我らポストハーベスト
課題「窓」
タイトル「我らポストハーベスト」
登場人物
田島ジーン徳利(17)高校二年生、ベ
ース
高橋エリック洋介(17) 高校二年生 、
ギター
水野亜里香(18)高校三年生、ピアノ
先生(40)英語の先生
◯放課後の教室
ジーンは教室のロッカーの上で寝
そべる。
エリックは机の上の真っ白の五線
譜ノートに向かって唸る。
ジーン「エリック、これからどうすん
の?」
エリック「田島、ポストハーベストは
休止中だから、今は高橋洋介だ」
ジーン「ギターとベースだけじゃ、や
ってけないの?」
エリック「静かすぎるし、そこまで引
っ張る技量がない・・」
ジーン「じゃあ、エリックが歌えばい
い」
エリック「それはダメだ。ポストハー
ベストは楽器そのものの音色の良さ
を伝えるインストゥルメンタルバン
ドって前にも言っただろ」
ジーン「技量も無いのにねぇ。そうい
えば、『ポストハーベスト』ってどん
な意味だっけ」
エリック「今更かよ。歌詞のメッセー
ジを伝える訳でもない」
ジーン「サンプラザからLINE来た」
エリック「アイドルや奇抜なファッシ
ョンもない」
ジーン「向こうの学校で早速バンドに
入って、V系のドラムやってるって」
エリック「チャラチャラした腐りきっ
た音楽界に一石投じる『防腐剤』とし
て、それがポストハーベストだ」
ジーン「あ、サンプラザ、いきなり彼
女できたって! 結構可愛いよ!」
エリック「俺の話聞けよ!」
ジーン「やっぱり前にそれ聞いてたわ
ー」
エリック「あー! ドラムがいなくな
って学祭前にピンチなのに、中野の
やつ彼女出来やがったのかー!」
ジーン「ぼやくなぼやくな。さっさと
曲書いちまいなよ」
エリック「簡単に言うなよな!」
ジーン「ドラムいなくなったからって
ギャーギャー言うなよな!」
教室の扉が開く。
ジーンは素早く掃除用具入れに入
る。エリックは五線譜ノートをしま
い、キャンパスノートと入れ替える。
先生「高橋! 単語の書き取りは終わ
ったか?」
エリック「いや・・、まだです・・」
先生「まだ真っ白じゃないか! こん
なところで腐ってるんじゃないぞ!
終わるまで帰さんからな!」
教室の扉が閉まる。ジーンが出てく
る。
ジーン「うえっ! 屁こいちゃった・・」
エリック「くっさ!」
エリックは窓を開ける。
向かいの校舎の窓から水野が二人
を見て笑っている。
エリック「笑われてるし・・」
ジーン「音楽科のやつだね」
水野は気を取り直してピアノでカ
ノンを弾く。
エリック「ドラムの代わりにピアノっ
てのもいいなぁ」
ジーン「やめとけやめとけ。うちら普
通科とはわけが違うんだ。それに連
中はお嬢様で高飛車ばっかりだから、
相手にされないって」
エリック「・・・」
ジーン「・・どうした」
エリック「・・我慢ならねぇ!」
エリックがアコースティックギタ
ーを取り出す。
ジーン「おい! 何すんだよ!」
エリックは耳コピで見様見真似で
グチャグチャなカノンを弾く。
ジーン「あーあ、やっちゃった・・」
ジーンは恥ずかしそうに耳を塞ぐ。
ピアノは一瞬止まるが、エリックに
合わせるようにゆっくり弾き始め
る。エリックはそれに乗って弾く。
ジーン「乗ってるな・・」
一通りカノンが終わる。
エリック「次はこれだ!」
エリックは『ヘイ・ジュード』を弾
く。エリックはアドリブを交えなが
弾くと。ピアノも対抗するようにア
ドリブをかける。
ジーン「・・・」
ギターは往年のロック。ピアノはク
ラシックを交互に繰り出す。
ジーンは詰まらなそうにサンプラ
ザからのLINEを眺め始める。
エリック「いけるいける! これだ!
田島、曲が見えて来たぞ! お前もベ
ース弾いてみろよ」
ジーン「嫌だ。ほんと調子いいやつだ
よな」
エリック「これが音楽だよ! あの子
にピアノやってもらおうよ!」
ジーン「急に調子をコロコロ変えやが
って。女にうつつ抜かしてんじゃね
ーよ!」
エリック「なんだ? 早く曲書けとか
言ってたのは誰だよ!」
ジーン「チャラチャラしたくねーとか
言ってるけど、今チャラチャラして
んじゃねーか!」
エリック「なんだと? 俺がいねーと
何もできねーくせに! 一人でバン
ド作ってみろよ!」
ジーン「一人でバンド作りましたって
顔しやがって!」
ジーンは椅子と机を蹴り飛ばす。
教室の扉が開く。
先生「何やってんだー!」
こっ酷く怒られる二人。
◯次の日、放課後の教室
先生が見張る中、二人は英単語を
黙々とノートに書き写す。
ピアノは『コシファントゥッテ』の
28番のアリアを奏でる。途中で何度
もミスタッチを繰り返す。窓のカー
テンは閉められている。
先生「中野が転校したからか、そうじ
ゃないかわからないが、お前ら大丈
夫か? 先生もバンドやってたから、
応援したい気持ちもあるが、学生と
して最低限のことはやることはやる
んだぞ」
二人は小さく「はい」と頷く。
先生は教室を出る。
二人は座ったまま黙っている。
◯校門前
二人は黙ったまま、距離を置いて校
門を出る。
後ろから水野が現れる。
水野「あの、ポストハーベストの人で
すよね?」
エリック「あ、もしかして昨日のピア
ノの?」
水野「そうです。昨日は楽しかったで
す。いつも教室で練習してますよね」
エリック「見られてたんだね。俺はギ
ターの高橋で、後ろにいるのはベー
スの田島。おい、挨拶くらいさ・・」
ジーン「・・どうも」
◯コンビニ前
三人は輪止めの縁石に座り、ガリガ
リくん(棒突きアイス)を舐める。
エリックと水野はソーダ味。
ジーンは黄色いパイン味。
エリック「へー、水野さん受験生なん
ですね」
水野「この間、国公立の音大の推薦試
験だったんだけど、落ちちゃって・・、
ピアノもう止めようと思ったんだけ
ど、昨日の高橋くんのギター聞いて
たら、またピアノが楽しくなったよ」
エリック「忙しいかもしれなけど良か
ったら、来月の学祭、ポストハーベス
トのメンバーととして出ませんか?」
水野「私で良かったら是非!」
エリック「早速、これからバンド練習
しようか!」
田島は何も言わずに去る。
水野「あれ?」
エリック「いいよ、放っておこう」
◯公園
田島はジャングルジムの天辺で電
話をかける。
田島「サンプラザー」
サンプラザの声「なんだ? 昨日はエ
リックから電話あったぞ?」
◯音楽科教室
エリックと水野はギターとピアノ
を弾き合う。
エリック「その部分はそうじゃなく
て・・、えっと・・」
水野「え?どうやってやればいいの?」
エリック「だからさ・・・」
次第にぎこちなくなる。
◯公園
ジーン「そうだよな、じゃ」
ジャングルジムの天辺に座るジー
ン。アイスはすっかり溶けている。
溶けたアイスはジャングルジムの
底の地面に滴る。
アイスの棒を見つめるジーン。
◯音楽科教室
完全に停滞している二人。
どこからともなくベースの音が聞
こえる。
エリックは窓を開ける。
◯教室
ジーンはガリガリくんソーダ味を
くわえながら、恥ずかしそうにベ
ースを弾く。
ベースにのっかるようにギターと
ピアノが入る。
エリック「おーい、水野さんのバンド
ネームはマーキュリーにする!」
水野「えー!」
ジーンはアイスをくわえたまま弾
き続ける。
ジーン「ガリガリくん当たった!」