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駿足の冒険者  作者: はるあき
3章 周回速度の冒険者
105/123

101 王子救出作戦


「は!?」


 ルーラ聖国が崩壊?あの国、ここラース王国と同じくらい巨大な国だったはずだよな。

 それが崩壊するって、一体何があったんだ?


「我々も今朝この情報を掴んだばかりでな。詳細ははっきりしないところがあるのだが」


 そう前置きをした後、シュタインは持っている情報を全て教えてくれた。

 まず、シュタインが異変を感じたのは二週間程前のこと。

 シルビア王子はルーラ聖国で光系統の魔法を学ぶために現地の魔法学校へ留学しており、そこで学んだことをシュタインに報告していた。週に一回の頻度で、通信魔導具を使用して。

 しかし、その日はシルビア王子からの通信がなかった。俺は連絡忘れただけでは?って思ってしまったが、シルビア王子はマメな性格らしく定期連絡を忘れることは考えられないとのこと。

 そこでシュタインは、国王に相談し密偵部隊の隊長をルーラ聖国へと偵察に向かわせた。しかし、この時点では通信魔導具の故障や電波障害の可能性もあったため、そこまで差し迫った事態ではないと考えていたと言う。

 その予想が外れたと気がついたのは、今日の朝。密偵部隊の隊長から、ルーラ聖国が完全に崩壊しているという報告が入った時だ。


「その崩壊したってのは、具体的にどうなった事を指してるんだ?」


 俺は気になったことを聞いた。

 魔物にでもやられたのか、他国の侵略を受けたのか。それによって、起こっている事態の深刻さが変わってくるはずだ。


「それがよく分からんのだ」


「よく分からない?」


 シュタインにしては、歯切れの悪い言葉だ。


「先に行った密偵の話を聞いたところ、ルーラ聖国の首都イブにある建物はほとんど壊されていて、中央にある大聖堂に至っては跡形もなく消えさっていたとのことだ」


 首都の建物がほぼ全て破壊されるとは。

 ・・駄目だ、何が起きたのか全く想像できない。


「そうか・・じゃあ、情報は殆ど無いのか」


 残念だ。


「少しだがある。シルビア王子が留学していた魔法学校は壊れていなかったらしくてな、密偵はシルビアと合流することに成功したらしい」


 ほう、そうなのか。

 ということは、まだ王子が生きているってのは間違いないらしいな。


「シルビアから聞き出した話によると、ある日突然白い人型の化物が襲って来て、首都を破壊したらしい」


「白い人型の化物?」


 なんだそいつは?

 魔物ではなさそうだが。


「正体は不明だが、騎士団の攻撃も魔法部隊による魔法攻撃もほぼ全てが弾き返されたらしい。あそこの魔法部隊はこの大陸でも1,2を争うほどの火力を持っていたはずだ。それを防ぐってことは、最悪魔王クラスの強さってことも有りうる」


 シュタインは暗い表情でそう言うと、重いため息を吐いた。

 魔王クラスの化け物か・・これはもう、次の試練が始まっていたと考えて間違いないだろう。確認するようにマリーとチャーリーに目を向けると、俺の目を見てうなずいてくれた。

 二人共同じ意見のようだ。


「それじゃ、俺達にはその化物の討伐を頼みたいってことだな?」


 試練とくれば、戦うほかない。

 ということで、俺は討伐を申し出た。

 魔王レベルが相手となると、ルーラ聖国には太刀打ち出来る奴が居ないだろうしな。俺たちでやるしか無いだろう。

 しかも、前にシュタインから聞いた話だと、ルーラ聖国は勇者が魔王の手下に殺されたせいで、大幅に戦力を落としているはずだし。


「そこまでは頼んでおらん・・・おいおい頼むかもしれんが、まずはシルビアの救出が優先だ。シルビアの身の安全を考えると一日でも早く帰国させたいが、首都の周りを例の化物がうろついているせいで、安全に移動できないらしいからな。はじめ達には移動するシルビアの護衛を頼みたい」


 そう言うと、シュタインはローブから銀のネックレスを取り出した。


「これは国宝級魔導具の【ツインペア】だ。2つで1セットになっていて、これがあればどんなに離れていて、どんなに魔力が淀んでいても通信を行うことが出来る」


 説明をしながら、俺にそれを手渡してくるシュタイン。

 受け取ると、見た目よりもずっしりと重い。ネックレスには大きな魔石が紐付いており、この魔石の魔力で通信を行っているのだろう。


「これと対になっている物はルーラ聖国にいる密偵が持っている。これを使って、明日中に密偵や王子と合流し、この国まで戻ってきてくれ。魔石を触ればリンクが繋がって会話ができる」


 なるほど、これを使って合流するわけか。

 ん?


「そのルーラ聖国に向かった密偵ってのは、どんなやつなんだ?」


 知らない奴だと、密偵がネックレスを敵に奪われていても識別できない。「俺だよ俺、密偵だよ」とか言われると、信じてしまうぞ。


「ああ、それなら問題ない。はじめもよく知る人物だ。モニカだよ」


「は!?モニカ?」


 あいつがラース王国密偵部隊の隊長?ソラシド王子の専属メイドじゃなかったのかよ!


「(なあ、モニカって誰なんや?)」


 シュタインの迫力に気圧されてこれまで口を噤んでいたチャーリーが、俺に耳打ちして質問してきた。


「(ソラシド王子に魔法を教えに行った時に居たメイドだ。密偵だとは知らなかったが)」


 今にして思い返せば、メイドなのに紅茶を淹れなかったり、不自然な点はあった気がする。

 だが、それ以上に不自然な動き(いきなり剥き身のサバを手渡してきたり、王様をイジってきたり)が多すぎて見逃してしまっていたな。あれをわざとやってたとしたら大したもんだ。


「モニカは国王が信頼を置く数少ない部下だからな。それに戦闘力も王国で五本の指には入る。ソラシド王子のメイドに扮してあの場に居たのも、有事の際に動けるためにだ」


 ・・なるほど。

 つまり、俺はまだ国王から全然信頼を得ていなかったらしい。

 ま、当たり前か。初めて会ったのが2週間前だし。そこでも十分ほどしか会話してないし。

 俺より部下や勇者のほうが信頼出来るだろう。

 ん?


「そういえば、勇者はこの作戦には参加しないのか?」


 一応、この国の最高戦力だったはずだよな?

 国王からも信頼されているだろうし。


「あいつらなら、既に向かわせた。だが、恐らく間に合わんだろうな。ルーラ聖国の首都イブは、ここから600km離れたところにある」


 シュタインは少し残念そうな顔をしながら、そう答えてくれた。

 600kmか、確かに厳しいかもな。

 早馬で移動しても、休憩などを考えると一日100kmが限界だと言われている。ということは、イブに辿りつくまで最低6日はかかる。

 首都の周りには例の化物がいることを考えると、手遅れになる可能性が高い。


「それだけ遠いと厳しいな」


 俺は率直な感想を述べた。


「そうだろう?そこで、600kmをすばやく移動できるやつは誰か居ないかと考えた結果、はじめの事を思い出したわけだ。戦力としても申し分無いしな」


 なるほど、そう言う事だったのか。

 頼れる相手として認識されていたというのは、嬉しいことだな。

 強さではなく速さで思い出すあたりに、なんか腑に落ちないところはあるが。


「というわけで、可能な限り早く救出に向かって欲しい。必要なものがあればこちらで用意する。ひとまず、魔力回復用のポーションと治療用ポーションを収納袋に入れて用意してある。三人とも持てるように収納袋を2つ用意したから、持っていくと良い」


 シュタインはそう言うと、2つの収納袋を俺に手渡してきた。


「ありがとう」


 俺は礼を言って収納袋を受け取った。

 中を見ると、赤と緑のポーションが9個ずつ入っている。中にあるポーションは今まで見た中で一番綺麗で澄んだ色をしている。ポーションは色が澄んでいるほど効果が高いとされるので、かなり高級なものを用意してくれたみたいだ。流石はシュタイン。


 俺はそれぞれの収納袋からポーションを3つずつ取り出した後、収納袋をチャーリーとマリーに手渡した。

 これで、もしはぐれてしまっても全員ポーションが使うことができる。ありがたい。


 あとは、必要なものとしては何かあるかな?


「俺は他に必要な物思いつかないんだけど、二人はなにかあるか?」


 思いつかなかったので、二人に聞いてみた。


「うーん、私も特に思いつかないわね」


 収納袋の中身を確認しながら、嬉しそうな顔で答えるマリー。

 うん、気持ちは分かる。収納袋って、買ったら高いからな。


「携帯食料が欲しいとこやな。普通の食材ならはじめの収納袋に入っとるけど、現地で調理する時間があるか分からへんからな」


 収納袋をチェックしながら、真剣な表情で答えるチャーリー。

 なるほど、携帯食料か。確かにあった方が良いな。

 今回は緊急性が高い作戦だし、キャンプ飯を作る暇なんて無さそうだし。


「携帯食料か。それなら非常用のがここにあったはずだ」


 チャーリーに返事をしながら、入り口近くにある高級そうな棚を漁るシュタイン。


「あったこれだ」


 どうやら、発見したようだ。

 振り返ったシュタインの手には、銀紙で包まれたタバコケース程度の大きさの携帯食料が握られていた。


「これは、俺の研究所で密偵部隊用に開発した携帯食料だ。味は割と不味いが、これ一つで一日分のエネルギーを補給することができる」


 割と不味いのかよ。

 どうせなら美味いのくれよって言いたいところだが、この非常事態に文句を言ってる場合じゃあないか。


「ありがとう」


 俺は文句を言うのを止めて、シュタインから携帯食料を受け取った。


「さて、他に必要な物はないか?」


 と、シュタインが再び聞いてきた。

 俺は特に思いつかなかったので、チャーリーの方を見た。


「周辺を照らす魔導具があればほしいところやな。今から移動となると、夜中に飛行せなあかん。最低でも500m先くらいを照らせる光量が必要や」


 なるほど、ライトの問題があったな。

 王都に来た段階で既に日は落ちかけていたし、外はもう真っ暗だろう。

 暗闇を進むのに光源は必須だ。


「500m先か。それなら、


 シュタインはそう言うと、また高級そうな棚を漁り始めた。

 どうやら今回欲しいものは深いところに収納されているらしく、辺りには大小様々な魔導具が散らばり始めた。


「あったこれだ!」


 数分後、シュタインは目的のものを発見したらしい。その手にはバスケットボールほどの大きさの水晶玉が握られていた。


「これは、【セキュアライト】という魔導具で、日中に貯めた太陽光を放出してくれる。今は満充填してあるから、一日程度なら持つはずだ」


 そう説明するシュタインから、水晶玉を受け取った。

 重さは1kgくらいか?見た目よりは軽い気がする。


「さて、他にはないか?」


 シュタインが急かすように質問してきた。


「俺は特に無いな」


「私も」


「私もや」


 シュタインの質問に、三人共すぐに返事をした。

 本当ならもう少し考えたいところだが、そんな時間が無いのはシュタインの焦っている様子からも伝わってきている。

 マリーとチャーリーも、その辺りを感じ取ったようだ。


「そうか。なら、早速で悪いが出発してくれ。これがラース聖国までの地図だ。シルビア王子の事を頼む」


「ああ、分かった。行ってくるぜ!」


 俺はシュタインから地図を受け取って、宿を後にした。

 そして、俺たちはラース聖国へと向かった。


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