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駿足の冒険者  作者: はるあき
3章 周回速度の冒険者
116/123

112 チャーリーの追憶11

時系列は、魔王を倒した辺りです。


 空を飛ぶ私とマリーの眼下には、信じられない光景が広がっている。


「あいつ・・ほんまにやりよった」


 その呟きとともに、再び視線を下にした。この何十年もの敗戦の記憶が邪魔をして、その光景をすぐに受け入れることができなかった。


 でも、いくら見てもそこにある光景は変わらない。

 首と胴体が別れた魔王の亡骸がそこに鎮座している。


 魔王の討伐に成功した。

 それも、全くの犠牲を出さずに。


「はじめ、大丈夫かしら?見たこともない速度を出してたけれど」


 マリーの不安そうな声を聞いて、ボーッとしていた頭を切り替える。

 そうだ。

 あれだけの速度で魔王と接触したんや。

 はじめにも相当のダメージが有るはず。


 そう考えると、背筋に冷たいものが走った。


「急ごう!」


 勝利に浸るのは後や。

 まずははじめを助けてやらな。


 私の言葉を受けて、マリーは更に速度を上げた。

 思わず振り落とされそうになったけど、マリーにしがみついてなんとか耐える。

 そして耐えながらも、森の中を注視してはじめの姿を探した。


 そうしてはじめを探すこと数分。

 ついに、はじめを見つけることができた。


 はじめは少し怪我をしていたようやけど、大きなものでは無かったみたいや。

 ポーションをかけることで、すぐに回復することができた。


 そんなはじめの姿を見て、


「ようやく・・・・ようやく魔王を倒すことが出来たんやな。長かったけど・・ほんまに倒せたんやな」


 私は、ようやく魔王を討伐したという事実を噛みしめることができた。

 数十年の努力が報われた気がして、思わず泣きそうになってしまった。


 けれど、ホッとした表情のはじめや嬉しそうなマリーを見ていると、私も嬉しくなってきて思わず笑顔になっていった。




 こうして魔王の討伐は終わり、第三の試練を攻略できた。

 残る試練はあと2つ。

 今までの傾向を考えると、より強力な敵が出てくるはず。

 しかも、今までと違って未知の戦いになる。敵の動きを予見して有利な戦局を作り出すのは難しい。

 そう考えると、絶望的な状況のかもしれない。


 でも、はじめがいればなんとかなるんやないかと。

 私はそんな希望を持つことができていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 あれから二週間が経った。

 魔王を討伐した恩賞として、貴重な魔道具を3つも手に入れることができた。

 はじめの攻撃力を上げる【オシアナスのナイフ】。空気抵抗を無くしてスピードを上げる【空絶のマント】。遊撃力を上げる【竜王の指輪】。

 どれも非常に強力なもので、私達のチームの戦力は格段に上がったと言えるやろう。


 でも、油断は出来へん。

 第四の試練は魔王以上の敵が出てくるかもしれないという可能性を考えて、魔道具選びははじめの戦力アップを中心に行った。

 つまり、私とマリーはあまり強くなってない。


 もし、はじめが戦えない状況に追い込まれたり、複数の強力な敵が出てきたときは、太刀打ち出来ないかもしれない。

 私とマリーも今まで以上に強くなる必要がある。


 ということで、王子の家庭教師を行うことになったはじめを王都に残し、私とマリーはファンタジスタで魔法の修業をすることになった。

 おそらく次の試練が始まるまで残された時間は少ない。

 それでも、やれることは全力でやっておきたい。


 修行場所には、キリマウンテンを選んだ。

 ここなら修行の名所として認知されているから、大きな魔法を行使しても問題になることはない。

 私とマリーは、魔力回復用のポーションを買い込んで、MPを回復させつつ山に向かって魔法を撃ちつづけた。


 魔法を上達させる方法は色々あるけど、よりランクの高い魔法を使えるようになるには、とにかく魔法を撃ちまくるしかない。そうすることで、魔法が体に馴染んで高ランクの魔法が使えるようになる。まぁ一度の魔法で使える魔力の大きさは生まれつき決まっているらしいから、才能がないと練習しても無駄なんやけどな。


 普通、一つ上のランクの魔法を使える様になるには、最低2年の月日がかかると言われている。でも、私はループを繰り返すことで高ランクの魔法を使う感覚に慣れたからか、比較的早くランクアップすることが出来た。

 前のループでは、3年の間に特級魔法を覚えることが出来たし、今回のループでも既に上級魔法を覚えることが出来ている。


「ウィンドディザスター!」


 そして、たった今。

 再び特級魔法を使えるようになった。

 特級魔法は現在人間が使える魔法としては最高ランク。その威力も凄まじく、私の目の前には粉々に砕かれた木々が横たわっている。

 よし。

 これで、私も少しは試練の攻略の役に立てるはずや。


「凄いわチャーリー!もう特級魔法を使えるようになるなんて、天才よ!」


 横にいるマリーが、キラキラした目でこちらを見つめてきた。

 ・・・なんか、マリーの中で私が過大評価されている気がする。

 私が初めて特級魔法を取得したのは、この世界に来て十年以上も経ったときだった。

 決して私が才能あふれる魔法使いであるとか、そういう訳やない。

 ただただ多くの魔法を使ってきたってだけや。


「まぁ仮にも神様やからな」


 私は恥ずかしさと罪悪感が入り混じったような気持ちになって、少しおどけて誤魔化した。

 第三の試練は突破できたんやし、もうマリーとはじめに全てを話しても良い気がするけど、踏ん切りがつかなかった。

 いつかは打ち明けなあかんな・・・



 その後、マリーに高ランク魔法を早く習得するコツについて聞かれたりもしたが、とにかく魔法を使うんやとしか言いようが無かった。

 実際、私もそれで上達してきたんやし。


 そうやって魔法を撃ちまくって環境破壊(修行)を繰り返していると、日が落ちてきた。辺りが暗くなっていく。


 そろそろ帰ろうかとマリーに声をかけようとしたけど、集中して魔法を打ち込んでいて声を掛けるのが躊躇われた。どうやら、私が特級魔法を習得したことで、マリーの修行意欲に火がついたらしい。



 少しの間そんなマリーを見守っていると、MPが尽きたのか魔法を撃つのをやめた。

 そして、収納袋からポーションを取り出そうとして、辺りを見回す。どうやら、すっかり暗くなっているのに気づいたらしい。


「ごめんチャーリー、夢中になっちゃっていたわ」


 マリーは私の近くまでやってくると、手を合わせて頭を下げてきた。


「全然ええよ、修行に夢中になる気持ちは分かるし」


「ありがとう!・・・でも、これだけ暗くなっちゃうと、今からファンタジスタへ戻るのは難しいわよね」


「そやな。この暗さで空を飛ぶのは危険やし・・・野営しよか?」


「そうね」


 ということで、少し山をくだった辺りで野営することになった。

 丁度よく大きな岩があったので、それを背にしてテントを張っていく。といっても、実際に張ったのはマリーやけど。

 マリーのほうがテント張るの上手いしな。


 その間に、私は夕食の準備を始めた。

 今日の献立はシチュー。

 作るのが簡単で栄養も豊富、野営にはもってこいや。


 テントを張り終えたマリーは、サイドメニューのサラダを作ってくれた。

 パンにシチューにサラダという、これぞ野営飯というメニューが出来上がった。


 それを二人で食べながら、今の光景にどこか既視感を覚えた。

 何だったか。

 あ、


「そういえば、魔王討伐の前夜のご飯もシチューやったな」


 そうや、どこかで見たと思ったら、あの晩や。


「そうだったわね・・・あれからもう2週間経ったなんて、信じられないわ。まだ昨日の事のように思えるもの」


 マリーはそう言うと、空を見上げた。

 ここは街から離れているからか、空が星の光で覆い尽くされている。


「そうやな・・・はじめが魔王を倒してから、もうそんな経ったんやな」


 そう言いながら、はじめが魔王を倒したときのことを思い返した。と言っても、一瞬で決着が着いたから思い返すポイントも少ないんやけどな。いつも通り、高速で接近して首をスパッと切っただけやし。


 倒すのが不可能と思えていた魔王が、あんなあっさりとやられるとはな。

 感心すると言うより、何故か可笑しくなってきて思わずにやけてしまう。


「ふぅ」


 にやけた顔を見られるのが恥ずかしくなった私は、ため息をついて誤魔化してから、シチューを口に含んだ。


「ねぇチャーリー、あなたはじめのこと好きでしょ?」


「ブフゥッ!」


 な、何を言うとるんや。

 突如繰り出されたマリーからの鋭い質問に、思わずシチューを吹き出してしまった。


「いや、そんなんやあらへんよ。大体、私は神様や。人間に惚れるはずないよ」


 そんな我ながら心にもないことを言って、この場は納めることにした。

 はじめへの気持ちは、封印すると決めている。

 それに、はじめの幸せのためにはマリーと結ばれた方が良い。マリーが後ろめたさを感じないためにも、マリーだけには私の気持ちを悟られるわけにはいかない。


 私は神様。

 いずれ居なくなる。

 そして、今まで試練の攻略ペースから言って、その時はそう遠くない。

 そんな私の気持ちなんて、


「そんな事言って誤魔化そうとしても無駄よ。チャーリーがはじめを見る眼を見れば分かるもの。チャーリーがはじめを好きだってこと。そして、はじめがチャーリーを好きだってこともね」


「いや・・えっ?はじめが?」


 はじめへの気持ちを再度否定しようとした時、信じられない情報が入ってきて言葉を飲んでしまった。

 はじめが私を?

 そんなはずは


「あーあ、言っちゃった。でも、二人を見ているとじれったいんだもん。しょうがないね」


 マリーはそう言うと、微笑みながら私の眼をじっと見つめてきた。

 そのまま見つめ合っていると気持ちが見透かされてしまう気がして、私は目線を下にそらした。


「ふふっ。チャーリーって素直よね。もうバレバレよ?」


 くっ。

 焦って分かりやすい対応してもうた。

 どうやら、マリーにはお見通しのようや。


 もうここまできたら、認めてしまったほうがええな!


「そうや!私ははじめのことが好きやで!」


 やけくそになった私は、マリーを指さして大声で宣言した。


「やっと本心が聞けたわね!」


 そんな私に、マリーは嬉しそうな声で反応してきた。

 もうこうなったら、全てさらけ出すしかない!


「なんなんやあいつは!出会ったときから、訳分からんくらいボケ倒して来るし。おもろいし。優しいし」


「うん」


「それに、ありえへんほど強いし!ガリウスを瞬殺とかどういうことや!魔王を瞬殺とかどういうことや!」


「うんうん」


「おかげで!おかげで、私は・・!」


 そう、私は救われたんや。

 はじめが魔王を倒してくれて。あの絶望的なループから私を脱出させてくれて。


 気がつくと私の瞳からは涙がポロポロとこぼれ落ちてきていた。


「分かるわ、その気持ち」


 と、そんな声が上から降ってきた。

 そして私の体を優しく包むものがある。


 マリーが私の事を抱き寄せてくれていた。


「はじめの事を好きになったのが、あなたで良かったわ。私ね、嬉しいの」


「嬉しいって・・なんで?マリーもはじめのことが好きなんやろ?」


「ええ好きよ。でも、チャーリーのことも好きになったから」


 マリーがそう言うと、私を抱きしめる力が強くなった。


「だからね。試練が終わったら、三人で一緒に暮らしましょ。魔王を倒したんだもの、シュタインに言えばはじめは貴族になれるわ。そうすれば、一夫多妻も許される」


「でも・・でも、マリーは一夫多妻に反対や無かったんか?」


 マリーが提案したその未来が、私には眩しすぎて、嬉しすぎて、無意識に否定しようとしてしまう。


「そうね、反対よ・・でも、チャーリーなら良いかなって、そう思えてきているの」


「でも、そんな・・」


 そんな未来が許されるんか?

 そんな可能性がまだあったんか?

 私は、


「はじめの気持ちなら大丈夫よ。最初のうちは私の事が好きだったけど、最近はチャーリーの事も好きになっちゃって、困っている様子だもの。見てれば分かる」


「でも、私は神様で・・」


「それも関係ないわ。種族が違っても、どんなことが違っても好きな人と一緒に行きていくべきよ。まぁ、チャーリーはリカちゃんの体を借りている状態だから、そこは何か考えなきゃいけないけど・・・シュタインに体を一つ錬成してもらえば良いんじゃないかしら?」


「でも・・人間の体には、本来人間の魂しか適合しないんや。今のこの状態も、異世界転移のタイミングやったから、偶然リカちゃんの中に入れただけで、本来は」


「あ~もう!でもでもうるさい!」


 頭に軽い衝撃が来た。

 どうやら軽く叩かれたようや。軽いはずなのに、その衝撃がじーんと体に響き渡った。


「それも、何か方法があるはずよ!今、こうやってリカちゃんの体に入れているんだから。それよりも大事なことがある!チャーリーは三人で暮らしたいの?したくないの?」


「・・・暮らしたいです」


「なら、それでいいのよ」


 そう言うと、マリーは私のことを再び強く抱きしめてきた。




 それから、マリーと二人で試練が終わった後の事を話した。

 家はこの山の近くの空気が綺麗なところに建てたいねとか。

 喫茶店は続けたいから、家の近くに移転しようとか。

 子供は何人ほしいかとか。

 そんな、他愛もない、夢みたいに幸せな未来の話をした。


 話しているうちに、いつの間にか夜が開けようとしていた。

 私達の未来を祝福するかのように、輝かしい太陽が顔を出していた。


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