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駿足の冒険者  作者: はるあき
3章 周回速度の冒険者
107/123

103 作戦開始


 王都を出た俺達は、直ぐにルーラ聖国の首都イブに向けて移動を開始した。俺は走って、マリーとチャーリーは空を飛んで。

 既に日が落ちてたので、【セキュアライト】で辺りを照らしながらの移動となった。しかし、思ったよりライトの光が強かったので、昼間と変わらない速度を出すことができた。


 ただ、ライトの光量がすぎて隠密性がゼロになってしまったので、セーラ聖国の国境に入る直前で仮眠をとることにした。

 セーラ聖国の警備兵(生き残っているかは不明だが)に敵と認識されて攻撃されたら困るからな。


 3時間ほど仮眠を取ると、日が昇って辺りが明るくなっていたので移動を再開した。

 そこから移動し続けること約2時間。

 遂に、ルーラ聖国の首都イブの近くまで来ることができた。つい先ほど【イブまであと5km】と書かれた看板を通過したので、もう数分で到着するだろう。

 だが、モニカの情報によると、この辺りには例の化物がうろついているはずだ。

 慎重に動く必要があるな・・・


 そんな事を考えていると、マリーとチャーリーが徐々に高度を下げて俺の前に着陸した。


「そろそろ例の化物がおるかもしれへんからな。目立たんように歩いて移動しよか」


 チャーリーはビックイーグルから降りてくると、そう言った。

 今まさに俺が考えていたことだな。


「そのほうが良いだろうな」


 俺はチャーリーの意見に同意した。


 そして、そのまま三人横並びで歩き続けること数十分。眼の前にイブの外壁が見えてきた。

 姿を現すかと思われていた例の化け物とは、まだ遭遇していない。

 順調にイブに接近することができた。

 しかしこれは、


「想像以上にやられているな」


 俺達の眼の前には、想像以上に凄惨な光景が広がっていた。


 外壁の一番高い部分を見ると10mほどの高さがあるので、壊される前は頑強で巨大な壁だったのだろう。しかし、今はその殆どが破壊されており、中の街並みが丸見えになっていた。

 そこから見える街並みも酷い。ほぼ全ての建物は焼け焦げているのか真っ黒で、とても人が住めるような環境では無いように見える。

 たとえ戦争が起きたって、あそこまでボロボロになることは無いだろう。それくらい破壊しつくされている。


「酷いわね・・」


「どんな化物と戦ったら、あんな被害がでるんや」


 マリーとチャーリーもショックを受けているらしく、歩くのを止めて立ち尽くしている。


 崩壊したとは聞いていたものの・・実際に様子を直視すると事態の深刻さが嫌というほど伝ってくるな。

 これは不味い。

 一国の首都がこれだけのダメージを受けるということは、間違いなく天災レベルの敵が現れたと言っていいだろう。いや、首都どころか一国が滅んだと考えたほうが良いかもしれない。


「ここで立ち止まるのはまずい。早く街の中に入ろう」


 俺はそう言って、二人の前を先導するように歩き始めた。

 例の化け物が外をうろついている以上、ここに居るのは危険だ。早く街の中に入って王子との合流を目指すべきだろう。


「せやな」

「そうね。早く合流しましょう」


 二人も同感だったようだ。

 俺の後をついてきた。


 その後、数分ほどかけてイブの街中へ入った。

 階段も破壊されていたので、外壁の壊れたところを足場に進むしかなかったせいで、思ったよりも時間がかかってしまったが、なんとか中に入ることができた。


 中に入ると、イブの街並みの酷たらしさがより一層伝わってきた。

 なにせ、辺りに硫黄と下水の匂いが混ざった様な酷い臭気が立ち込めていて、道のいたるところに焼死体が転がっているのだ。

 ずっと見ていると吐いてしまいそうなので、なるべく直視しないようにしているが、それでもきつい。胃から何かが込み上がってくる。体調が悪くなってきた。


 マリーを見ると、険しい表情で口元を抑えている。かなりきつそうだ。

 チャーリーは平気そうな顔をしているな。こいつの精神力を分けてもらいたいもんだ。


 俺はより多くの情報を得ようと、街道沿いの民家に視線を移した。家は殆どが焼かれ崩れ落ちている。よほど高温で焼かれたのか、殆ど消し炭のようになっていて、元がどんな建物だったのか分からない。

 本当にひどい状況だ。


 救いがあるとすれば、まだ生きている人間には出会っていないところか。

 おそらく、生き残った人達で固まって何処かに潜伏しているのだろう。見捨てられた人は居ないらしい。

 王子もそこに居るんだろう。


「そろそろモニカって密偵に連絡したほうがええんやないか?」


 俺がこの凄惨な状況をなるべく前向きに捉えようとしていると、チャーリーが平然とした様子でご尤もな意見を言ってきた。


「そうだな」


 ここであれこれ考えていても仕方がない。

 早く合流すべきだろう。


「よしっ」


 俺はそう言って自分に喝を入れて、気持ちを切り替えることにした。落ち込んでいる場合じゃない、俺達は王子を救出しに来たんだ。

 まずは、モニカに連絡して合流しないと。


 俺はシュタインから貰った【ツインペア】の青い魔石に触れた。

 すると、魔石の色が赤に変化して光り輝き始めた。どうやら、ちゃんと使えそうだ。


「こちらはじめ。イブの街中に入りました。オーバー」


 ・・・言った後で気がついたが、オーバーの意味は通じないかもしれない。


「こちらモニカ。承知しました。私達は今、街の中心街にある魔法学校に潜伏しています。バーロー」


 やはり通じていなかったようだ。適当な語尾に変わって返ってきた。

 バーローって。

 適当に語尾を変えようとして罵倒が出てくるところがモニカらしい。まぁ本人確認ができたと喜んでおくか。


「了解。そちらに向かいます。魔法学校の目印はなにかあるか?オーバー」


「魔法学校には大きな白い時計台があります。今となっては街で一番高い建物なので、わかり易いはずです。時計台の下まで来たら、また連絡をください。バーロー」


 モニカの言葉を受けて周りを見渡すと、奥の方に大きな白い塔が見える。

 時計が掛かっているのかは分からないが、多分あれだろう。


「了解。すぐ向かう。オーバー」


「お待ちしています。バーロー」


 俺は通信を終えると、魔石に再度触れて電源を切った。

 よし。これで無事に合流できそうだ。


「あの白い塔に向かえばええんやな?」


 チャーリーが街の奥に見える白い塔を指差して言った。

 どうやら、聞こえていたらしい。


「ああ、あそこに潜伏しているようだ。急ごう。例の化け物に見つかるとまずい」


 救助しに来たやつが敵を引き連れてきたのでは、笑い話にもならない。

 というわけで、俺たちは小走りで時計台の元へと移動した。


 方向を考えると、時計台へは街の大通りを使えば良いようだ。俺達は迷うことなく進む。


 時計台の方へと進めば進むほど、通りにある家の損傷は酷いものが多くなり、焼死体の数も増えていった。

 どうやら、街の中止部を中心的に攻撃されたようだ。

 魔法学校が壊されなかったのはなぜだろう?かなり中心部に近いはずだが。

 教員が結界を張って耐えたのだろうか。


 そんな事を考えながら走っていると、直ぐに魔法学校へと到着した。

 魔法学校はファンタジスタにある学校と、殆ど同じ佇まいをしている。流石に門や校舎がところどころ壊されて居るものの、周りの建物と比べるとその被害は小さい。

 門番も居なかったので、勝手に門を開けて中へと入った。

 そのまま広い校庭を横切って時計台の元へと走る。

 よし、


「無事に到着できたな。白い化物につけられたりしてないよな?」


 走っている間も後ろを確認してはいたが、念の為二人にも聞いてみた。


「大丈夫みたいや。化物どころか人っ子一人おらへん」


「犬や魔物も居なかったわね。これだけ何も居ないと逆に不安になるけれど」


 二人とも化物は見ていないようだ。

 というか二人の言う通り、街に入ってから生物を一切見てないからな。街中にうろついてる犬とか、ハエやトンボなんかの虫に至るまで。


「おーけー。それじゃ、連絡する」


 とはいえ、今は気にしている時間はない。

 俺は【ツインシグナル】の魔石を押して、通信を開始した。


「こちらはじめ。時計台の下に付きました。オーバー」


「こちらモニカ。承知しました。迎えに行きますので、1分ほどお待ち下さい。オーイェー」


「了解。オーバー」


 俺は返事をして通信を切った。

 どうやら迎えに来てくれるらしい。

 ・・・語尾がまた変わってたな。何か良いことでもあったのか?



「お待たせいたしました」


 そのまま数十秒ほど待機していると、時計台の下の壁が開いてメイド姿のモニカが現れた。

 壁が扉になるとか、忍者屋敷みたいだ。そこ開くのかよ。


「いや、そんなに待ってない。時計台に潜んでいたのか」


「ええ。私も初めてきたときは驚きました。というかこの仕掛けのせいで、シルビア王子との合流が遅れてしまいました」


 忌々しげな表情で扉を見つめながら、そう吐き捨てるモニカ。

 そういえば、モニカは通信手段が無いなかで王子と合流したんだったな。よく見つけられたもんだ。


「色々と聞きたいこともあるでしょうが、ここに居るとまずいので早く合流しましょう」


 そう言うと、モニカは時計台の中へと俺たちを招き入れた。中に入ると、そこには大きな螺旋階段があり上へ上へと続いている。

 まぁ時計台だからな。階段くらいしか無いだろう。


「私達はこの地下に潜伏しています」


 モニカはそう説明しながら、螺旋階段の開始点にある床を触った。すると、床が開き下へと続く階段が現れた。

 どうやら隠し部屋のような所があるらしい。


 数分駆けて階段を下へ下へと降りていくと、開けた大きな空間に出た。下は砂利を含む地面になっているので、ここが時計台の最地下なのだろう。

 中には沢山のテントが張ってあり、チラホラと食事をしたり話している人たちの姿が見える。大人から子供まで様々だ。テントの数から考えると、百人近くがここに避難しているようだ。見た目だけなら大きなキャンプ場のように見える。

 しかしキャンプ場とは異なり、皆が一様に暗い顔をしている。

 当たり前か、街が崩壊しているんだ。


「シルビア王子はこちらのテントに居ます」


 俺たち三人が辺りを見回していると、モニカが一つのテントを見てそう言った。大人が7-8人入れそうな大きなテントではあるが、周りと比べて特に高級といった感じはしない。

 どうやら、特別扱いはされていないようだ。


「モニカ、ただいま帰還しました」


 モニカがテントに向けてそう声を掛けると、中から金髪の若い男が出てきた。年は10代後半と言ったところか。

 顔を見ると、少しソラシド王子に似ているような気がする。おそらくこの男がシルビア王子なのだろう。


「よくぞ無事に戻ってくれた」


 シルビア王子はそう言うと、嬉しそうな表情でモニカに抱きついた。

 どうやら、モニカは王子様に好かれているらしい。

 対するモニカの表情は冷ややかで、直立不動で王子の抱擁を受けている。ソラシド王子の世話をする時のような柔らかな表情はそこにはない。

 ソラシド王子が特別好かれているのか、シルビア王子が嫌われているのか。どっちだろう?


「こちらがシュタイン様の話にあった、冒険者のはじめ様です」


 と、モニカはシルビア王子に抱きつかれたまま、淡々と俺たちを紹介してきた。

 こいつ、どんなメンタルしてんだ?


「はじめまして。冒険者のはじめです」


「同じチームのマリーです」


「同じく、メンバーのチャーリーです」


 とはいえ、王子の前で紹介をスルーすることはできない。

 俺たち三人は、モニカに抱きついたままのシルビア王子に向かって簡単な挨拶をした。


「あ。君達がシュタインの褒めていた冒険者か。今回は救助に来てくれてありがとう」


 シルビア王子は慌ててモニカから離れると、俺たちに丁寧にお礼を言ってくれた。

 顔を若干赤くしているのを見るに、俺たちの存在に気がついてなかったらしい。なかなか、可愛らしいところがある王子である。


「さて、シュタインからは君たちと共に王都へ帰還するように言われているが・・その前に色々と話したいことがある。ついてきてくれ」


 シルビア王子は息を大きく吐いて落ち着きを取り戻した後、そう言ってテントの中に入っていった。その後をモニカが追う。


 丁度いい。こちらも例の化物の生態や紫の雲の目撃情報など、聞きたいことはたくさんある。

 俺たちは王子やモニカに続いて、テントの中へと入った。


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