魔王は焦り勇者は拉致られる
前回のあらすじ
《女神降臨》
__魔法使い
魔法使いはその名の通り魔法を使いにする者たちの事である。
魔法使いは生まれながらに強大な魔力保有量を持っており。
魔法の多重発動が当たり前にできてしまう種族である。
魔法使いは『何でもできる種族』と言われているが実際はできないことも多く、魔法使いですらできないといわれているのが『奇跡の再現』である。
奇跡とは運であり、決まった確率で起きるものではない。
そのため、魔法使いという種族はそのほとんどがギャンブルを好む。
・・・・・・・・・
俺は病院のベットに座りソファに座っているスズキと向かいあう。
エロエは状況がよく分かっていないのかキョトンとしてしまっている。
「スズキ、一つ聞いていいか?」
「はい。あ、その前に私の事はウィルと呼んでいただけないでしょうか?」
「あぁ、分かった。俺の事もサタナでいい」
「あ、私もエロエでいいよー」
「ありがとうございます」
ウィルは微笑みながら頭を少し下げる。
「改めて質問だ」
「はい」
「お前は俺達の事を誰から聞いたんだ?」
「あ、私もそれ気になってた」
そう、ウィルは俺たちが勇者が来ることを知っていたような言い方をしていた。
俺たちはずっとそこが気になっていたんだ。
「それはですね。私の元に手紙が来たのです」
「手紙?」
「はい、国王から『魔王が復活した。勇者はもう旅に出ている。合流して魔王を討伐してくれ』と」
なるほど、国王からの手紙か……
というか国王、俺たちに連絡ぐらいして来いよ。
「なるほどな。だったらお前は旅に来てくれるってことでいいのか?」
「はい、もちろんついて行くつもりですよ」
ウィルはニコッと笑いながら言った。
「やったー!よろしくねウィル!」
エロエも大喜びでウィルに抱き着く。
■□■□■
『素材の森』
この森はありとあらゆる素材が豊富で魔法に携わる者なら誰もが一度は来るといわれる森だ。
≪スライムが現れた!≫
「きゃぁ!サタナ!サタナ、モンスターだよ!」
エロエはスライムに怯え、涙を流しながら俺にしがみつく。
「いや、落ち着けあれは雑魚だ」
「きゃはは!こんな雑魚モンスター俺一人で十分だ!」
「おい!待っ」
俺はスライムに突っ込むウィルを止めようとするがウィルは止まらずスライムに切りかかった。
__パキンッ
当然のごとくウィルの剣は折れてしまった。
俺は『はぁ』とため息をつき、スライムに反撃され吹っ飛んできたウィルを受け止める。
「キャッ!」
「よっと」
「さ、サタナ!ウィルやられちゃったよ!強いよスライム!」
エロエは前グリフォンに殺されかけてからモンスターにトラウマ意識を持っている。
それを解消するため俺はあえて雑魚モンスターがいる道を通っている。
「いや、これはウィルが弱いだけだ」
「そんなにはっきり言わなくてもいいのでは……?」
ウィルは少しほほを膨らませながら言う。
まぁ、本当の事だからな仕方がない。
「ウィルお前は一回休憩だ」
「うぅ、仕方ないですね」
俺は抱っこしているウィルをゆっくり下し、エロエに一本のナイフを渡した。
「エロエ。取りあえずこのナイフをあいつに投げてみろ」
「え、どうして?」
「早くしろ。思いっきりだぞ」
「うん」エロエはナイフを投げるモーションに入り、力を入れ思いっきり投げた。
≪スライムは倒れた!≫
スライムはナイフの一撃を食らうとドロドロと溶けた。
「え、弱っ」
「だから言っただろ」
スライムは弱い、特にこのあたりにいるスライムは物凄く弱い。
子供でも勝てるだろう。
「ほら、倒したんだ。次行くぞ」
「あ、うん!」
こうやってモンスターを倒すことでモンスターへのトラウマ意識を薄れさせていく。
俺が今できるのはこのくらいだ。
「そういえば、サタナさんは何故エロエさんと旅をしているのですか?」
「ん……?そういえば何でだっけ?」
『素材の森』を進んでいるとウィルがふと思い出したかのように言ってきた。
というかエロエ、お前が忘れてどうするんだ。
俺はいきなりの質問に少し驚いてしまったが背負っているバックを見ながら、
「俺はエロエの荷物持ちだ。見てみろ、このバックお玉やら鍋やらどう見ても俺の荷物じゃない物が付いているだろ?」
ウィルは「なるほど」と頷いた。
しかし、ウィルは「ん?」と首を傾げる。
「と、いうことはエロエさんとサタナさんは旅に出る前から知り合いだったのですか?」
「……え?」
エロエは質問の意味が分からず、呆けた顔をしながら俺の方を向く。
エロエの時は誤魔化せたがやっぱり誤魔化せないか……
いや、普通に考えたらそう思うのが普通だ。
エロエはバカだったから誤魔化せただけだ。
「それはだな……」
俺は返答をしようとするがいい言葉が浮かばない。
どう考えても俺は怪しい。
このことで俺が魔王だとバレることはないだろうが最悪、旅のメンバーから外される可能性もある。
「もしかして、サタナさんは……」
俺はもうだめだ、と諦めた。
また、計画を練り直すしかない、と。
「エロエさんの事が心配で旅に同伴しているんですか?」
「……は?」
俺はウィルから出た言葉が予想と違った事に驚く。
俺が、勇者を心配して?あり得ないな。
「やっぱり! そうなんですね! 実はサタナさんが私たちを助けるためにドラゴンと一人で戦った時から『あぁ、この人はとても優しい人だ』とは思っていたんです!か弱い少女が一人で魔王討伐だなんていう無謀な旅に出る事を知ったサタナさんは、心配して荷物持ちという口実を作りエロエさんについてきたんですよね!」
「お、おう……」
俺はウィルの話の勢いに負け相づちを打つ。
「え、サタナ、私の事を思って……えへへ」
「あぁ、女神レイよ。彼のような優しきものに会えたことをあなたに感謝します」
エロエは少し顔を赤らめながら柔らかな笑みを浮かべる。
ウィルはあのアホ女神に感謝の言葉をささげ始めた。
「まぁ、こっちの方が都合がいい、な」
「はぁ」と俺はため息をつき、エロエ達を見る。
エロエは勇者の子孫ではあるがとてつもなく弱く恩恵すら発動していない。
ウィルは恩恵を発動は出来るもののイメージ力と魔力が無さ過ぎてほとんど役に立っていない。
「すぅ……すぅ……」
「そういえばこいつもいたな……」
俺の頭の上にさも当然のように乗って寝ているミネ。
今一番役に立つのはミネの《復元》くらいだろう。
俺が肩を落としているとその肩をトントンとエロエが叩いた。
「ん、なんだ?」
「えへへ、サタナってなんだかんだ優し__」
一瞬の事でよく見えなかったがエロエの足元に魔法陣ができた瞬間、エロエの姿が消えた。
何の前触れもない出来事。
流石の俺も状況が呑み込めずチラッとウィルの方を向く。
「あぁ、女神レイ。どうかこれからも__」
ウィルはこちらの状況にも気づかず、まだ感謝の言葉を捧げている。
「どうなってんだこれ……」
俺は頭の中を整理しきれず間の抜けた声を出す。
第三章入りました。
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