114 チャーリーの追憶13
時計台を降りた私とマリー・モニカさんの三人は、シルビア王子が決めた警備のフォーメーションに従って行動を開始した。
まず、モニカさんは屋上に配置された。
密偵部隊特製の双眼鏡を持っていて、広い範囲を監視できるからや。
そして、シルビア王子は時計台の周りに、私とマリーは最終防衛ラインである望遠室に配置された。
理由としては、最大戦力である私が一番重要なところに居たほうが良いって考えのようや。そして私との連携が取りやすいマリーも同じ場所にということらしい。
特級魔法を使えるのが私しかおらんことやし、この決定に不満はない。
私とマリーは望遠室の中で、キャペルニクスとはじめの会話を聞きながら敵の襲来に備えた。
その後、走る角度を正確に測れないせいでピンチに陥るトラブルはあったが、はじめが考えた【ナイフを投げる】というアイデアで何とか事なきを得た。
そして遂にその時がくる。
【くらえ!】
ツインペアからはじめの声が聞こえる。
どうやら、エクスの本拠地に向けてナイフを投擲したようや。
【当たれぇ!】
はじめが作戦の成功を神に祈り始めた。
こうなれば、私も祈るしかあらへんな。私も神やけど!
「「「「「当たれぇぇぇ」」」」」
気がつけば、皆で声を出して成功を祈っていた。
私、マリー、キャペルニクス。そして、望遠鏡の調整を手伝ってくれた避難民の人たち。
全員で大声を出した。
そして、はじめの声を待つ。
・・・
【よっしゃ!やったぜ!】
ツインペアからはじめの声が聞こえる。
どうやら、作戦は成功したようや!
「やった
【うぉ!!】
私が歓声をあげようとした時、ツインペアからはじめの焦った声が聞こえた。
どうしたんや!?
はじめの身に何か起きたんか!?
【どうした?はじめ殿、大丈夫か!?】
焦る私の横で、キャペルニクスがはじめの安否を確認している。
【いや、大丈夫だ。無事に敵の本拠地を破壊できた。一瞬、本拠地の大爆発に巻き込まれたかと焦ったが、シールドのおかげで無事だったし】
ツインペアからはそんな返答が聞こえた。
どうやら問題ないらしい。
ふぅ、焦って損したわ。
思わずマリーの方を見ると、ちょうどマリーもこちらを向いたところだったらしく、顔を見合わせてしまった。
「「ふふっ」」
緊張から解き放たれて、思わずお互いに笑ってしまった。
その時、
「GYAAAAAAAAAA!!!!」
獣の叫び声のような大きな音が辺りに響き渡った。
そして、声に少し遅れて建物が大きく振動を始めた!
何やこれ!?
揺れに耐えつつも、様々な可能性を考える。
「チャーリーさん、マリーさん!すぐに屋上まで来てください!エクスが来ました!!」
モニカさんが望遠室の扉を開いて、上ずった声でそう叫んだ。
エクスが攻めてきたやと?
くっ、こんな時に。
「チャーリー!行きましょう!」
「せやな!」
私とマリーは揺れる時計台の階段を、全速力で駆け上がった。
数十秒ほどで、屋上に着く。
「見てください!南に一体、北に四体です。南にいる一体は明らかにこちらに敵意を向けています」
辺りを見渡すと、北の方には米粒程の白い点が4つ見える。肉眼やと分からんけど、あれがエクスってことか。
そうすると南には、
「なっ!?」
振り返って南の方角を確認すると、そこにはイブの城壁をよじ登っているエクスの姿があった。
もうココまで接近しとったんか!
「KISYAAA!!」
南のエクスは城壁を登り終えると、こちらを見て威嚇してくる。
そして、胸の辺りに魔力を貯め始めた。
上級魔法を遥かに凌ぐ量や、あれは不味い!
「ファイアーランチャー!」
「ストーンバレット!」
マリーとモニカさんが魔法で応戦してるけど、全く効いてない。
どうやら、特級以上の魔法やないとダメージが通らんってのは本当のことみたいやな。
「GIYAAAA!!」
分析してる間に、エクスが魔法を発動した。
突如として小さなビルほどの大きさがある炎の塊が現れ、こちらに飛来する!
「ウィンドディザスター!」
私は咄嗟に特級魔法を行使した。
手のひらから出現した風の刃が、エクスの出した炎と衝突する。
「くっ!」
魔法の衝突により発生した暴風で、思わず吹っ飛びそうになってしまった。
何とか地面に伏せることで耐えていると、南の方から破壊音が聞こえてくる。
音がする方を見ると、エクスがこちらに向かって歩いてきていた。
「マリー、モニカさん!一旦撤退して・・」
後ろを振り返ったが、二人の姿がない。
・・いや、入り口の壁近くに人影がある。あれか?
走って近づいて確認する。
そこには揃って気絶しているマリーとモニカさんの姿があった。
どうやら運の悪いことに、私の魔法の余波で飛ばされてしまったらしい。
「GIYAAAA!!」
エクスの魔法が再び発動されたようや。
南から奴の叫び声が聞こえる。
「ウィンド・ハイ・シールド!」
特級魔法をぶつけると周りへの被害が大きいことが分かったので、上級の防御魔法を使うことにした。
渦巻く風の盾が炎の塊を受け止める。
ただ、力負けしてしまったらしく、小さな炎の塊が飛んでくる。
周りの建物にそれが当たって燃えてしまっているが、時計台には着弾しなかったようだ。
「あかんな・・」
これ以上戦闘が長引くと、時計台に攻撃が当たってしまいそうや。
時計台自体に愛着はないけど、この中の望遠鏡が壊されるとはじめが帰還できずに死んでしまう。
それだけは絶対に避けなければならない。
「グランドホール!」
エクスの歩みに合わせて、足元に大穴を作った。
すると、こちらの思惑通り、足を取られてエクスが倒れていった。
どうやら、エクスの知能はかなり低いらしい。あれだけ攻撃力があるのに、性能がちぐはぐなやつやな。
「ウィンドディザスター!」
このチャンスを逃すわけには行かない。
私はすかさず特級魔法をエクスの頭にぶつけた。
「GIIIIIII!!」
ダメージが通っているようで、エクスが断末魔の叫びをあげ続けている。
風の刃と地面で板挟みにすることで、魔法の威力を全てエクスに伝えることが出来ているようや。
この作戦は有効やな。
私は手のひらに魔力を注ぎ続けた。
「GIIIIIIIIIIYA・・i」
数十秒ほど攻撃を続けていると、エクスの叫びが止まった。
どうやら息絶えたみたいや。
良かった。ギリギリのところやった。
すでに私のMPは0に近い。あと数秒耐えられたら、私が負けてしまってたかもしれへん。
私はエクスの死体を見て警戒しつつ、収納袋から取り出したMP回復用のハイポーションを飲んだ。
体が震え、MPが全快になるのが分かる。
やっぱりポーションは便利や。でも、回復できる量には限界がある。
私の魔力量やと・・・あと1回が限界ってところやな。それ以上飲んでもMPは回復しない。無理に魔法を使おうとするとポーションから直接魔力を吸い出す事になって、体内の魔力回路がぐちゃぐちゃに焼ききれてしまう。
「北の方はどうなってるんや?」
あっちにはエクスが四体いたはず。
流石に私だけでは対応出来へんし、マリー達を起こして作戦たてなアカンな。
そんなことを考えながら顔をあげると、そこには予想外の光景が広がっていた。