋肉ダルマみたいな。
「うーん、そのあたりはよく分かってないみたい。今、王都の研究者の間で有力な説は、倒した魔物の魔力を吸収して能力値を上げるって説ね」
「なるほど。ってことは高レベル冒険者がみんな筋骨隆々なわけじゃないんだな」
「そうね。Sランク冒険者でSTRが高いのにほっそりした人もいるし」
それを聞いて少し安心した。強くはなりたいが、筋肉ダルマみたいになるのも少しためらいがあるしな。
いてっ。
話している間に痛みが更にひどくなってきた。
これはしんどいな。
「ちなみに、この痛みはいつまで続くんだ?」
「上がったLevelにもよるけど、大体一日寝て起きれば痛みは引くみたいね。ちなみに、はじめはどれくらいLevel上がったの?」
「どうだろ?ちょっと見てみるか」
俺はステータスカードを収納袋から取り出した。
すると、画面にはおなじみの確認画面が出てきた。
【ステータスをチェックしますか? YES or NO】
YESっと。
すると、Levelが上がった俺のステータスが表示された。
名前:西東はじめ
種族:人間
職業:冒険者 Fランク
LV:7
HP:70/70
MP:70/70
STR:15→24 [備考:筋力値]
VIT:12→25 (+2) [備考:物理防御力]
AGI:9→35(✕100) [備考:俊敏性]
INT:6→8 [備考:魔法攻撃力]
MND:5→20 [備考:魔法防御力]
所持スキル:なし
所持魔法:なし
装備品
神の靴:速さのみを追求した神の作りし靴。俊敏性✕100。レア度☆10
収納袋:空間魔法が施された袋 ☆3
おお、結構Level上がってるな!
能力値に関しても、INTの上がり幅だけ極端に少ないが他は結構強くなっている。INTについては、まあ初心者講習会で鑑定した時点で才能ないのは分かっていたからな。こんなものだろう。
STRが上がったのは助かるな。これでもう少し大きい武器を持って走れるかもしれん。
そして何よりAGIが35になったのが凄い嬉しい。補正を考慮するとAGIが3500である。これでビックマウスウルフに追われたって、余裕で突き放すことができるだろう。
「ねえ、どうだったの?」
俺の横に体を寄せてくるマリー。
そして、俺の肩に頭が乗るような体勢でステータスカードを覗き込んできた。・・・ちょっと顔近い、照れる。
「凄い!一気に6もLevel上がったのね」
そう言いながら体を叩いてくるマリー。
「そうみたいだな。これって速い方なのか?」
俺がそう聞くと、マリーは人差し指を顎に当てて少し考え始めた。
「うーん、一日で6レベルって考えると凄いんだけど。よく考えるとはじめは元のレベルが1だったのよね。普通魔物を倒すときにはLevel10くらいになってるから、比較対象がいなくて分からないわ」
「そういうもんなんだ。」
まあ納得か。普通の装備品でレベル1じゃゴブリンすら倒せないだろうし。
「でも、能力値の上がり方が思ったよりも弱いわね。大体、得意な能力値でLevelの10倍、不得意な能力値でもLevelの5倍位になるものなんだけど」
そう言うと、マリーは頬に手を当てて何かを考え始めた。
「うーん、Levelを上げる年齢が遅かったからかな?」
もしくは、異世界人は能力値が上がりにくいのかもしれない。
一度に使える魔力の量を測ったときもその量は極端に少なかったし、魔力に対する親和性が無いのだろう(地球には魔力なんてなかったから当然か)。能力値の上昇が魔力によるものだとするなら、上がりにくいというのも腑に落ちる。
「イテテ」
話している間にLevelUp痛が更にひどくなってきた。
こんだけ痛かったら、筋肉痛ってよりはもはや怪我に近い。これファンタジスタの町まで帰る自信が無くなってきたんだが。
「まずいな、町まで歩けないかもしれない」
予想外の痛みに弱気になっている。
「大丈夫?」
そう言って、体を擦ってくれるマリー。
ありがたい。これだけで少し痛みが取れている気がする。(多分プラシーボ効果だが)
「私も一日に2Level上げたことがあるけど、その時ですら凄く痛かったから。6Levelも上がっちゃうとものすごい痛みよね」
「いてっ・・・そうだったのか。全身殴られた後みたいな痛みがするぞ」
怪我ならポーションで治るが、これはただの痛みなだけに質が悪い。
じっと耐えるしか無いのだ。
「今日は町に帰るの諦めて、森を出たとこで野宿しちゃう?念のため収納袋にテントとか寝袋は入っているし」
俺が痛みに耐えているのを見かねたのか、マリーが良い案を出してくれた。
「すまんが、そうしても良いか?この痛みで町に帰るのは厳しそうだ」
「ええ、いいわよ。それじゃ、明るいうちに森の外まで歩きましょうか」
「おーけー」
明るいうちにテント張らないと、作業が難しくなるしな。
俺達は出していたコップなどを収納袋の中に片付けて、森の外へ向けて歩き出した。
・・・
森の浅いところでゴブリン狩りをしていたこともあって、十分ほど歩くと森の外に出ることが出来た。
ちなみに、歩いている途中も激痛がしていて、この短い間に途中木にもたれかかって休憩することが何度かあった。
明るいうちにテントを張ろうということで、森から出てすぐに二人でテントを張った。俺の動きがぎこちないせいで思いの外時間がかかってしまったが、日が暮れる少し前に、なんとか張り終えることが出来た。
ちなみに、テントはマリーがエルフの村から持ってきていた4-5人用のやつなので、二人で入っても全然余裕があるくらい広い。
「今晩はここで寝ましょ。本来、夜の見張りとかもするべきだけど、このテントには警報装置が付いていて、魔物の接近を警告してくれる機能もあるし、普通に寝ることにしましょう」
「そんな機能が付いているのか。凄いなエルフのテントは」
この体で見張りは辛いとこだったし、本当にありがたい。
体の痛みは徐々に増しており、一旦寝たら起きることが出来ないくらいの痛みになっている。
「すまんが、俺は御飯いらないからもう寝てしまうな」
そう言って、ぎこちない動作で寝袋に入った。
寝ると大分痛みが落ち着いてきたので、目を閉じればどうにか眠ることはできそうだ。
「分かったわ。あとの事は任せて、もう寝ちゃいなさい」
そう言って、俺が寝ているそばに座って頭をなでてくれるマリー。
癒される。
体が弱っている時に優しくされるとヤバイな。マリーが女神に見えてきた。
「マリーが女神に見えてきた」
正直に言ってみた。
「あほか」
マリーは笑いながら、軽く頭を叩いてきた。
そんなやり取りをしているうちに安心したのか、強烈な眠気が襲ってきた。今まで経験したことがないほどの眠気だ。
俺はこの眠気にさそわれるように、まどろみの中に落ちていった。