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駿足の冒険者  作者: はるあき
3章 周回速度の冒険者
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097 修行の成果と魔導具(2)


 さて、次は【空絶のマント】の性能を確認するか。

 俺は収納袋から、シルクのような肌触りの白いマントを取り出した。


「これ、シュタインが絶賛してた魔導具やな」


 宝物庫でのことを思い出したのか、そんな事を言ってくるチャーリー。

 うーん、絶賛していたというより、術式が複雑過ぎて解析できずにキレていたといったほうが近い気がするが。

 まぁいいか。

 とにかく、空気抵抗を無くす魔導具だったはずだ。


「これの性能検証って中々難しいわね」


 と、マリーが重要なことを言ってくれた。

 そうなんだよね。

 空気抵抗がなくなるって、走ってみて感覚として実感するしかないから、なかなか評価しづらいんだよな。


「とりあえず、羽織って走ってみるわ」


 論より実験だ。

 俺はマントを羽織って(魔法使いみたいな格好になった)山の外へ向けてクラウチングスタートの体勢をとった。


「その構えはどうしてもやらなきゃいけないの?」


 毎回俺がとる独特の構えに戸惑ったのか、マリーがそんな指摘をくれた。


「これをやると、スタートダッシュが速くなるんだよ」


 まぁ今はやる必要ないんだけどね。

 急いでないし。

 完全に気分の問題だ。


「じゃ、行ってくるぜ!」


 俺は二人にそう言い残して、ファンタジスタの方へ向けて走り出した。

 最初はゆっくりと、そして徐々に足の回転数を上げていく。するといつものように、数秒ほどで時速100km程度まで加速した。


 体に掛かる力としては・・・

 ほう、確かにいつもよりずっと抵抗が少ないな。マントに覆われている首から下はほとんど風を感じないぞ。

 逆に顔にはバシバシ空気が当たっているんだが。


「うーむ。顔に風が当たると、結局スピードアップにはつながらないな」


 というかむしろ、スピードダウンしそうだ。

 速度を上げて音速を超えると、衝撃波が出て抵抗が段違いに大きくなる。その時、顔だけ強い抵抗を受けたら、バランス崩して転んでしまうだろう。

 今くらいの速度なら、前傾姿勢になればバランスを取れるんだけどね。


「何か対策が必要だな」


 まさか抵抗が減って困る事が出てくるとは。

 何か方法はないだろうか?

 ・・

 あ。そうだ!

 顔ごとマントで覆えば良いんじゃないか?


 俺はそう思って、マントを首から外して顔を覆った。

 その瞬間


「ぬおおおおおおおお!!!」


 体にかかっていた抵抗が急になくなり、俺は超加速した。体が強く後ろに引っ張られ、内臓が殴られたようなダメージを受ける。

 ヤバイ!

 俺は慌てて足の回転数を落とした。


 すると、徐々に体にかかるGが弱まっていった。

 どうやら、加速は止まってくれたようだ。

 だが、速度が出すぎている。前はマントで覆われているので見えないが、後ろにあるキリマウンテンが遠ざかるスピードから考えると、とっくに音速は超えているだろう。


「まずいな。いつ何に衝突してもおかしくない」


 俺は思い切ってマントを脱ぎ去った!

 すると、


「おお!!!」


 一気に風の抵抗が戻り、急減速し始めた。

 感じている抵抗の大きさから言って、音速の1.5倍くらいだろうか?やはりかなりの速度を出してしまっていたようだ。


 ファンタジスタの壁がかなり近づいていたので、俺は強引に軌道修正してファンタジスタの街を通り過ぎた。


「危なかった!」


 マントを被ったまま走っていたら、2,3秒でファンタジスタの街の壁に衝突していただろう。

 九死に一生を得たぜ、全く。


 このマントも、取扱には細心の注意が必要だな。マントで顔を覆うだけで死にかけるとは思わなかった。

 オシアナスのナイフといい、国宝級の魔導具は性能がピーキー過ぎて使いづらい。


「さて、戻るか」


 とはいえ、戦力アップのためにも使いこなせるようになる必要があるよな。帰り道は、頭をマントで覆いつつ小走りくらいの走力で帰ってみるか。

 よし!


 俺は再び頭からマントを被って、キリマウンテンの方へと走り出した。

・・・




「ただいまー」


 ようやく帰ってきたぜ。

 俺は木の下に座って雑談していた二人に声をかけて、帰還を伝えた。


「おかえりー、って。なんか疲れてない?」


 俺の表情から何かを察したのか、マリーが心配そうに声をかけてきた。


「このマント、性能が高すぎて使いづらくてな・・・」


 オシアナスのナイフと同じく、取扱い注意だ。

 危険情報を共有するためにも、さっき起こったことを正確に伝えないとな。


「まず、これを羽織ると覆われた部分は空気抵抗ゼロになった」


 俺はマントを掲げながら、基本機能について説明する。


「そうか、そこは事前に聞いたとおりやったっちゅうわけやな」


 コクコクとうなずきながら、嬉しそうに相槌を打つチャーリー。手に入れた魔導具の性能が高かったことを、純粋に喜んでいるようだ。

 いや、しかしな


「問題はその性能が高すぎることだ」


 喜んでばかりはいられないんだよなー。


「性能が高すぎるってどういう事や?ええことやん」


 チャーリーはまだピンときていないらしい。


「空気抵抗がゼロになるってことは、走ったときの抵抗がほぼ足裏の接触抵抗だけになるってことだ。でも、俺の靴は特別製だからなのか、接触抵抗がほぼない」


 接触抵抗が無いってのは、さっきのハプニングで気がついたことだ。

 あれ程の速度で走っていたんだから、もし接触抵抗があればあれほど急加速はしなかっただろう。

 しかし、そうはならなかった。

 足を回転に比例して、どんどん加速していったのだ。


 つまり、今までは空気抵抗の大きさに埋もれて実感として良くわかっていなかったが、この神の靴は接触抵抗をなくしてくれていたようなのだ。

 走る方向への力と、自重を支える垂直方向の力だけを取り出して伝えてくれる機能があるようだ。


「なるほど、つまり自分の想定以上の加速をしてしまうってことやな」


 チャーリーがこの機能の怖さに気がついたらしい。


「そうだ。ちなみに、さっき俺は走っている最中に頭からマントを被ったせいで、急加速してそのGに押しつぶされそうになったぞ」


 間抜けな話だが、二人が同じミスをしないためにも、ここは話しておかないとな。


「ええ!?大丈夫だったの?」

「怪我はしてないんか!?」


 俺がそういった瞬間、二人とも心配そうな顔でそう言ってきた。

 ありがたい。


「大丈夫!もうそれほど影響は残っていないぜ」


 俺は二人を安心させるため、サムズ・アップしつつそう答えた。


「念の為、ポーション飲んどき」


 が、俺のやせ我慢だと思ったのか、チャーリーがカバンからポーションを取り出して渡してきた。

 大丈夫なんだけどな。


「チャーリーの言う通り、飲んでおいたほうが良いわよ。内蔵系へのダメージって、自覚し辛いらしいし」


 マリーも眉をへの字にして心配そうにしながら、チャーリーに賛同した。

 自覚し辛いと言われると、怖くなってきたな。

 ありがたく頂いておくか。


「ありがと」


 俺はチャーリーからポーションを受け取って、ゴクゴクと飲み干した。

 すると、お腹の辺りが少し軽くなったような感じがした。どうやら、ダメージが残っていたようだ。


「思ったよりも危険そうやし、これも取扱には注意せなあかんな」


 ポーションを飲み干して、俺が一息ついていると、チャーリーが苦い表情でそういった。


「そうね。オシアナスのナイフもだけど、国宝級の魔導具になるとメリットもデメリットもとんでもないわね」


 厳しい表情で同意するマリー。

 ・・・なんだか、雰囲気が暗くなってしまったな。


「次の【竜王の指輪】は大丈夫だろ!なにせ、空が走れるようになるだけだからな!」


 せっかく戦力アップして嬉しいはずなのに、暗くなるのは勿体無い。

 ということで、俺はテンションを上げて、次の魔導具の検証に取り掛かることにした。


「そうやな!まさか気合抜くと空から落ちるなんてことは無いやろし、次は安心やな!」


 チャーリーも俺の意図を察したのか、ノッてきてくれた。

 フラグみたいなことを言うのは辞めてほしいが・・・


 ちなみに、マリーはまだ気持ちが切り替わってないらしく、【空絶のマント】をじっと見ていた。


「よし!じゃ、竜王の指輪出すぜ!」


 もう勢いで始めてしまおう。

 ということで、俺は収納袋から【竜王の指輪】を取り出した。そして、それをそのまま人差し指に嵌める。


「どや?何か体に変化はある?」


 チャーリーが興味津々といった表情で、俺に使い心地を聞いてくる。


 だが、指輪をつけてもあまり変化がない。

 試しに歩いてみる。


「普通に歩けるな・・」


 今度は、空を歩こうと思って歩いてみる。


「おっ」


 凄ぇ!空中を歩けたぞ!

 空中に足場があって、それを踏んでる感覚だ!

 なんだこれ、楽しい!


「空歩けとるやないか!」


 チャーリーが目を見開いて、驚いていた。

 見た目のインパクトは、3つの魔導具の中でも最高かもしれないな。


「これ面白いぞ!」


 俺は調子に乗ってどんどん上の方に歩いていく。

 普通に階段を登るのと同じ感覚で登ることができる、おもしれぇ!


 そのまま三十秒ほど登っていると、チャーリーたちが小石くらいのサイズに見えるくらいまで高い位置に来た。


 周りを見渡すと、青い空に白い雲、そして遠くにはファンタジスタの街が見える。

 最高の景色と開放感だな!

 空中で静止して、こんな景色が見られるなんて。


「これは、二人にも味わってほしいな」


 俺は景色を堪能するのをやめて、二人の待つ地上へと下っていった。


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