105 天文学者キャペルニクス
今回短めです。
王子に連れられてやってきたのは、壁の近くにある黒く大きいテントだった。
テントの表面にはすりつぶした貝殻が散りばめられていて、プラネタリウムみたいな見た目になっている。なかなか洒落たつくりだ。
「入るぞ」
テントをまじまじと見ていた俺達をよそに、王子がテントの中へと入っていった。
慌てて後を追う。
「これはシルビア王子。どうされました?」
中に入ると、白いひげを地面すれすれまで伸ばした、いかにも魔法使いといった風貌の爺さんがいた。
というか、テントの中にはこの爺さんしかいない。
おそらく、シルビア王子が紹介したい人というのは、この爺さんなのだろう。
「喜べ。我々が待望していた弾頭爆弾候補が見つかったぞ」
「おお!それは真ですか!?」
「ああ。しかも戦力はシュタインのお墨付きだ」
「それは頼もしいですな!」
俺達をほったらかして、なにやら二人で盛り上がり始めている。
そんで物騒な単語が聞こえたな。
弾頭爆弾ってなんだ?
「盛り上がってるとこ悪いんですが、紹介してもらえないですかね」
このままだと状況が把握できそうにないので、王子をせっついて紹介してもらうことにした。
「そうだったな。キャペルニクスよ、この男が期待の戦力である冒険者のはじめだ」
俺の言葉に応じて、シルビア王子がそんな紹介をしてくれた。
「ほう、この方が・・はじめまして、儂はルーラ聖国の魔法学校で火魔法と天文学を教えているキャペルニクスというものじゃ。よろしくお願いしたい」
「はじめまして。冒険者のはじめです。宜しくおねがいします」
いきなり連れてこられたので何によろしくすりゃいいんだか全く分からないが、とりあえず挨拶を済ませた。
「それでは早速じゃが、はじめ殿に見せたい物がある。ついてきてくれるじゃろうか?」
「・・・まぁいいですけど」
また移動か。
今度はどこにいくつもりなんだ?
「こっちじゃ」
そう言ってキャペルニクスはテント奥の布にある暖簾のようなものをくぐって、さらに奥へと歩いていった。
このテントは壁に隣接していたはずだが・・隠し通路でもあるのか?
疑問点はつきないが、とりあえず追いかけることにした。
暖簾をくぐると、中は細長い通路になっていた。明かりが入っていないため、暗くてほとんど何も見えない。壁面を触るとゴツゴツしている。小さめの洞窟にでも入っていっているみたいだ。
三十秒ほど歩くと、奥の方に光が見えた。
どうやら出口が近いらしい。
「ここじゃ」
先導するキャペルニクスに続いて通路を出ると、そこは先程の避難所の二倍ほどもの大きさがある巨大空間だった。
中には、様々な工具や魔石が散らばっており、雑然としている。
自動車整備工場とか、こんな雰囲気なんじゃないだろうか?
そしてこの空間の中心部には、20mはあろうかという白く巨大な塔のようなものが建っている。
これはもしや・・
「なんやこの建物は?地下にこんなもの建てて、どないするっちゅうんや」
俺の後ろからやってきたチャーリーが、塔を発見するなりそんなコメントを入れた。
どうやら、チャーリーは気づいていないらしい。
「そうね・・灯台にしては先細っていて変な形だし、時計台にも見えないし。何かしら?」
次いで出てきたマリーも、これの正体はわからないらしい。
そりゃそうか、まさかこっちの世界にこんなものがあるとは思わないもんな。
でも俺には分かる、これが何なのか。
20mはあろうかという大きな塔。
先端は先細っていて、空気の抵抗を極力減らすような形になっている。
そして、塔の下には巨大なラッパのようなものが幾つも付いている。燃料でも吹き出そうとしてるんじゃないかと、そんな邪推をさせるフォルムである。
うん。
間違いない。
これ、
「ロケットだ」