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駿足の冒険者  作者: はるあき
3章 周回速度の冒険者
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106 Arumagedone


「ロケット?」


 俺のつぶやきを聞いたマリーが、不思議そうな顔でこちらを見てきた。

 やはり、この世界ではほとんど知名度がないようだ。


 マリーとは対象的に、チャーリーは俺の横ではっとした顔をしている。

 おそらくロケットの存在を思い出したのだろう。物忘れ激しくね?って一瞬思ったが、チャーリーはこっちの世界で三年以上生活してるんだ。もとの世界の事が思い出しづらくなるのも当然か。


「ロケットってのは、簡単に言うと宇宙へ行く為の乗り物だな。あのラッパみたいなところから高速ジェットを噴射して進むんだ。マリーのハイドロ飛行と原理は同じだな」


 俺はマリーにロケットについて簡単な説明をした。

 質量を放出して推力を得るのはマリーも普段やってることだし、こんなもんで伝わるだろう。


「あー、そういうことね・・・あんな巨大な物がジェット噴射の推力程度で飛ぶのかしら?」


 俺の説明は理解したようだが、それだけで馬鹿でかい塔が飛ぶとは思えないらしい。マリーがそんな懐疑的な意見を述べた。

 うん、俺も同意見だ。

 そもそもロケットは、元の世界でも極端に開発が難しい乗り物だったはずだ。酸化剤と燃料を適切に混合・噴射し、膨張させた空気をスロートで加速させる。それぞれの要素が複雑に絡み合い、何か一つでもミスが有ると推力が足りなくて落下するか、異常燃焼を起こして爆発粉砕する。

 こっちの世界の技術レベルで作れるとは思えない。


「流石はシュタイン様が認めた者たちじゃ。もうあれがどんなものか察しがついたようじゃな?」


 ほっほっほっと嬉しそうな声をあげながら、キャペルニクスが俺達に話しかけてきた。


「まぁな。で、これがあるってことは・・・敵の本拠地は宇宙にあるんだな?」


 ほぼ正解だろうと確信しつつ、俺はキャペルニクスにそう尋ねた。


「本当に察しが良いのう。そうじゃ、望遠鏡で確認したところ、地上から4万km程度の距離を保ちながらこの星の周りを周回する巨大構造物があった。そこからエクスが放出されているも確認済みじゃ」


 やはりそうか。

 ってことは、Arumagedone的な作戦になりそうだ。

 4万kmっていうと・・・静止軌道より少し高いくらいか?となると周回速度はそこまでは早くなさそうだが。


 いや、この星が地球と同じ質量とは限らないし、そもそも万有引力定数も違うかも知れんから当てにはできんか。そもそも質量の発生機構も違うかも。地球だと確かヒッグス粒子で説明できるんだったか?あれで説明できるのは慣性質量であって重力質量の方はまだ未解明だったっけ?

 だめだ、俺の乏しい知識では整理できんな。

 キャペルニクスに聞いてみよう。


「そいつの周回速度はどれくらいなんだ?」


「ざっと8km/sってとこじゃな。この星の自転や公転から出しておるから、誤差は大きいじゃろうが」


 なるほど。第一宇宙速度くらいの速さか。

 ・・・いや、これも地球と違うか。もういい。深く考えるのはよそう。


「今までの技術では、そんな速度のものになど到底手出しできんかった。しかし、転生者の残した書物にあのロケットの事が、なんと挿絵付きで記されておったんじゃ!」


 続けて、興奮したように語るキャペルニクス。

 やはり転生者がもたらした知識だったか。

 この世界のものにしては、明らかに技術レベルが高すぎるもんな。


「その書物にも概要しか書かれておらんかったから開発には苦労したが、ついに先日!地上での燃焼試験に成功し、宇宙空間に行ける確証を得たんじゃ!!」


 目を見開きながら言葉を並べ立てるキャペルニクス。


 って、地上での燃焼試験しかしてないのかよ!

 飛行試験はどうした!?


「ちなみに、飛行試験は?」


「しておらん!というかエクスが周辺をうろついておるから、できんのじゃ」


 そういえば、エクスがいるんだったな。

 そりゃ飛行試験は出来ないか。


「というわけで、はじめ殿にはこのロケットに乗って敵の本拠地に攻撃を仕掛けてほしいんじゃ。ロケットは完成したものの、攻撃力の高い者たちはみなエクスに殺されてしまってな。途方にくれておった所だったんじゃ」


「はじめよ、頼めないだろうか?」


 キャペルニクスの言葉に続いて、シルビア王子も俺にお願いをしてきた。

 王子の願いだし、断りにくいが・・飛行試験をしてないのが不安すぎる。

 ロケットの構造とかを聞いて、安全性を判断するしかないか。


「回答の前に、まずはこのロケットの仕組みについて詳しく教えて貰えますか?」


「もちろんじゃ!ついてきてくれ!」


 俺が質問すると、キャペルニクスは嬉しそうにそう言ってロケットの方へと歩き始めた。

 どうやら開発したロケットについて、説明したくてしょうがないらしい。


 歩いて少しすると、ロケットを見上げる位置までたどり着いた。

 近付いて見ると、めちゃめちゃでかい。地球にあったロケットよりも大きい気がする。

 大迫力だ。


「基本的には中で空気を燃やして、あのラッパのような所で加速させて推進力を得る仕組みじゃ。ラッパの形状については、挿絵の形を完全再現しておる」


 ・・いきなり不安な発言が出てきたな。

 図面ならまだしも、挿絵程度の物を完全再現してどうする。

 流量とかに合わせて、拡大率とかちゃんと計算してくれよ。


「さらに、ロケットの先端の角度も、書物の挿絵の形を完全再現じゃ。空気を切り裂くようにして進むらしい」


 だから計算してくれよ。

 このロケット、いまんところ不安しかねぇぞ。


「燃焼はどうやってさせてるんや?」


 チャーリーも不安になったのか、つっこんだ質問をしてくれた。


「燃焼は炎の魔道具を使っておる。このロケットいっぱいに魔石を詰め込んでおるから、宇宙空間まで燃え続けてくれるはずじゃ。宝物庫にある魔石を全部使ったから、数年分の国家予算が消し飛んでしまったが」


 なるほど、魔道具を使ってるのか。

 それなら安定した燃焼はしてくれそうだな。


 ・・・ん?でもちょっと待てよ。

 魔石をいっぱいに詰め込んでいると言うが、酸化剤はどこにあるんだ?


「これ、酸化剤はどこに積んでるんだ?」


 不安すぎるので聞いてみた。


「酸化剤??」


 俺の質問の意味がわからなかったのか、ポカンとした表情を浮かべるキャペルニクス。

 ん?ひょっとして、魔法で燃やす場合は酸素いらないのか?


 ・・いや、そんなはない。

 前にマリーが洞窟の中にファイヤーアローを放ったとき、明らかに酸欠になって炎が消えていた。

 魔法で燃やすにしろ、酸素は必要なはずだ。


「燃焼には新鮮な空気がいるだろう?どうやってるんだ?」


 俺は言葉を言い換えて、再度質問した。


「ああ、そういう質問じゃったか。空気は先端の部分から取り入れておる。それを中段にある風の魔道具で加速・圧縮させて、燃焼させるんじゃ」


「・・・・・・なるほど」


 つまりこれ、ロケットエンジンじゃなくて只のラムジェットエンジンじゃねえか!

 大気圏に近づいた途端、燃焼が止まるやつだよ!


 つまるところこのロケットは、数年分の国家予算がかかったゴミである。


「どうだ?説明を聞いて、行っても良いという気持ちになったか?」


 俺が納得したとでも思ったのか、シルビア王子がそんな事を言ってきた。

 行っても良いどころか、絶対に行きたくないという気持ちになったんだが。


 かと言って、面と向かって王子の頼みを断るのはまずいしな。このロケットの問題点を、丁寧に説明するしかないか。


「このロケットですが、いくつか問題点があります


・・・・

 俺は数十分もの時間をかけて、如何にこのロケットが使えないかを説明した。


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