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駿足の冒険者  作者: はるあき
3章 周回速度の冒険者
115/123

111 失われたもの


 着水の速度が大きかったらしい。

 減速しながらも、水中をぐんぐんと進んでいく。

 全身が冷たい水で覆われているせいで、体温が急激に奪われていく。


 相当深く潜ったのか、辺りはまっ暗だ。まぁ水中だからどのみちボヤけた視界なんだけど。


 数秒ほどで湖の底に着いた。

 右肩を地面に打ち付けてしまったが、かなり減速していたので衝撃は殆ど無い。

 それよりも息がやばい。

 早く地上に出ないと。

 地面を蹴って水面に向かって上昇していく。

 浮力も手伝って結構な速度が出ているが、光はまだない。


 一分ほどバタ足で上がると、ようやく光が見えてきた。

 どうやら水面はもうすぐのようだ。

 助かった。

 もう息が限界に近い。


「ぷはっ」


 俺は水面に顔を出して、大きく空気を吸い込んだ。

 危なかった。

 もう少しで溺れるところだった。

 次に大気圏再突入する時は着陸の仕方をよく考えないとな。


「いや次なんか無ぇよ」


 自分にツッコミを入れてみる。


 ・・・反応はない。

 どうやら俺1人のようだ。

 あれ。キャペルニクスはどうした?

 腰につけていたツインペアを手にとって確認してみると、そこには魔石が取れてボロボロになった姿があった。

 どうやら、着地の衝撃で壊れてしまったらしい。


 まぁいい。

 どうせココからは、キャペルニクスに案内を頼むことも出来ないからな。

 急いでエクスの迎撃に行かないと。


 まずは場所を確認するために、竜王の指輪の効果で上空へと駆け上がっていった。

 数十mほど上空に行くと、遠くの方にイブの街が見えた。

 ここからそう離れていないようだ。


「急ぐか」


 俺は全速力でイブの方へと走り出した。


・・・・・・・・・・・





 数十秒ほど走ると、イブの街が大きく見える距離に来た。

 しかし街の様子が変だ。

 エクスと戦闘中であるはずなのに、物音一つしていない。


「まさかな・・」


 悪い予感がして、額から冷や汗がたれてくる。


 もしかすると、間に合わなかったのではないか。

 そう思うと、急に寒気がして全身で鳥肌がたった。


 いや、ここはポジティブに考えないと。

 きっとチャーリー達の魔法でエクスを殲滅したんだろう。

 そう思い込もうとするが、悪い想像は止まらない。心臓がどくどくと脈打ち、自然と足が早くなる。


 イブの街に入った。

 やはり、辺りは静まり返っている。


 街の様子を観察すると、俺が出発したときより建物が更に破壊されていて、時計台の東側はほぼ全焼しており、熱を帯びた煙が上がっている。

 煙の火元を注意して見てみると、白い巨大なものがあるのが見えた。


 近づいて確認すると、そこには四肢を破壊された5体のエクスが横たわっていた。

 確か、イブを襲撃したエクスは全部で五体だったはず。

 どうやら、討伐に成功したようだ。


「良かった」


 俺は少し安心して、大きく息を吐いた。


 しかし、何故か気持ちは晴れない。

 何かを見落としているような、なにか重要な失敗をしてしまったような不思議な感覚が残っている。


「なんなんだ・・・早く合流しないと」


 ネガティブな気持ちに押されて、俺は時計台へと早足で向かう。


 少しして、時計台へ到着する。

 周辺の壊滅度合いに比べると、ここは不自然なほど綺麗だ。どうやら、時計台の中の避難民を守り切ることに成功したらしい。


 時計台の下の方にある目印を蹴ると、壁が開く。

 中には出発前と変わらない螺旋階段が鎮座していた。


 俺はモニカがやっていた動作を思い出しながら、螺旋階段の根本をタッチした。

 すると、床が開いて下へと降りる階段が現れた。

 急いでその階段を下ってゆく。


 数十秒ほどで階段を下り終えると、避難所となっている広い空間に出た。

 出発前と変わらず多くのテントが見えるが、人の気配はない。


「どこにいったんだ・・・ロケットのところか?」


 確証はないが、他に行く宛もない。

 俺はキャペルニクスと出会ったテントへと向かい、ロケット置き場へと続く暗い通路を進んだ。


 早足で向かっていると、すぐに光が見える。

 そこからは、ボソボソと話し声が聞こえた。そして、話し声に混じって、誰かの嗚咽も聞こえてくる。


 急いで通路を抜け出して、明るい空間へと出る。



 すると、そこにはマリー・チャーリー・キャペルニクス・モニカ・シルビア王子の5人が揃っていた。

 良かった。全員無事だったのか。


 ほっと息を吐こうとした俺だったが、違和感に気づいてそれを飲み込んだ。

 みんなの様子がおかしい。


 キャペルニクスとシルビア王子は、少し困ったような表情で何かを話し合っており、マリーは地面に崩れ落ちて涙を流し嗚咽している。そして、モニカはオロオロとした様子でそんなマリーの背中をさすっている。

 一番奥にいるチャーリーは、悲しげな表情でマリーを見つめて立ち尽くしている。


 特にマリーとチャーリーの様子がおかしい。

 その雰囲気はエクスを殲滅し喜んでいるといった感じではない、真反対の陰鬱なものだ。


「あっ、はじめ殿。良かった。無事にお帰りになりましたか」


 困惑している俺に、キャペルニクスが気づいて声をかけてきた。

 少し安心した様子だ。


 キャペルニクスの声で俺の帰還に気づいたらしく、モニカとシルビア王子もこちらを見てホッとした表情を浮かべる。


「ああ、キャペルニクスの指示のお蔭で何とか無事に帰ることが出来た。それよりも・・どうしたんだ?」


 そう聞くと、シルビア王子が困惑した表情でこちらに歩いてきて、俺に耳打ちしてきた。


「それが・・・余にも状況がよく分からん。襲来した5体のエクスは、チャーリーさんが瀕死の重体になりながらも討伐してくれた。余やマリーさんが手も足も出ないほど強かったのだが・・正に圧倒的と言って良い、神がかった魔法だった」


 その時の状況を思い返しているのか、うなずきながらチャーリーを見つめるシルビア王子。


「そのおかげで、避難民の皆を守ることが出来た。その恩を返そうと、さきほどイブの宝物庫にあった国宝エリクサーと、余が持っていた癒しの指輪を用いて、チャーリーさんの治療を行った。そのかいあって、無事に一命を取り留める事ができたのだが・・・チャーリーさんに記憶の混濁があって。それを見たマリーさんが泣き出してしまい、もう何がなんやら」


 首を傾げながら、状況説明をしてくれたシルビア王子。

 そんな王子の説明を聞いて、俺の頭の中に最悪のイメージが浮かんでくる。


 それを否定したくて、チャーリーをじっと見つめる。


 俺の視線に気づいたチャーリーが、こちらに向かって歩いてきた。

 しかし、その歩みはどこか辿々しく、ぎこちない印象を受ける。

 近づいてくるチャーリーをじっと見ていると、何故か少し幼くなったように見えた。

 瞳が揺れている。

 いつもの自信に満ち溢れた姿ではなく、まるで弱気な少女のようだ。


 嫌なイメージが脳内で膨らみ、俺の心臓が早鐘を打つように鼓動している

 そんな俺に、チャーリーのような少女が、陰鬱な声で話しかけてきた。


「申し訳ありません。チャーリー様は亡くなりました。これからお話するものは、チャーリー様と私が歩んだ数十年間の追憶です」


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