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駿足の冒険者  作者: はるあき
4章 駿足の冒険者
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エピローグ


 あれから、5年の月日が流れた。


 俺は今、キリマウンテンの麓で小さな喫茶店を経営している。

 ファンタジスタにあるドートル喫茶はフェルとメニスに任せ、こっちの喫茶店は俺とマリーの二人での経営だ。


 言うなれば、ドートル喫茶キリマウンテン支店ってとこだな。

 まぁ名前は違うんだけど。

 看板にはチャーリー喫茶と書いてある。


 街から離れてはいるものの、この辺りは修行に来る冒険者が多いので結構賑わっている。

 たまに、ファンタジスタから俺の淹れるコーヒー目当てに常連客がきてくれたりもするしな。経営は順調だ。



 さて、そろそろ邪神を討伐した日の事を話そう。


 あの日俺がウォーターボールを投げた瞬間、目の前が光ったと思ったら・・・邪神の魔力反応が消えていた。

 ほんの一瞬で。


 何が起きたか分からなかったが、とりあえずスピードを落としながら、星の周りを周回しつつ地上へと戻った。

 そして、大気圏に再突入している時に見えた光景で俺は全てを察した。

 そう、アイリス島があった場所から巨大なきのこ雲があがっていたのである。


 ・・・うん、解説しよう。

 あの時俺が出していた速度は、最低でも時速10万キロ程度はあったはずだ。


 さて、この時速10万キロというのはとんでもない速度である。時速10万キロで飛ぶ0.5gの物体があったとすると、その物体の持つエネルギーは10の16乗J。原子爆弾の100倍以上のエネルギーである。

 そして、俺が出したウォーターボールの重量も0.5kgくらいだ。

 そりゃ核爆発を起こしますわ。


 ・・・いや、これだけ聞くと俺があまりにもバカっぽいな。

 弁明をさせてくれ。


 そもそも、俺はマリーの自重緩和を受けて体重が1万分の1になっていた。当然、俺の出すウォーターボールも1万分の1の質量になって出てくると思っていたのだ。

 だが、それは誤りだったらしい。

 マリーの自重緩和の効果は、魔法には効かないようなのだ。


 ・・・マリーが空を飛ぶ時に、水を放射して推力を得ている時点で気づけよと言う話なのかもしれないが、あの時はそんな冷静な判断力は持てていなかった。

 何しろ、死ぬつもりだったし。

 というか、直感に反する現象でもあるしな。

 どこからエネルギーやって来たんだよ!

 まぁ魔法だからと言われればそれまでだが。




 というわけで、俺達は命を落とすことなく邪神を討伐することが出来た。

 こちらが受けた被害といえば、空絶のマントと神の靴がボロボロになって使えなくなってしまったくらいだ。邪神の討伐と引き換えと考えれば、小さいものだろう。


 その後、最後の試練を攻略できたからか、俺達の前に神様が現れた。

 といっても、見た目は只のボヤッと光る玉だったから神々しさとか微塵もなかったが。

 声も機械音声みたいな感じだったし、元の世界に帰るかどうかを聞かれただけだ。

 リカちゃんが。

 どうやら、俺はイレギュラーだったらしくその資格はないらしい。

 ま、帰る気もなかったけどね。


 リカちゃんは、しきりに俺たちにお礼を言った後で元の世界に帰っていった。

 この世界での知り合いも殆ど居ないらしいし、当然の判断とも言える。


 それに、俺とマリーが辛そうな視線をリカちゃんに向けていたのが、いたたまれなかったのかもしれない。

 リカちゃんの姿を見ると、俺もマリーもどうしてもチャーリーの事を思い出してしまうからな。



「はじめ、モモ見なかった?さっきまで庭で魔法の練習していたんだけど」


 回想に耽っていると、キッチンからマリーが出てきてそんな質問を投げてきた。


 ちなみに、モモってのは俺とマリーの子供の名前だ。



 あの日邪神を討伐してから、俺とマリーはチャーリーを失ったことによる喪失感と向き合うことになった。

 チャーリーの遺志を叶えるという目標を無事に達成することができてしまった。死ぬつもりだった俺達は、この先何をすればいいのか分からなくなって、ただ悲しみに暮れていた。


 傷をなめ合うようにして二人でずっと一緒に、死んだように暮らしていた。


 そして、半年ほど経った頃だろうか。このまま悲しんでいてもチャーリーは喜ばないと考えて、俺達はもう一度前を向いて生きることにしたんだ。

 とはいえ、冒険者として生活すると過去を思い出して辛かったから、ファンタジスタを離れてここで喫茶店を経営することにした。

 モモを授かったのはここで働き始めて三ヶ月後の事だった。



「見てないな。というか、また魔法を教えてたのか?まだ早いと思うんだが」


 ちなみに、マリーは教育ママなのか3歳の娘にもう魔法を教え始めている。

 まだ舌っ足らずで詠唱もろくに出来ていないし、俺は5歳くらいから教えたほうがいいんじゃないかと思ってるんだが。


「何事も早くやり始めたほうが有利になるのよ。もしモモが冒険者になりたいって言った時に、魔法が使えたら便利でしょ?」


「まぁそうだが。冒険者か・・・」


 チャーリーのことを思い出して、つい言葉を飲んでしまう。


 あれから俺は、冒険はおろか走ることさえもしなくなった。

 魔物を倒したり走ったりしていると、どうしてもチャーリーの事を思い出してしまう。

 楽しかった思い出だけならいいが、チャーリーが死んだ時のこともフラッシュバックするからな。

 避けるようにしている。


 冒険したいというのはこの世界に来た目的でもあったが、それはチャーリーとマリーと三人でやったあの冒険で十分だ。

 あの楽しかった日々があれば。

 俺はもう。


「森の方に行ってしまったのかもしれん。結界が有るから大丈夫だとは思うが、探してくるよ」


 俺は湿っぽい考えを振り払うようにして、はっきりとした声でマリーに答えた。

 今はちょうどランチタイムが終わったくらいで、お客さんもあまり居ない。数分なら、店から出ても大丈夫だろう。


「分かったわ。家の敷地から出ていたら、叱っておいてね」


「ああ。たぶん」


 マリーはモモに対してけっこう厳しい。

 というより、教育熱心なんだろう。俺はモモが可愛すぎて叱ることが出来ないから、そのかわりをやってくれているのかもしれないが。


 そんな事を考えながら、入口の扉を開けて外に出る。

 最近は暖かくなってきた。

 桜が咲いてキリマウンテンがピンク色に染まっている。


 綺麗な光景に眼を奪われながらも、辺りを見回してモモの姿を探していく。

 しかし、家の敷地内には居ないようだ。

 こりゃマリーの説教確定だな。


 モモの姿を探して、キリマウンテンを登っていく。

 上の方で物音がした気がするからだ。

 この周囲には魔物よけの結界が張ってあるし、物音を出すのはモモか修行に来た冒険者くらいだ。


 数分ほどで開けた場所に出る。

 すると、金髪の少女が手を振り回しながら何かやっているのが見える。背丈的にも、おそらくモモだろう。


「出ない!詠唱はあっちぇる筈にゃにょのに?」


「ほんとか?」


 うん?よく見ると誰かと会話しているな。

 木に隠れて相手の姿は見えないが。

 少し左に歩いて木を避けつつ、モモが顔を向けている方を見た。


 すると、そこには銀髪の女の子が立っていた。

 あの子何処かで見たこと有るな・・・


 あ!思い出した。

 シュタインの研究所で製作されていた子だ!

 前にシュタインと会ったときは魂の錬成が全く上手くいかないと嘆いていたはずだが、立って会話が出来ているところを見るに、成功したんだろうか?


「待っててね。えっと。【言いちゃいことも言えないこんにゃ世の中じゃ、ポイジュン!】」


 お、あれは俺オリジナルのポイズンじゃないか。

 詠唱が出来てないせいで発動はしていないが・・・マリーはあんな強力な魔法まで教えていたのか。

 あれは他の人に見られたら詠唱を知らない奴だと思われるリスクも有るし、モモにはまだ早いと思うんだが。


「反○やんけ!!」


 ほら、銀髪の子にも突っ込まれて・・・


 ん?


 ・・・


 いや、まさかな。


 でもこのツッコミは。


 ひょっとすると。


 そんな思考が頭をよぎった途端、俺は


 数年ぶりに走り出していた。


 運動不足が祟って、走り方は不格好だ。

 それでも、逸る気持ちを足に乗せて前へ前へと進んでいく。

 地面を蹴った衝撃が足を伝わってくる。

 久しぶりのこの感覚。

 心臓がバクバクと胸を打った。



 どうやら俺の冒険は、まだ終わっていないようだ。



これにて「駿足の冒険者」の本編は終了です。

多少強引な部分もありましたが、ハッピーエンドで終わることができました。


近日中に溜まっている閑話や後日談などを追記する予定ですので、暇ができた時にでもまた覗きに来て頂ければと思います。


回収できなかった伏線も結構あるので、ひょっとしたら続きを書くかもしれません。ですが、一旦ここで終わりとしたいと思います。


長い間お付き合い頂きまして、本当にありがとうございました!

(お時間があれば評価をお願いします ʕ•ٹ•ʔ )


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