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勇者は泣き魔王は倒れる

前回のあらすじ

《ドラゴン現る》

 体から力が溢れてくる。

 肩に負った傷も治り、魔力も溢れてくる。


限定的魔王化(リミット・ウェイク)


 魔王だった頃の力をほんの少しだけこの姿で出すことができる魔法。

 俺が前の町にいる間に開発した魔法だ。

 この魔法なら狂気もほとんど漏れ出すことはない。


「行くぞ…」


 俺は地面を蹴りドラゴンの腹の前まで跳躍した。



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎



 私はウィルの肩に担がれて山道を下っている。

 ドラゴンはもう見えなくなり、私は離してとウィルに言う。


「サタナが!ウィル離してよ!!離し…ウィル…?」


 私がウィルを見るとウィルは泣いていた。


「クソッ!クソッ!!クソッ!!!」


 ウィルは歯を食いしばり悔しそうな悲しそうな表情をしている。

 下唇からは血が出ている。


「憎い…なんで弱いんだよ!クソがっ!!」

「ウィル、どうしたの…?」


 私は離して、と言うのをやめて聞いた。


「憎いんだよ!自分の弱さが!」


 ウィルは叫ぶように言う。

 その表情は色々な負の感情をごちゃまぜにしたようだった。


「初めから戦うって選択肢が出来ない、自分が!憎くて醜くてしかたないんだよ!!」


 ウィルはそう言うとさらにスピードを上げ山を駆け下りる。

 ウィルの足を見ると枝や草で切ったのか血が出ていた。

 それでもウィルは駆ける。


 ウィルの言ったことが、私にも痛いほど分かった。

 いや、ウィルはまだいい自分で逃げられるだけの力があるんだから。

 私には、『助けてもらう』って選択肢しかない。


 気がついたら私も歯を食いしばり泣いていた。

 ウィルの言った通り、自分が憎くて醜くて惨めで小さくて、それがすごく分かって涙が出る。


 私たちはそれから一言も喋らず町まで向かった。



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎



 ドラゴンの腹に一撃入れてやったが大して効いているようには見えない。

 ドラゴンの水弾攻撃も今の俺なら避け切れる。


 戦いはお互いにダメージを与えられない状況だ。


「ドラゴン、そろそろ正体を表せ。何がしたいのかは分からないが、このまま時間を無駄に使いたくない」


 俺がそう言うとさっきまで『ごぉぉぉ』とか『グガァァァ』しか言わなかったドラゴンが喋り出した。


『あらら、バレていましたか』


 ドラゴンがそう言うとドラゴンの体が黒い水になり、その黒い水は地面まで降りてきて形を変える。


『これでも自分の変身には自信があったんですが、バレてしまうとは自信をなくしてしまいそうです』


 黒い水は人型になる。

 色も所々変わり始め、最終的には黒い仮面に黒い服、黒い帽子を被った高身長の男になった。


「そうか、それがお前の本当の姿か…」

『Che è di destra《その通りです》。では、私もこの姿になったことですし、この茶番を終わらせましょう』


 仮面の男がそう言うと俺の足元に三つの魔法陣が出現した。


『魔法《暗く重い深海の水柱ルー・スーマラン・モール》。上に潰れて死ね』


 三つの魔法陣から黒い水の水柱が出てきた。


「なっ…!」


 俺は咄嗟に避けたが間に合わず右腕に当たる。

 当たった右腕から【グチャ】と嫌な音がした。


「チッ、痛ってぇ…」


 俺は攻撃を受けた右腕を見る。

 しかし、そこに右腕と呼べるものはなく、グチャグチャになった右腕だった物が肩から垂れ下がっていた。


『あら、避けられてしまいましたか…』


 肩をすくめながら薄ら笑い気味に言った。

 ムカつく野郎だ。俺は軽くキレた。

 こいつは生きた状態で捕らえて何故狙ってきたか吐かせようと思ってたがやめた。


 こいつは、殺す。


「なぁ、死ぬ前にお前の名前を教えてくれないか…?」

『お、冥土の土産というやつですか?』


 何か勘違いしているようだが死ぬ前と言っても俺がじゃなくお前が死ぬ前だぞ。


『まぁ、いいでしょう。私はヨルムンガルド、魔王教の信徒です。以後お見知り置きを』


 魔王教?

 今回の魔王は自分を神かなんかにしたいのか?


「つまり、ヨルムンガルドお前は魔王の為、勇者を狙ったということか?」


 ヨルムンガルドは少し悩む風に顎に手を当て、


『まぁ、その認識で間違いはない、とだけ言っておきましょう』


 今回の魔王は俺の事もあってか随分動くのが早いな。


『さて、長話もここまでにして、終わりらせましょうか』

「ん、あぁそうだな」


 ヨルムンガルドが首をかしげる。


『ん?あなたは諦めたのではないのですか?』

「ふっ、そんなわけないだろ」


 名前を聞いたのは時間稼ぎ、無駄なことまで喋ってくれたから時間は十分に稼げた。


『最後まで無駄に抗うとは流石は勇者一行ですね』

「…今の少しイラっときたぞ」


 確かにそうだが勇者一行だと言われると少し来るものがあるな。


「俺をここまでイラつかせたお前に面白いことを教えてやる」

『ほほう、聞かせてもらいましょうか…』


 先ほども説明したが《限定的魔王化(リミット・ウェイク)》は、ほんの少ししか力を出せない。


「俺は事情があって力を少ししか出せないんだ」

『なるほど…嘘ではないみたいですね』


 ヨルムンガルドは俺の表情を見て嘘をついていないことを理解する。


「俺が、今使えてるのはこれだけだ」


 俺は人差し指を立てる。


『い、一割?これはまた随分、大見得切りましたね』

「勘違いしないでほしい。これは一割じゃない」


 ヨルムンガルドは首をかしげる。


「一%だ」


『……は?』


 ヨルムンガルドがキョトンとしているが俺は構わず話を続ける。


「俺はそれを今から5%まで上げる」

『ふざけているんですか?』

「ふざけてなんかないさ。ただお前が俺に勝てないと先に教えてやってるだけだ__」


 俺がそう言うとヨルムンガルドの髪が逆立ち、怒りをあらわにしている。


『そうですか。いいでしょう…やれるものならやってみろ!!!』


 俺の周りに無数の魔法陣が展開される。


『魔法《深海の世界(スーマラン・モンド)!》』


 魔法陣から黒い水が出てくる。

 その水は俺を飲み込む。


『その水は深海の水、人が耐える事のできない圧力の水です』


 なるほど、だから腕に当たった時、腕がグチャグチャになったのか…


『魔法《限定的魔王化(リミット・ウェイク)Level5》』


 俺に当たった水が全て弾け飛ぶ。


『なっ!?』


「中々、面白い技だったな…」


 俺は少し笑いながら言う。

 ヨルムンガルドは驚きのあまり一歩後ろに下がった。


「俺もお返ししなくちゃな…魔法《死の重力(グラヴィタツィオーネ)》」

『何ッ!!』


 ヨルムンガルドの足元に魔法陣が出現しそこに物凄い重力が発生する。

 地面も少しづつくぼんでいく。


『な、なるほどな…これ、は、たしか、に凄まじい魔力、だ』


 ヨルムンガルドはなんとか耐えながら言う。


「お褒めに預かり恐縮だ…それじゃあ、さよならだ」


 俺は重力をさらに数倍上げる。

 ヨルムンガルドの足からはグチャっと先ほど俺の腕からなった音が聞こえた。


『どうか、この魂が魔王さまの元に導かれん事を___』


 ヨルムンガルドは目を閉じ手を合わせながら言った。

 そして、グチャッとヨルムンガルドの体は潰れる。


「__ガハッ…!!」


 俺は吐血する。

 魔王化の代償だ。


「人間の体は脆いな__」


 俺は皮肉混じりにそう笑うとバタッと俺はその場に倒れた。

少し急ぎ足かな?



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