1話 転移(上)
不定期更新です。お願いします。
皆さんの勇者のイメージについて問おう。強くてカッコ良くイケメンを想像する方が多いだろう。突拍子もないことを聞くなと怒る気持ちも分かりますが落ち着いて。
だって俺がその勇者なんだから。異世界に転移されるまでの経緯はこうだ。
▽ ▽
俺の名は新居等優希。年齢は18歳の引きこもりニート。働かないのには特に理由は無いんだけど、高校卒業して就職や進学するのがめんどくさいと思った。引きこもりニートのベテランさんに比べられてはまだ経験は浅いが正直素質はあると思う。
実家は、母父俺の3人家族で、母はパート父は公務員のいわゆる中流家庭のもと産まれた。幼少から、欲しいものは何でも買って貰えたし外食は毎週いってたっけか。ただ俺が不満に思っていたことは、習い事の数の多さだ。ピアノ教室に水泳教室や学習塾に至るまで至れり尽くせりだった訳で、友達と遊ぶ暇を与えて貰えない生活が小学生から現在にいたるまで続いていた。母はいつものようにいっていた言葉がある。[あなたは私達の希望よ。立派な人間になってちょうだい]と。俺はいつも聞き流しては、自室にこもった。決して貧乏ではないがじぶんの意見は通らず、それこそ操り人形のような毎日にフラストレーションは高まっていた。
ある時学校でこんな会話をしたのを覚えている。
「優希ってさ付き合い悪くないか」
「俺だってお前と遊びたいけど時間がないんだよ。分かってくれないか?」
「お前ってさ、親の言いなりなんだな。将来何になりたいとかって考えたことあるか? 俺は父親のやってる警察官を目指しているんだ」
高校生の時の唯一の友達とした会話だ。結局自分では何も考えていなかったんだ。友達も作るのが大変で苦労したな。
▽ ▽ ▽
「ユウキ様ですね。あなたは100番目の勇者として選ばれました!嬉しいですか? 嬉しいですよね」
「えっと誰ですか? 俺が勇者に選ばれた? 分かるように説明してもらえる?」
「あ、私の名前ですか? 私ガブリエルといいます。神様兼天使を勤めています」
夢の中で現れたのは、ガブリエルという自称神様を名乗る奴だった。白い空間に俺とその子だけが立っていた。見た目は子供っぽくて、赤色の髪を肩まで下ろし純白のドレスを身に付けている。ガブリエルと言えば神話で天使として崇められる存在だがこいつは神様も担っているみたいです。
「神様ね。なるほど。さては俺を馬鹿にしているな?」
俺は夢だと知っていたため起きればいつも通りの日常に戻れると思い拙い返事をする。
「新居等優希。18歳引きこもりニート。食っちゃねの毎日を繰り返している燃えないゴミ。やりたいことが何もない。働きたくもない。......」
ガブリエルが俺の情報を1冊の本を元に読み上げる。
「俺の事をどこまで知っている?」
「全部です。あなたは今この空間が夢の中だと思っているのではありませんか?」
「だとしたらなんだ」
「違いますよ。現実世界でも夢でもありません。 別の次元ですよ」
「次元? はったりか」
ガブリエルは俺の反応をみて、がっくりと肩を下ろした。
「ではあなたの現実世界の映像をお見せしましょう」
突如モニター画面が映し出され、俺の家から部屋と画面が切り替わる。俺は唖然とした。
「俺がいない......」
「ようやく信じていただけたなのですね。 では話を戻しましょう?」
「ちょっとまて。俺をエクソダスに飛ばしたのはあんたか」
「ええそうですよ」
「なら今すぐ現実世界に戻してくれ」
勇者になるなんてそんなめんどくさいことやってられるかよ。俺は帰ってやる。
「できません」
返ってきた返答は想定外だった。
「冗談はよしてくれ。俺だって怒るぞ!」
「......いる」
ガブリエルはうつむきながらポツリと呟いた。
「何? 聞こえない」
「あなたは死んでいるんです」
「俺が死んだ? 意味が分からない」
「殺されたんですよ」
「誰に?」
「親に殺されたんですよ。当然といえば当然の結果だと思いますが」
親に殺されただと。そんなはずはない。あんなに大切に育ててくれた俺を殺すはずない。
「信じられませんか。 どうしても知りたいのであれば映像をお見せすることができますがいかがなさいますか?」
「見せてくれ」
「本当によろしいんですか」
「いいから早く見せろ!」
「分かりました」
先程のモニター画面の映像が変わる。俺の部屋だ。ベッドの上に寝ている。至って普通だ。
「俺が死ぬ要素などまるでないが」
「慌ててはいけません。さぁそろそろですよ」
部屋のドアが開いた。俺の母と父だ。こんな時間に何をしに来たんだ。ん? 手に何か持っているな。
「親父の手に持っているのが分からない。 もう少しズームしてくれ」
映像は手へとズームアップしていく。刃先が尖っている包丁だ。
両親は俺のベッドの横まで歩いていく。
「今ならまだ間に合いますよ。いつでも映像は止めれますから」
「いや。俺の最後だ。生々しいかもしれないが見ておく」
「そうですか」
[映像内音声]
「あなた。私の育て方は間違っていたのかしら」
「お前はよくやった。こいつは俺の手で始末する。それにまた子供を産めばいいだけの話だろ」
「あなた! やっぱり私ユウキを殺すなんてできないわ」
「今頃怖じ気づいてどうする。なにお前は見ているだけでいい」
親父の包丁が俺の心臓へと一直線に刺さりにいく。母は必死に止めに入る。
「やっぱりできないわ。考え直しましょう。ね?」
「お前は黙っていろ!」
「きゃっ!」
親父は母さんのことを邪魔としか思っていない。俺が両親の仲を壊してしまった。
親父は母の手を振りほどいた。
「お前のせいだぞ。優希。お前が悪いんだ。なに苦しまないよう一突きで終わらす」
グサリ
▽ ▽ ▽
包丁は俺の心臓へと刺さった。これが死んだ背景か。仕方がないことかもな......
「いってえええええ!」
なんだ。刺された同時に俺は痛さのあまり悲鳴をあげる。鼓動は早まり煮えたぎるような熱さだ。だけど死ねない。それいぜんに刺された感覚がまるでなかった。
「どういうことだ。ガブリエル!」
「お気づきですか。過去の痛みを今味わっているんですよ。ですからなんども忠告したでは無いですか? 本当によろしいのかと。ふふ」
ガブリエルは俺の苦しんだ表情を見て、少し微笑む。彼女の立場からでは考えられないほどの外道っぷりだ。
「お前は天使なんかじゃない悪魔そのものだ!」
「そんな口をきいていいんですか? 私が映像を止めない限りあなたの痛みはとれませんよ」
言いたいことはやまほどあるのに結構身体的に限界にきている。あいつの言いなりになるしかない。
「ちっ。......頼むもう止めてくれ」
意識が遠のくような痛みを感じて俺の精神は崩壊寸前まできていた。とうとう立ってはいられなくなった。
「えっとどうしようかなー。あなたの苦しんだ表情そそられます。もう少しみていたいのです。映像が終わるまであと5分です。たった5分です。耐えられるでしょうそれくらい」
「はぁはぁ。もう殺してくれ。俺は限界だ」
「なさけないですね。勇者に選ばれたあなたがそんなひ弱でどうするんですか」
「お前が.....選んだんだろ」
「いえ。実は私神様代理でして、本当の神ゼクス様はお出掛け中なんです。なので私ではありません」
神様代理か。なんか痛みを感じなくなってきた。神経がぶっ壊れたみたいだ。
2週間かかりました。遅筆ですのでご了承ください。