3話 村の人気者
これが魔法の力か。光の中で自分が分子かされてどこかへとおれは飛ばされる寸前だ。不思議なことに痛くないむしろ心地よい気分だ。
癒されている様な感覚。睡魔に襲われるなこれは。
「さよならエクソダス。そして現世の俺。勇者として異世界に旅立ちます」
「急にどうしました? 頭がおかしくなってしまわれたのですか」
「敬語使えば何でも許される訳じゃないんだよ。ガブリエルさん」
「一つ言っておきます。さん付けで呼ぶのやめてください。気持ち悪いです」
「こいつ......」
転移するのにはある程度時間がかかるらしい。というのも分子化してから飛ぶまでにおよそ10分かかるらしい。魔法の割りに不便だなぁと思う。それは置いといてガブリエルの態度に俺は少々いらついてきた。
「それじゃあお望み通り呼び捨てで呼んでやる。ただガブリエルと呼ぶのはつまらないから今度からお前の名はエルだ。それとお前の敬語も気持ち悪いからやめろ」
「怒りっぽいのはまさにニートくさいですね。こんなことで腹を立てていてはこの先が思いやられるなー」
それから俺とエルの口喧嘩が始まった。喧嘩は同じ程度の集まりでしか起こらない。
「俺と口喧嘩するくらいだからエルもその程度の天使だってことだ」
「心外ですね。あなたと一緒にしないでくれる。私はこれでも天使学校を首席で卒業したんだからね!」
「頭悪い学校だったんだろ。なんの驚きも無いんだが」
「一々癪に障る言い方をするわね。そんなんだから友達作れないんだよ!」
いや違う俺は友達を作れないんじゃない。作らなかったんだ。適当なことを言いやがって。仲悪いまま俺達は転移した。
▽ ▽ ▽
転移された所は村の民家が建ち並ぶ整備されていない地形の上だった。アルスラという村で100人ほどが暮らしているみたいだ。生活には困っているらしく勇者をくるのを待ち望んでいたらしい。
ガブリエルは頭上の輪っかを触り誰かと話している。
「誰と話してるんだ?」
「ゼクス様から通信がきたの」
なにやら揉めている様子をじっと見ていた。
彼女は話し終えると、なんか機嫌がよくない。今にも泣きそうな表情を見せている。
「どうした? 大丈夫か」
「天使の権利を剥奪された。 私はもう天使ではないの。普通の一般人と変わらなくなっちゃった。グスン」
「泣くことないだろ。良かったじゃん。天使なんてめんどくさい役職を自動的に無くしてくれたんだから」
木の陰へと身を寄せる彼女を俺は止めはしない。泣きたい時は一杯泣けばいい。そしたら気持ちが軽くなるんだから。
「ユウキ......私のこと嫌い?」
「嫌いだった。過去は過去。今はそうでもない。だからそんな顔をするな。俺はエルを頼りにしている」
彼女が上目遣いで聞いてきたので、あまりにも可愛くてこちらが反応に困る。目は真っ赤に腫れて頬が赤くなった彼女は威勢の良い時と比べてとてもエロく感じてしまった。いかんいかん容姿に騙されては駄目だぞ俺。
「すっきりした。待ってくれてありがとねユウキ」
「エルがいないと俺が困るから仕方なくだ」
「本音は言わないのね」
本当は泣き止まない彼女を見て可哀想だと感じてしまっただけなんだがな。
「それでこれからどうするんだ?」
「私に聞かないでよ。知るはずないでしょ」
「えだってお前が神様からなにか聞いていると思って俺は頼りにいていたのに」
「本当に知らないわ」
どうするマジで。前言撤回。やっぱりエルは頼りにならない。勇者としての仕事が分からない。こうなったら情報収集だ。
ーーーと思っていたのだが
「勇者様だ!」
「勇者がついに来たぞ!」
「待ってました!」
「魔王の時代は終わりを告げるんだ!」
いつの間にか俺達の周りには人集りができていた。村の人達が一斉にこちらへと駆け寄ってくる。
「ちょっと待て。どうして俺が勇者だと分かる?」
「それはあなた様の服装を見れば一目瞭然です」
俺の服装?寝間着は黒色のジャージと相場は決まっていたのだが、自分の服装をもう一度見直す。よく知らないブランドのロゴが入っている。
「もしかしてこれか?」
「作用でございます。勇者である方しか着れない代物でございます」
若い男性の隣にいたお爺さんが答える。
古着屋で買ったジャージがいつの間にかとんでもなく出世したもんだ。
「勇者は今まで現れなかったんじゃ?」
「伝説があるのでございます。黒のジャージをきた男が転移してきて魔王を殲滅したという」
そんなピンポイントな伝説があったなんて思いもしない。
「勇者がきたからには安心です。魔王を討伐してくれるでしょう」
「エル。お膳立てはいいが俺超弱いぞ。戦闘経験がないただの一般人とだぞ」
困ったな。勇者は強いのが相場なのに俺の手元はがら空きで武器も防具も無いじゃないか。
「すまないが武器と防具をくれないか?」
「少々お待ちを。すぐもって参ります」
俺がわしが町のみんなが騒ぎながら取りに行く。
「勇者って凄い存在だな」
「なんていっても魔王を倒せるかもしれない唯一無二の存在だからね。それだけあなたに期待してるんだよ」
期待させときながらなんだが好きで勇者になったのではないと心の中でつぶやいた。
「もって参りました! どうぞ好きなのをお選びください」
山ほど積まれた武器と防具。斧や剣とか槍ほかいろいろ。勇者だから剣一択だと思うかもしれないが俺はあえて、
「これにするわ」
俺は2めーとる近い槍を手にした。ずっしりとくる重さだ。持ち上げるので精一杯だな。ま、筋トレすればなんとかなんだろ。次は防具か。鋼に銅に革か。燃える恐れがあるのはスルーでいくと
耐久性が高そうな鋼の鎧にするか。盾もセットでもらって。
「エルはもらえないんだな。可哀想に」
「私はいいのよ別に。ついていくだけだし」
膨れっ面の彼女は悔しそうに足をジタバタとさせる。内心相当欲しいに決まってる。
武器と防具一式を片付け始める彼らを止めに入る。
「ちょっと待って。彼女の武器も欲しいんだがいいか?」
「勇者様がおっしゃるのなら構いません」
「だってよ」
「余計なお世話よ。全く」
口では言ってるが、もの凄く興味津々だ。じっくり選んで決めればいいさ。エルは武器のやまをかきあさり一つ取り上げた。
「これにする」
彼女の手には1メートル程のロッドがあった。天使に杖か。なかなかの化学反応を見せて俺としてはありだ。緋色の髪をした少女が杖を片手に勇者と共に魔王を討伐。夢のようなシチュエーションだ。
「良いんじゃないか。似合ってる」
「私が決めたんだから当然でしょ」
「はいはい」
彼女は嬉しそうに杖を頬でスリスリしている。さてと出発するか。
「皆さんありがとう! 必ず魔王を討伐して見せます。それではさらば!」
「お願いしますぞ!」
「応援してるからな」
手を振る村人に俺は背中で応える。
「ユウキも振り返してあげなさいよ」
「カッコ悪いじゃん」
この年は中二病を卒業するかしないかの微妙なラインだ。そして俺は卒業できなかった方だ。
沢山の声援を浴びて村を後にした。
「所でいくあてなんてあるの?」
しまった!ついのりで村をでてみたものの、お金すらないのにこれからどこにいけばいいんだ。
「やっぱり戻ろうか」
「なんて頭の悪い勇者だこと」
溜め息つかなくても良いじゃないか。真逆の方向へと足早に向かった。
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