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駿足の冒険者  作者: はるあき
3章 周回速度の冒険者
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109 神の刃


 俺がさっきまで居た場所が、真っ暗な空間の中、輝くようにそこにあった。

 この星も地球と同じように、青く美しい星だったんだな。


 今まで、地球の観光地とか、異世界の原風景とか、美しいものを見尽くしてきたと思っていたが、そんな気持ちが一瞬で吹き飛んだな。

 これほどきれいなものは見たことがない。


 俺の語彙力ではこれ以上うまく伝えることが出来ない。

 ここは、偉大なる先人・ガガーリンの言葉を借りて言わせてもらおう。


「この星は青かっ【はじめ殿!息はできておるか!?】


 ・・・

 俺の名言をかき消す声が、ツインペアから聞こえてきた。

 キャペルニクスだ。


 今いいところだったのに。

 こいつほんま。


【なんだ?】


 俺は自分でも分かるほど不機嫌な声で応えた。


【おお、無事じゃったか。息が出来ているようで安心したわい・・なんか不機嫌になっておらんか?】


【気のせいだ】


 冷静に考えたら、キャペルニクスが悪いと言うわけではないか。

 考え直した俺は、普通のテンションで応えた。


【であれば良かった。それでは、今から敵の本拠地への道筋を案内するから、儂の指示に従って動いて欲しい。まずは、はじめ殿から見て右方向へ10度、上方向に25度の方向に進んでくれ】


【了解】


 右へ10度上に25度ね。

 ・・・

 いや、そんな正確な角度分からんよ。


【なぁ、この角度ってある程度適当でも良いのか?】


【駄目じゃ。可能な限り正確に頼む。はじめ殿の向かう方向が1度ずれると、本拠地につく頃には数十kmの誤差となってしまうからの】


 なるほどね。

 1度以下の精度が求められるってわけか。

 それ以上ずれてしまうと数十kmの誤差が出て、俺のナイフはかすりもしないということだな。

 ・・・


【いや、無理だろ!そんな角度感覚持つ人間なんていねぇよ!】


 あまりの無茶な要求に、思わずツインペアに向かって叫んでしまった。

 1度て。

 10度くらいならまぁギリギリコントロールできるかなって思ってたところなのに、1度て。


【それは真か!?そうなると作戦を練り直す必要があるな・・】


 ツインペアからは慌てたようなキャペルニクスの声が聞こえてきた。

 まじか。

 宇宙空間で作戦を練り直すのか?

 急いで出発してしまった弊害が速くも出てきたな。


 あの時は焦っていたから気が付かなかったが、よくよく考えたら今回の作戦って穴だらけじゃね?

 ミスった。


【走りながら、キャペルニクスからの指示で微調整は出来ないのか?】


【儂も初めはそうすれば良いと思ってたんじゃが、こちらの望遠鏡を使った計測精度じゃとはじめ殿が数百km以上動いてからじゃないと、速度が出せん】


 まじか。

 こっちの望遠鏡って、そんなに精度悪いの?

 ロケットの完成度の低さから、察しておくべきだったかもしれないが。


【本拠地の到着数十秒前までは微調整の指示を出し続けるが、そこからははじめ殿の主観で調整できんか?】


 俺が色んな事について確認不足だった事に軽く後悔していると、キャペルニクスがそんな無茶振りをしてきた。

 いや、


【無理だ。こっちには基準とするべき物がなさすぎて、距離感がまるで掴めない】


 そう、宇宙にはほとんどものがない。

 たまに隕石チックな物はあるが、それだってどのくらいの大きさかもわからない。

 比較対象がないから、距離感を掴みようがないのだ。


【そうじゃったか。これはまずいな・・】


 俺の回答を受けて打つ手が無くなったのか、キャペルニクスの沈んだ声が聞こえてきた。

 何とかいい案を考えないとな。

・・・・・



 その後、向こうにいるマリーやチャーリーも交えて有効な作戦を考え続けたが、いい案は出なかった。

 本拠地に近づいたら速度を落として接近するというアイデアも出たが、そこを攻撃されてしまっては終わりである。

 俺の奇襲攻撃は奇襲だからこそ強いのだ。

 相手にこちらを発見されてしまえば、すぐにやられてしまうだろう。

 俺の防御力、かなり貧弱だしな。

 敵の攻撃力も、魔王と同程度には強いはず。


 さて、どうすべきか。


【まずい、もう後10分ほどで敵の本拠地近くへ到達してしまうぞ】


 ツインペアから、キャペルニクスの焦った声が聞こえる。

 ちくしょう、何か打開策を考えないと。


 そもそも、今の俺の攻撃スタイルからして、近づいてナイフを振るうくらいしか出来ないのが悪いんだよな。

 マリーやチャーリーの様に魔法で遠距離攻撃できれば良いんだが。

 ・・ん?

 そうか、遠距離攻撃か。


【ひとつ、案を思いついたぞ】


 俺は思いついた豪快なアイデアを伝えるため、キャペルニクスに向かってそう呼びかけた。


【本当か?一体どんな作戦なんじゃ?】


 キャペルニクスが期待を込めた声で聞いてきた。


 ・・・期待させてしまって申し訳ないんだけど、このアイデアめっちゃ雑な考えなんだよな。

 だが、今はこれしか無い。


【俺の案は、ナイフを最大まで伸ばして、敵の方へ向けてぶん投げるという作戦だ】


 そう、簡単な話だ。

 数十kmの近さまで近づいてしまえば位置関係が目に見えて変わるから、距離感は掴めなくとも方向は分かる。

 なら、そこから攻撃してしまえというアイデアである。


 ナイフを投げるだけで巨大施設を潰せるの?って考えもあるが、そこは速度をでかくしてやればいい。

 とある国の軍で開発された兵器で、運動エネルギーを利用した「神の杖」というものある。

 これは巨大なタングステンの棒を物凄い速度でぶつけるという超原始的な兵器だが、凄まじい破壊力を持つ。

 これと似たような事をすればよいのだ。


 作戦名、神の刃である。


【なるほど、そういうことか!ということは、なるべく速い速度で接近した方が良いな?】


 キャペルニクスは俺がやりたいことを察したようで、そんな言葉を返してくれた。


【そうだ!案内は任せたぞ!】


【了解した!それでは、そのままの方向に進んでくれ。速度は倍程上げたほうが良いじゃろう】


【ラジャー!】


 俺はキャペルニクスからの指示通り、速度を倍にして敵の本拠地を目指した。

 速度のコントロールは、足の回転数で調整が効くから楽である。



【最接近まで後2分。そろそろ、はじめ殿からも敵の本拠地が見えるはずじゃ】


 キャペルニクスの言葉を受けて、目を凝らして正面を見てみた。

 すると、正面にゴミのように小さい銀の塊が見える。

 どうやら、あそこが目標地点らしい。


【オーケー。このまま進んでいて良いか?】


【良い筈じゃが・・・そういえば、仮に本拠地に正確に到着できてしまった場合はどうするのじゃ?】


【あ。】


 考えてなかった。


 いや、まずいな。

 今の相対速度で敵の本拠地についてしまうと、俺自身が神の刃になってしまう。

 敵は破壊できても、俺自身も木っ端微塵になるだろう。


【頼む!外れてくれ!】


 もはやここまで来てしまっては調整できない。

 後は神に祈るばかりである。


【うぉぉぉ!頼む神よ!】


 ツインペアからは、キャペルニクスの声が聞こえる。

 そしてその奥の方からは、チャーリーやマリーの声も聞こえる。どうやら、皆で祈ってくれているようだ。

 神であるチャーリーまで神に祈ってるんだ!

 これで当たるわけ無いだろ!

 無いよね?

 頼む!


【見えてきた!】


 ゴミの様に小さかった敵の本拠地が、今はクルミ大ほどのデカさになっている。

 アレとの相対位置からするに・・うん、少しずれている気がする。

 良かった。


【あと2,30秒ほどで最接近する。敵の本拠地の位置が進行方向とズレ始めたら、本拠地を追い越す直前の合図じゃ。そのタイミングで攻撃してくれ】


【オーケー!】


 キャペルニクスの言葉を聞いた数秒後、かなり大きくなった敵の本拠地が俺の下側へと移動しているように見えた。その見た目は、まるで某宇宙要塞のようで、って今はそんな事考えてる場合じゃないな。


 よし、ここだ!


【くらえ!】


 俺はオシアナスのナイフを4mまで伸ばし、本拠地へ向けて投擲した。

 よし、後は


【当たれぇ!】


 再び神に祈るだけである。


【【【【【当たれぇぇぇ】】】】】


 ツインペアからは皆の声が聞こえてくる。

 そんな声をバックに、俺はナイフの行末を見つめながら祈り続けた。

 そして、ナイフを放って数秒ほどたった瞬間。


 敵の要塞が赤く染まった。


【よっしゃ!やったぜ!】


 どうやら、倒せたようだ。

 俺が嬉しさから雄叫びを上げた時、



 眼の前が赤く染まった。


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