勇者は感謝し魔王は懐かれる
前回のあらすじ
《俺の女に手を出すんじゃねぇ!》
__魔王。
この世に突如現れた厄災。
強大すぎる力で魔族を次々としもべにし、しもべを使い人間に対し戦争を仕掛けた。
しかし、魔王の厄災はそう長く続かなかった。
女神から使いを受けたと言われる勇者の登場により魔王は倒された。
だが、短い間で大きな打撃を受けた人間は魔王を恐れ、百年経った今でも恐れられ続けている。
・・・・・・・・・・
「知らない天井だ」
なんだか言わないといけない気がした。
「さて、私死んじゃったのかな。」
「何バカなこと言ってるんだ。」
横を見ると椅子に座って本を読んでいるサタナが居た。
「あぁ、私、サタナに助けてもらったんだね」
「そうだ。精々感謝してくれ」
私はサタナの言葉に笑みがこぼれる。
なんだろう。
嬉しい、生きてる。
「生きてるって素晴らしいね」
「・・・・・・よかったな」
なんでだろう。
次は涙が出てきた。
嬉し涙じゃない。
でも、悲しいわけでもない。
経験したことがない感情が込み上げてくる。
「笑ったり泣いたり忙しそうだな」
サタナの声を聞くたびになんだか分からない感情が強くなる。
涙が止まらない。
擦りすぎて目が痛い。
「はぁ、あんな目にあったんだ。今は泣いとけ…」
サタナは私の頭を撫でてくれた。
お父さんやお母さんにしか撫でられたことがない私の頭を撫でてくれる。
とても暖かい。
涙が余計に増す。
「グスッ・・・あり、がとう・・・サタナァ・・・」
ありがとう。私が久しぶりに言った言葉だ。
そうか、この感情は『ありがとう』の感情なんだ。
「・・・・・どういたしまして・・・」
サタナは少しぎこちなく言った。
私の目から涙腺が崩壊したくらいの勢いで涙が溢れてきた。
「うぐっ、ヒグッ、ザダナァ、ぼんどうにばりがどう・・・だずげてくれてばりがどぉ‼︎」
「んなっ!?」
みっともなく私は泣きながらサタナに抱きついた。
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
「はぁ、もういいか?」
「うん、ありがとう」
エロエは泣きすぎて赤くなった目を擦りながら小さな声で言う。
いきなり抱きつかれるとは流石に少し驚いた。
「そういえばここってどこなの?」
「ここは俺たちが向かってた町の病院だ」
エロエを担いで1日走ってこの町まで来た。
医者の話だとあと少し遅れてたら死んでいた。とのことだ。
「私、何日くらい寝てたの?」
「三日だ。お前が気絶している間に俺は町で情報収集していた」
俺がそう言うとエロエは少し表情を暗くして俯いた。
「ずっと、そばに居てくれた訳じゃないんだ・・・」
「ずっと、一緒に居てやるほど俺はお人好しじゃないでな」
エロエはプーっと頬を膨らます。
俺は計画のためにこいつを助けはしたし、仲間意識を持たせるためある程度優しくしてはいる…つもりだ。
だからってずっとそばで見ててやるほど時間を無駄にする気はない。
「とりあえず、お前は早く怪我を完治させるんだな。次に行く場所は、もう決まった。」
「え、決まったって、何処なの?」
俺は三日間この町で聞き込みをしたり図書館で本を読んだりして色々な知識をつけた。
百年分の知識を得るには時間がかかった。
三日間休みなしで本やら聞き込みで知識を詰め込んだ。
そのおかげである程度のことなら分かった。
まず、勇者一行のその後だ。
勇者一行は俺を倒した後、旅の途中で骨を埋める場所を決めていたらしくそれぞれ違う場所で人生を終えたらしい。
「勇者一行の子孫が居る場所がわかった。だから、そこに行く」
「サタナ、凄いね。たった三日でそこまで調べるなんて・・・」
「まぁな、分かったら休んで早く傷を直せ」
「うん・・・」
エロエは照れているのか俯きながら言った。
さて、こいつが休んでいる間に俺はもう一つやることがある。
俺たちが来たこの町は都合のいいことに武器や防具、魔法などの流通が盛んだった。
こいつが寝ている間にこいつの防具やら武器やら買わないとこれからも食器や包丁で戦うはめになる。
「じゃあ、俺は少し町に行ってくる」
「え・・・わ、分かった」
少し寂しそうな雰囲気を出すがこれから旅をするためには必要なことだ。
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この三日で俺はかなりの店を回って値段と品質が一番いい店をピックアップしている。
《武器!防具!売ります。買います。》
と看板が掲げられている店。
所謂、中古店というやつだ。
中古品といってもこの店には上級スキル《復元》を使えるやつがいるのか全ての商品が新品みたいだ。
つまり、新品同然のものを中古の値段で買える。
こんなに美味しい話はない。
《カランカラーン》
扉を開けて店に入ると鉄の匂いがしてくる。
「いらっしゃい」
店の奥から声が聞こえてきた。
おそらく店主だろう。
店を見て回る。
一度来た時は軽く見る程度だったが
改めて見ると本当にこんな安値でいいのかと思ってしまう。
俺はエロエが使うことを考え少し軽めの装備と武器の短剣を買った。
「まいど」
深くフードを被った女の店員が金を受けとり軽く頭を下げる。
俺は短剣と防具を袋に入れて店を出る。
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「止まりな」
俺が店を出て路地を歩いていると呼び止められる。
声がした方を向くと猫耳の生えやして紫色の髪をした若い女が立っていた。
「さっきの店の女か・・・」
「えっ、なんで分かったの!」
分かるに決まっているだろ。
まず、匂いだ。鉄独特の匂いがする。
次に声だ。ちょっとくらい声色変えるとかしろよ。
「そんなことどうでもいいだろ。それより、なんだ?俺、忘れ物でもしたか?」
「え、ち、違う!さっき、うちで買った物を置いていきな!」
あぁ、なるほど、だからあそこの商品はあんなに安く売っていたのか。
安値でいい品を売りその後買った者から買ったアイテムを奪いそれをまた売る。
「うまいこと考えたもんだな・・・」
「何いきなり言ってるんだ?私はキャット・ピープルなんだぜ。筋力も反射神経も人間の比じゃないだ。ま、まさか、戦う気じゃないよな?」
キャット・ピープル、猫人間か。
確かに人間より強く普通の者なら怖気ずいて逃げるだろうが俺なら倒せないこともないだろう。
「猫鍋と串焼き、好きな方を選ばせてやるぞ?」
「え、え?な、なんだいきなり!ほ、本当に戦う気なのか?」
なんだこいつ、ビビってるのか?
さっきから覇気や殺気を感じない。
「さて、と」
「な、何、短剣構えてるんだよ!や、やるかぁ?やっちゃうかぁ?」
煽ってるつもりなのか?
俺はスタスタと猫女に近づいていく。
「ちょっ、待てよ!私強いぞ!本当に強いんだぞ!死んじゃうぞ!」
「やってみろよ」
「・・・ニャッ!?」
俺は短剣を振り上げる。
振り下ろそうとした瞬間、猫女は猫の姿になる。
プルプルと震えて本気で怯えている。
「にゃーにゃー」
助けて。的なことを言ってるんだろうけど猫だからニャーニャーとしか言えてない。
き、切りにくい!俺は人間に対しては同情なんてかけないだろうが、流石に怯えている猫を切り捨てるなんて少し良心が痛む、魔王にも良心はあるのだ。
「はぁ・・・今回は見逃してやる。次からは狙う相手を選ぶんだな」
「にゃっ、にゃー・・・?」
「助けてやるってことだよ・・・」
猫は顔を上げポカンとしている。
少ししたら猫は猫女の姿に戻る。
そして、猫女は立ち上がり、
「あ、ありがと・・・」
今日はやけにこの言葉を言われるな。
そもそも、今回はこいつの自業自得だ。
はっきり言ってどうでもいい。
「あぁ、じゃあな・・・」
「ま、待って!」
俺が立ち去ろうとしたらまた呼び止められた。
「はぁ、次はなんだ?」
「わ、私はミネ。あんたは・・・」
「なんだいきなり?」
「だからあんたの名前!」
なるほど、名前を聞いているのか。
一瞬、名乗るかどうか迷ったがここで言わなかったら余計に面倒くさくなりそうだから言うことにした。
「サタナ・アンフェールだ。それじゃ、またな」
「あ、ちょっ!」
俺はもう呼び止められないように走ってその場から立ち去った。
⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
次の日、俺はエロエの入院している病室まで来た。
昨日買った装備を渡すためとあとどのくらいで出れるか確認するためだ。
「にゃー」
「あ、サタナー。見て見て紫色のネコちゃん!」
エロエの病室に入ったら昨日襲ってきた猫女。
確かミネだったか、が居た。
なぜ分かった。
「その猫、どうしたんだ?」
「朝起きたら窓のところに居た!」
本当になんで分かったんだ?
取り敢えず、追い出すか・・・
「おい・・・」
「にゃ。にゃー」
「ははは、くすぐったいよー」
これは、ダメだ。
ミネのやつエロエに気に入られてる。
これを取り上げるのは至難の技。
「ん?サタナ何か言った?」
「にゃー?」
この猫、猫なのに勝ち誇った顔してやがる。
ぶん殴りてぇ。
「はぁ、仕方ない・・・この町を出るまでだ」
「え、どうしたのいきなり」
「・・・にゃー」
ミネは分かったのか顔を俯かせた。
「なんでもない。エロエ、昨日買ってきた装備だ。次はこれを着て旅に出るぞ」
俺はエロエに昨日買ってきた装備を見せる。
エロエはポカンと口を開けた。
「昨日、これ」
「そうだ。昨日ここを出てから買った物だ」
「ありがとう、サタナ!」
《ガッ》
「なっ!?」
《バタン》
エロエはベットから飛び出し俺に抱きつく。
そのまま俺は後ろに倒れた。
「にゃーっ!」
《ポフッ》
重い、そう思っているとミネまでその上に乗ってきた。
お、重たい・・・。
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