4話 魔王
戻るのはいいが如何せん恥ずかしい。俺はエルの後ろに継いで歩いていく。ほんの数分歩いただけですぐ戻ることができる。
「シャキッとしなさいよね」
「かっこつかないから、お前のせいににして自分のプライドを保つわ」
「クズ」
「うっ」
エルさん。そんなストレートに言わなくても......彼女に睨み付けられ目のやり場がない。足下を見て時が過ぎるのを待つか。
しかし異世界と言えばモンスターが出てくるのがチュートリアルみたいらしいがいないな。
「お戻りになられてどうなさったのですか?」
最初に話し掛けられたお爺さんか。他の人は家に戻っているみたいだな。聞きたいことだけ聞いて早くここから離れるか。
「実はこの世界のこと何も知らなくてさ。知っている限りでいいから教えてもらえないか?」
「本当馬鹿よねユウキって」
「エル。ちょっと黙っていろ」
エルが口をはさむからややこしくなる。
「立ち話では申し訳ない。どうぞわしの家にあがって下され」
「ありがとうおじさん。エル行くぞ!」
「言わなくても行くわよ」
お爺さんのご好意に甘えて、家にお邪魔することとなった。木造でできた普通の家だ。少し年季が入っているが住めなくはないだろう。家の外には薪がくべられており斧もある。昔ながらのスタイルだな。電気やガスは通っているのかな。エルは人の家で薪を勝手に触っている。天使学校は一体何を教えてきたんだ。教養分野が愚かになってるぞ。行く機会があったら校長に問い詰めてやる。
「さぁ遠慮なくお入りください。狭い家で申し訳ないです」
「いえいえそんなことは。立派なお家ですよ。ではお邪魔する」
「お邪魔しまーす」
「薪を外に置いてこいエル」
「いいじゃん。減るもんじゃないし」
「汚れるだろ!」
なんで俺が常識を1から教えなくてはならないんだ。気付いたら溜め息をついていた。そんなやり取りを側で見ていたお爺さんは微笑ましそうに、
「勇者様。良いんですよ。わしの家は元から汚いので」
お爺さんに気を使ってもらってはこちらとしても申し訳ない。
「おじさんもいいって言ってるし」
「貸せ! 俺が置いてくる」
「あー もう!」
エルの片手から薪を奪い取り、所定の位置へと戻しにいった。彼女は膨れっ面で文句を言ってきたがシカトした。これでゆっくりと話が聞ける。
▽ ▽ ▽
「勇者様に何からはなすべきじゃろう。では魔王についてかの。大地を焦がし世界を破滅寸前まで追い込んだ最大の悪者。名をドーマという。ドーマの姿を遠目からしか見たことはないんじゃが空から黒い槍を降らせ大地はみるみる腐っておった。後に【ブラックレインの悲劇】として今もなお語り継げられておる。黒いマントに身を包み、紫色の瞳。決して地上には降りない。人々の中では【神出鬼没の黒槍】と恐れられている」
「なんて奴だ! 魔王ドーマとやら許せん。そのドーマは神出鬼没と呼ばれているのはどうしてだ?」
「読んで字のごとくじゃ。50年以上前に姿を表した以降今日まで奴は現れんかった。理由は定かではないのじゃが」
「では奴の居場所も分からないと?」
「すまんの。だが最近になってドーマの姿を見たというものがちょくちょくおっての」
「勇者が転移してきたことと関係してるの?」
エルが悩みながらもお爺さんに尋ねる。
「詳しいことは分からんのじゃ。所でお嬢さんは勇者様の側近でおられるのかの」
「違うわ。訳あって転移させられるはめになっただけ」
理由なぞいえるわけないか。神様にお仕置きとして転移されたなんて。よっこいしょっと椅子から立ち上がったお爺さんは、
「疲れたじゃろう。コーヒーでも飲んでいきなされ」
「コーヒー?」
首を傾げるえる。俺はカフェイン中毒になるほどコーヒーが大好きだ。
「飲んでみればわかる。お二人とものみなされ」
「ありがとう」
「どうも」
俺は黙ってコーヒーをすする。豊潤な薫りが口の中いっぱいに広がって、うまい。さてと本題に戻るとしよう。
「俺はまだ転移したばっかで魔王討伐だなんて現状できっこないんだ。そこでだ。手っ取り早く強くなる方法はないだろうか?」
「それならば、此処から東へ行くとクラウス王国がある。クラウス王国にはギルドが存在しておっていろんなクエストを受けることができるぞ。その前に勇者様のステータスを測ってもらうとよいじゃろ」
「ありがとうおじさん」
「ありがとね」
お礼をしてお爺さんに別れをした。
▽ ▽ ▽
村を出て数分後早速モンスターに遭遇してしまった。ヌメっとした物体がこちらへと接近してくる。俺の知っている中では恐らくスライムに似ている。
「モンスターのおでましか。エルはみているだけでいい。俺だけでやる」
「じゃあがんばってね」
エルは草原に座り込んだ。スライムは口を大きく開けて襲いかかってくる。俺は反復で即座に右ステップをしてかわす。そしてひきづってきた槍を持ち上げて、
「そいや!」
命中した。みるみるうちにスライムはしぼんでいきゼリー状に散らばった。たいしたことなかったな。
「なかなかやるじゃない」
立ちあがった彼女は上から目線で拍手をして近付いてくる。
「当然だ」