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勇者は弱く魔王は包丁を持つ

前回のあらすじ

《旅に出る》

 __勇者。女神より授かったという異能を持っておりその異能は代々継承されていく、継承の仕方は他には絶対に漏らされることはない。


 勇者の異能自体もまだほとんど分かっていない。

 分かっているのは、《異能は複数あること》《その全てが女神級の異能であること》だけだ。

 勇者の異能を全て理解していたのは初代の魔王を倒した最初の勇者ハヤト・サクラギだけだ。



・・・・・・・・・・



 勇者と旅に出て早二日、俺は《全知の地図オムニセントマップ》で道を確認しながら進んでいる。

 二日旅をして分かった事だが、エロエには計画性と方向感覚が無い。


 計画性、村を出てからこいつに言われた一言、


「私達、どこに行けばいいんだろう?」


 だ。

 しらねぇよ。どこ行くつもりだったんだよ。

 とりあえず今は魔王の情報を集めるために大きめの町を目指している。


 方向感覚、これも酷かった。

 南に向かうって言って言るのに北に向かうんだ。

 コンパスの見方がわかんないのかこいつ?


 俺が案内をしてるからいいものの、俺がいなかったらこいつ今頃のたれ死んでるぞ。


「サタナー、町ってまだー?」

「あぁ、あと二日はかかるな」

「な、長い…」


 エロエはガクッと肩を落とす。

 まぁ、俺のおかげで魔物に会わずに済んでるんだ。

 それだけでもありがたく思えよ。


「あぁー、もう無理!サタナ、今日はここで野宿しよう!」

「いいのか?まだ、暗くなるまで時間があるぞ?」

「いいのいいの!私、お腹すいたし」


 エロエは俺の背中を押し休めそうな木の木陰まで押してきた。

 エロエの腹からグーと音がした。


 暗くなるまでには、あと一時間ほどある。

 ここで野宿するならなんか木の実でも取ってくるか…


「まだ暗くなるまで時間が有る。俺は木の実でもないか見てくるぞ」

「あ、うん。分かったー」

「あまり勝手に動き回るなよ?」

「分かってるよー。私、ちっちゃい子供じゃないんだよ?」


 俺から見たらお前も小さな子供も大差ないぞ。

 さて、スキル《全知の地図オムニセントマップ》発動。


「……あった。近いな」


 ドゥーフルーツか。

 俺の生きていた時代じゃ珍しかったが、この時代じゃそうでもないのか。


 次の町に着くのにあと二日かかると言ったがこのペースじゃ三日かかるぞ。

 全く、エロエの奴。俺の知っている勇者より大分適当だぞ。


 俺の知っているか…


 今更だが俺のやろうとしていること完全に八つ当たりだよな。

 『末代まで呪ってやる』ってよく言うが本当にやってるのは俺くらいなもんかもな…

 いや!それでもアイツは勇者、俺の魔王の敵だ。


 倒さないといけない正義(あく)



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎



 俺は森の中を歩きながら少し昔のことを考える。

 100年。長い、長すぎる間をまるで死者のように生きていた俺は何度も昔のことを考えた。

 俺は魔王だが仲間もいたし慕ってくれた部下もいた。

 考えることしかできなかった100年間。

 俺はそいつらのことを考えていた。


 アイツらはちゃんと生き残れたかアイツらは不幸な思いをしていないか。

 アイツらは俺の死を悲しんだか…

 そんな、全く魔王らしくないことを考えたこともある。


「新しい魔王。そいつの所にいるのか……?」


 もし、そこにいるなら会うまでもう少しかかるかもな。

 エロエは勇者だがまだ駆け出し、すぐ魔王の元までとはいかない。


 もし、また会ったら、その時は俺と一緒に再び世界征服でもしようじゃないか。



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎



 森を少し歩いていると俺はドゥーフルーツを見つけた。

 まるで、血のように紅い色。

 大きさはリンゴほどだが重さはリンゴの倍ほどだ。


「ふふ、美味そうだ…」


 さて、俺は素手で木から実を捥ぎとる。

 匂いはまだ皮をむいていないにも関わらず甘美な香りが漂ってくる。


 さて、戻るか…

 あまり時間がかかるとエロエの奴が心配して俺を探し出しそうだしな。


「というか、エロエの奴。あそこ動いてないだろな?」


 確認のため確認だけはしておくか。


「《全知の地図オムニセントマップ》…。よし、動いてな……」


 俺は地図を見てエロエがあの場から動いていないのを確認する。

 だが、エロエがあの場を動くより大変なことが起きた。


《緊急事態だ》



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎



「サタナ、まだかなー」


 私、エロエは、料理の準備を終えて、木の実を探しに出た仲間のサタナ・アンフェールを待っている。

 サタナが木の実を探しに出てから15分ほどたった。


 久々に一人になった私は村のことや村を出た日のことを思い出す。

 私が村を出ると言った時、村の人達には猛反対された。

 自分で言うのもあれだけど私は村のシンボル的存在だった。


 勇者の血を引く者、村の大人たちはそういう私を見ているんだ。

 優越感、私がいるだけであの村は勇者の血を引く村を名乗れる。

 勇者の血を引いているだけで私はただの村娘だ。


 私のお父さんも勇者の血を引くものだからって無理矢理魔物狩りに行かされて死んだ。

 お父さんが死んでお母さんもショックのあまり寝たきりになってどんどん衰弱していき死んだ。


「サタナは、どうなんだろう…」


 私はそれでも村の人たちを嫌いになりきれなかった。

 でも、一緒に居たいとも思わなかった。


 私が村を出る日。村の人たちは反対して私に付いて行こうとする人たちも何人かいた。


 正直、『嫌だった』


 会ったばかりのサタナと旅に出るのは嫌じゃないのに長年同じ土で育ってきた村の人たちと旅に行くのは嫌だった。


 きっと、私が村の人に抱いている感情は慈悲とかに近いのかも知れない。

 私は村では明るく振舞っていたけどそれも結局、村の人に対する慈悲だったのかもしれない。


 村の人たちは私を利用しようとする。

 それを、私は受け入れる。

 慈悲で受け入れる。


「サタナも、私を利用したりするのかな…」


 荷物を半分持ってやる。

 私が生まれて初めて両親以外からかけられた慈悲だ。

 なんだか分からない。

 あの時は、嬉しさと疑いを足して二で割った感じの感情だった。


 サタナは、私を利用する人なのか……それとも。




《グオォォォ!!!》




 私が鍋の中のスープを混ぜながら考え事をしていたら、いきなり空から唸り声のようなものが聞こえてきた。


「な、なに!?」


 私が空を見るとそこには体長5メートルほどの怪物がいた。

 鷲の翼と上半身、ライオンの下半身を持った化け物。


 言葉が出ない。

 怖い、生まれてはじめての恐怖。

 死が目の前に来ている感覚。


 《勝てない》


 瞬間、私はそう思った。


「へへッ…」


 絶望からからか笑いが溢れる。

 足は震え、顔は青ざめているだろう。


『お前が勇者かぁ?弱っちそうだなぁ』


「勇…者……?」


 なんで、この化け物は私が勇者だって知ってるの?

 なんで、勇者だからって狙われてるの?


『そう、お前は勇者なんだろ?あるお方からお前を殺してくるよう言われてなぁ』

「なん、で?」

『さぁ?おらぁ興味ないね。俺は命令に従うだけ』

「私、死ぬの?」

『あぁ、死ぬだろうな。まぁ、殺すの俺だけど』

「絶対…?」

『ぜった〜い。じゃあ、あんまり時間かかってもあれだし、そろそろ殺す、ね!!』


 化け物は空から姿を消し私の目の前に現れた。

 死んだ。私がそう思った瞬間には私は後ろにあった木に激突していた。


「ガハァッ!?」


 痛い。痛い痛い痛い!

 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!


「逃げッ…!?」


 私は逃げようと体を動かそうとする。

 しかし、体は動かない。

 爪で右肩から左の腰にかけて切られている。

 傷から滴れる真っ赤な血。


(私に血ってこんなに赤かったんだ。)


 きっと、このままほっとくだけでも私は死ぬだろう。

 もう、頭が朦朧(もうろう)として考えることもできない。

 ただ、涙だけがポロポロと出てくる。


『あぁ、すまんな。一思いに殺してやるつもりだったんだがな。まぁ、安心しろ。次で確実に即死させてやる』

「死に…たく、ない」

『それは、出来ない相談だ』

「……オエッ…!」


 私は恐怖のあまり口から血と一緒に胃液を吐き出した。

 勇者の血を引いていてもこんなもんだ。

 死ぬのは怖いし死にたくない。

 逃げ出したいし助けを求める。


「……助け、て」


 私は最後の力を振り絞って声を出した。


『勇者の最後がこれとは』


 全くその通り。

 でも、死にたくないもん。


 化け物は前足を上げ攻撃の態勢に移る。



「らぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 振り下ろそうとした瞬間、化け物は振り上げた前足を蹴られた。


 一瞬のことでよく見えなかったが、あれは、


「おい、下級グリフォン。何勝手に俺の獲物に手を出してんだ…?」


 サタナだ___



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎



『お前、誰だ?』


 危なかった。

 あと少し遅れてたらエロエは俺が殺す前に死んでいた。


「そんな事、どうでもいいだろ?お前は今から死ぬんだからな」

『はぁ?俺が、お前に?殺されるってのか?』


 俺は少し怒っている。

 俺が100年もかけて立ててきた計画がこいつのおかげでおじゃんになるところだったんだからな。 


「すぅすぅ」


 横目でエロエを見る。

 よし、出血がひどくて気絶しているが死んではいない。

 だが、早く治癒してやらんと危ないな。


 俺はエロエが飯のために出していた包丁とフォーク二本を拾う。

 こいつはこれで十分だ。


『お前、まさかそんなんで俺に勝つつもりなのか?馬鹿か?』

「お前ごときに俺の最強(チート)を使うまでないってことさ」

『舐めるなよ。小僧ぉ!!!』


 俺がそう言うとグリフォンは怒りをあらわにし俺に攻撃を仕掛けてきた。

 前足を上げ鉤爪で俺を切り裂こうとする。


「お前、そればっかか……」

『ナニッ!?』


 どんな攻撃してくるか分かればこの体でも避けるくらいできる。

 そして、こいつは攻撃した直後少しの間硬直する。


「隙だらけだ!」


 俺は持っていた二本のフォークをグリフォンの目に刺す。

 挿しっぱなしにしておけば回復もできないだろう。


『グオォ!目がぁ!目がぁぁ!』

「だから、隙だらけだっ!」


 俺はグリフォンが怯んだ隙に包丁で右羽を切る。

 これで、飛ぶこともできないだろう。


『ガァァ!に、逃げっ!』


 グリフォンは猛スピードで逃げようとする。


「逃がすわけないだろッ!」


 俺はバックから油の入ったビンを出し、それをグリフォンの顔面にぶつける。


『なッ!何をした!』

「……死ねッ」


《バチッ》


 俺はバックから取り出した火打ち石で小さな火花を起こしグリフォンの顔にかかった油に着火させた。


『グアァァァァァァァァ!!!!?』


 このまま、放っておけば喉がやけ息ができなくなり死ぬだろう。


『ッッ!!?』


 喉がやけ声の出なくなったグリフォンは声にならない叫びをあげ。

 そしてグリフォンは、そのまま苦しみながら死んだ。



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎



 さて、エロエの手当をしなくちゃな。

 全く、まさか俺が勇者の命を救うとはな。


「魔法《応急手当エルステヒルフェ》」


 この体じゃ、この程度の回復魔法が限界だな。

 俺の魔法でエロエの傷は少し回復し出血も止まる。

 痛みも恐らくほとんど無くなっただろう。


「まぁ、このままでは衰弱で死ぬな」


 仕方がない。

 全力で町まで走るか。


 俺は荷物を一つのバックにまとめ背負った。

 エロエはあまり傷口を刺激しないように抱っこした。


「んん、サタ、ナ?」


 俺が抱きかかえるとエロエは少し目を覚まし俺を見た。

 状況を整理しているのか血が足りなくろくに働かない頭で考えている。


「助けて、ありがと、う」


 小さい、ギリギリ聞こえるくらいの声でエロエはそう言って、また気絶した。


「全く、魔王が勇者から感謝されるとはな……」


 不思議とあまり悪い気分じゃない。

 そう思い、俺は町に向かって走り出した。

グリフォン弱ッ!?と思った方、大丈夫です。

あいつが弱かっただけです。

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