戦士は変わり魔王は傷を負う
前回のあらすじ
《勝負しましょう》
色々言いたいことがあるが。
こいつはエロエが勇者であることを知っていた。
「え、え?」
「勇者さん、私と戦っていただけませんか?」
スズキが微笑みながら再度言う。
エロエは状況をよく理解できていないのか頭にハテナマークを浮かばせている。
エロエはどうしたらいいの、と俺に目で助けを求めてきた。
仕方がない…。
「ちょっと待ってくれ。まず質問させてくれ」
「ん、アンフェールさん?そういえば貴方のことは書いてなかったですね」
書いてなかった?
「なぁ、スズキ。お前は俺たちの、エロエの事を誰かから教えられていたのか?」
「はい、そうですよ」
やっぱりな。
そうでないとスズキがエロエを知ってるわけないんだ。
「誰がお前にエロエの事を教えたか教えてもらえないか?」
「そうですね。教えてもいいですよ」
スズキはでも、と続ける。
「私と手合わせをしてくれないと教えません」
「……分かった」
こいつ、バトルジャンキーなのか?
「その代わり、戦うのはエロエじゃなく俺だ」
「…理由を聞いても?」
スズキは少し不満げに聞いてきた。
理由、そんなの簡単だ。
見た目に変わったところがないが、勇者一行の戦士の血を受け継いでるんだ。
対して、エロエは勇者の血を受け継いでいるものの、力はただの村娘だ。
もし、戦って大怪我でもして旅が遅れるってのは俺にとっては都合が悪い。
「エロエは少し前に大怪我をしてな。まだ傷が完全に治ってないんだ。もしここで戦ったりして傷口が開いたら俺たちの任務が遅れてしまう」
エロエがえ、と俺の方を見ている。
そう、これは嘘だ。
前の町で傷は完治している。
「なるほど、それでは仕方ないですね…」
スズキはまだ少し不満そうではあるが了承した。
「その代わり、もし無様な戦い方をしたら許しませんよ」
「…あぁ、分かった」
「それでは、手合わせを出来る場所まで移動しましょうか」
こちらです、とスズキは俺たちを戦いの出来る場所まで案内し始めた。
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
「ここら辺ならいいでしょう」
スズキに案内されて少し開けた場所まで来た。
「では、早速始めましょう」
「あぁ…」
スズキは構えを取りいつでも戦える体制に入った。
「サ、サタナ、気をつけてね」
(ご主人、お気をつけて…)
エロエが心配そうに言った。
ミネも心なしか心配そうな雰囲気を出している。
勇者から心配されるとはな…。
「ふっ」
「どうかしましたか…?」
俺は、改めて自分状況を見て笑いが溢れてしまった。
俺がいきなり笑ったのを見てスズキが不思議そうな表情を浮かべる。
こんな勝負、早く決着をつけて復讐を進めようじゃないか。
「いや、すまない。なんでもない…」
ただ、と俺は続ける。
「俺はお前には負けられなくなった」
「そう、ですか」
気のせいかスズキは少し微笑んでいる気がする。
スズキはふぅー、と息を吐き、
「なら、私はあなたを完膚なきまでに叩き潰してあげます」
「そうか…」
「ルールは負けを認めるか気絶したら負けです」
「分かった」
俺が了承するとスズキはポケットからコインを取り出して指で弾いた。
なるほど、コインが地面に着いたらスタートか。
俺は剣を抜き構える。
そして、スズキも剣を抜こうと柄に触れた瞬間。
「ヒヒッ、ヒヒヒ」
スズキの雰囲気が変わった。
さっきまでの少し穏やかさを感じる雰囲気から戦っている者の雰囲気に変わった。
見た目も少し変化している。
黒かった目が赤くなり、タレ目だったのもつり目に変わった。
俺がスズキの変化に目を奪われてるうちにコインが地面に着いた。
「うらぁ!!」
「っ!」
早い!
前戦ったグリフォンよりも早く正確に致命傷を狙った攻撃。
俺はコンマ一秒遅れていたら切られていたと思い油断を捨てる。
「フヒッ、よく避けられたなぁ。本当は勇者と戦いたかったがアンタが相手なら文句ねぇぜ」
スズキは肩に剣を置いてフヒヒ、と笑いながら言う。
「なんだお前、二重人格者だったのか…?」
「いや、ちげぇぜ。俺は俺だ。二重も何もない記憶も感覚も全て俺、少し口調と見た目が変わるだけだ」
なるほど、剣を持つ事による意識の変化ってところか。
これが勇者一行の戦士の血か。
「考え事してるなんて随分余裕だなぁ!!」
スズキが一気に詰め寄り剣撃のラッシュを仕掛けてきた。
俺はなんとか全てを紙一重で避ける。
「おい!おい!!おいぃ!!!避けてばっかかぁ?その構えてる剣は飾りなのかよぉ!!」
ラッシュがさらに激しくなる。
「バカ言うな。そんな馬鹿デカイ剣をこの短剣が支えれるわけないだろっ!」
俺は後ろに飛び、一旦体勢を立て直す。
さて、どうする。
おそらくあいつの攻撃を一撃でも食らったらこの体はやられてしまう。
「一か八かに賭けるか…」
「らぁ!逃げてんじゃねぇぞ!!」
先ほどのようにスズキは俺に物凄いスピードで迫ってきた。
俺はここで一歩引かず、向かってくるスズキに体当たりする勢いで前に出た。
「なっ!?」
スズキも予想外だったのか驚きの声を上げる。
「残念賞だぁ!タイミングをミスったなぁ!!」
しかし、俺が前に出るタイミングが早すぎスズキに避けられてしまった。
避けたスズキは俺の横に移動し剣を振りかぶった。
(しまった…!)
そう思った時にはもう遅く、スズキの剣は俺の脇腹に当たろうとしていた。
「安心しやがれぇ!峰打ちだぁ!!」
「サタナ!!」
「ニャァ!!」
エロエとミネが叫ぶ。
《バキッ》
剣が俺の脇腹に当たった瞬間。
周りには折れる音が響いた。
__スズキの剣が。
《ボトッ》
スズキの剣が折れ、折れた剣の刀身が地面に落ちた。
「は…?」
俺は状況が理解できずフリーズしてしまった。
「あぁ、折れてしまいました…」
スズキが戦う前の雰囲気と姿に戻る。
そして、折れた剣は光に包まれ消えた。
どういうことだ。
なぜ剣が折れた。
「まぁ、新しいのを作ればいいだけですけどね」
スズキは目をつむり手を開いて前に出す。
すると、そこに光が集まっていき一つの大剣が出来上がった。
それを見たエロエとミネはえ?という表情をしている。
「…なるほど」
俺はその光景を見た瞬間、思い出した。
過去に俺はこれと同じ光景を見たことがある。
俺が現役で魔王をしていた頃、四天王と戦っている戦士が使っていた
女神級スキル《数限りない剣造》だ。
一度でも実物を見たらどんな剣だろうと作成できるスキル。
「おぉ、アンタあんま驚かないんだねぇ」
いや、驚いているさ。
だが、初めて見た時ほどではないな。
そして、今のを見て何故剣が折れたかも分かった。
俺は、剣も構えず普通に歩いてスズキの元まで行こうとする。
「なっ、いきなりどうしたぁ!諦めかぁ?」
俺はスズキの挑発を無視して歩く。
スズキは少し焦っているように見える。
スズキの剣が折れた原因。
あれはイメージ力の無さが原因だ。
《数限りない剣造》は万能に近いスキルだがその分想像力がないとスキルが活かされない。
さっき剣が折れたのも剣のイメージが、しっかりできていなかったからだろう。
「ちっ、くそっ!」
スズキは俺に剣を振り下ろして当てるが
《バキッ》
やはり、スズキの剣は折れた。
スズキの前まで来た俺は剣を振りかぶる。
「俺の勝ちだ」
「はい、負けました…」
勝ちは意外にもあっけないものだった。
もし、こいつの剣がもう少ししっかりとしたイメージで出来ていたら負けていたのは俺だった。
勝ったのに勝った気がしない。
そんな戦いだった。
俺はため息をついた。
《ボーンボーンボーンボーン》
俺がため息をついていると騎士の町の方から鐘の音が聞こえてきた。
「ん、なんだ?」
エロエたちも町の方を見ている。
「あ、ああ…」
スズキは鐘の音聞き、顔を青くしてダラダラと汗が噴き出している。
俺はそんなスズキの肩を叩き聞く、
「なぁ、スズキこの鐘はなんなんだ…?」
すると、スズキは一回深呼吸をして答える。
「この鐘は警報です。それも四回の鐘の音…」
「何があるんだ?」
エロエも俺たちの会話が聞こえていたらしくこっちを向いている。
「鐘の音が四回、これは町が崩壊するほどの危険が及んでいるってことなんです」
町が崩壊するレベル?
それを聞き、エロエは驚愕する。
無理はない。
いきなり町が崩壊するほどの厄災の知らせが来たんだ。
「だが、一体何が…」
俺が考えようとすると俺たちのいる場所が影になり、物凄い風が吹く。
俺たちは咄嗟に上を見る。
「ね、ねぇ、あれってさ」
「…えぇ、あんな大きいもの見間違えません」
「ドラゴンだな…」
「にゃ、にゃぁ」
各々が大きさは違えど驚きを感じる。
体長20メートルほどの黒いドラゴン。
『ごぉぉぉぉぉぉ!!!!』
ドラゴンが咆哮をした瞬間、空中に魔法陣が展開され、展開された魔法陣から一メートルほどの水の塊が砲弾のような勢いで飛んできた。
水の塊はエロエに向かってくる。
「どけぇ!」
俺はエロエを突き飛ばし回避させた。
「きゃっ!」
エロエが尻餅をつく。
「…アンフェールさん!サクラギさん!大丈夫ですか!?」
スズキが俺たちに駆け寄ってくる。
「わ、私はでも!サタナが!」
「なっ、アンフェールさん…!」
俺はなんとか直撃は避けたが右肩に少しかすって肩の肉が少し抉れてしまった。
俺は傷口を押さえる。
それより、まずいことになった。
このままじゃ、エロエとスズキが殺される。
それだけは阻止しないと…
「俺は大丈夫だ…それより二人とも早く町に行け、このドラゴンは俺が押さえておく。その間に…」
「バカなこと言わないでよ!!!」
「っ…!?」
エロエは俺が最後まで言う前に遮って叫んだ。
「サタナ、一人であんなのに勝てるわけない!死んじゃうよ!そんなの嫌だよ!!」
「…そうです!相手はドラゴンですよ!!一人で勝てるわけが…」
この二人は俺と一緒に残ってこのドラゴンと戦うって言いたいのか…
「黙れ…」
「…え?」
俺は、少し怒った雰囲気を出す。
「お前たちに何ができる。考えろ。お前たちは戦えるのか?」
「「…」」
「お前たちはあのドラゴンに一撃でもダメージを与えられるのか?」
「「…」」
二人は黙ったまま何も言い返さない。
いや、言い返せない。
「もう一度考えろ。お前たちが今するのはここでポックリ死ぬことなのか?お前たちが今するのは町に戻って応援を呼ぶことじゃないのか?俺と残って、俺と一緒に死んで町の人間も死なすのか?」
「で…でも」
エロエが言い返そうとするが俺はそれを遮る。
「バカがぁ!!まだわかんないのか?お前たちは居ても邪魔なだけだと言っているんだ!!!」
「…っ!」
「えっ、ちょっと…ウィル!」
スズキは剣を作り、戦闘モードになりエロエを担いで猛スピードで町に向かった。
俺は見えなくなったのを確認してドラゴンの方を向く。
「まったく、親切なドラゴンだな…」
ドラゴンはグワォォと咆哮する。
「じゃあ、本番を始めるか」
俺は足元に魔法陣を作り魔法を発動する。
「魔法《限定的魔王化》」
ツイッターで投稿は午後になるといったな。
あれは嘘だ。
タグにチート(使わない)って書いてるのでチートは使いません(多分)
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