たっぷりの恋
「ごめんっ!今日、残業で行けそうにない!ホンット、ごめんっ!」
・・・・・・とても自信たっぷりの悪意。
私は彼にそう言われると、許すしかない。
彼の悪意はもはや、感嘆にアタイする。
・・・・私があなたの浮気を知らないとでも思っているの?
・・・・でも、私は彼が好き。
だから、
「うえ〜!?・・・ん〜、でも、仕事だから仕方ないよね。アタシはちょっと、買い物して帰るよ。頑張ってね!」
と、言って、携帯を切る。
・・・・彼を切ってやろうか?
・・・・でも、私は彼が好き。
彼の自信たっぷりの悪意を、少し羨ましくも思ったりする。
私も自信をもって悪い事がしたい!
「ごめんねっ!今日、急な接待が入っちゃって!無理やりハゲ親父どものお供!だから、ホント、ごめんね!(うっしっし。ホントは、会社で人気の先輩とデートなのだ!)」
な〜んて、想像してみたりする。
・・・・でも、私は、悪い事が出来ない。
だって、彼が好きだから。
・・・ん?彼は、悪い事が出来る・・・・・・ん?私を好きじゃない?
・・・
・・・
・・・まさかね!だって、彼は、浮気はするけど私を好きだって言ってくれてるし!
・・・あ、でも、ちょっと、泣きそうだよ。
なんか、ちょっと、雨なんか降ってきたし。
傘持って、来てないし。
今日に限って、おろしたての靴だし。
“素敵な靴は、素敵な場所に連れて行ってくれる”って、言ったヤツ!出てこいっ!
そんな事を思っていると、私の頭の上にスッと傘が・・・
「ユキちゃん、何してんの!?こんな、雨の中で!風邪、引いちゃうよ!?」
誰だっ!?と思い、顔を上げると・・・・・会社で人気の先輩だ!
私は、泣きそうなのをこらえながら、
「あっ、なんでも、ないんです。先輩こそ、こんなところ彼女に見られたら、大変ですよ・・」
私がそう言うと、
「はは、彼女なんか居たらいいねぇ〜、こんな雨の日なんかに愛々傘なんかできちゃうし。ちょっと、雨、強くなって来たから、すぐそこのバーで少しだけ飲まない?」
と、言ってきた。
願ってもないチャンスだ!自信はないけど悪い事しよっ!
・・・・ホント、お洒落なバーだ!
・・・・先輩の細くて長い指・・・・すごい、セクシー!
・・・・あっ、まつげ、長いなぁ〜。
・・・・なんか、酔っ払ってきちゃったぁ〜。
「・・・ねえ、この後、予定とかあるの?」
そう耳元でセクシーな声で囁き、腰に長い腕を回してきた!
悪い事だ!悪い事だ!
今がチャンス!悪い事!
「うぬぼれないで下さいね。先輩くらいの男なら、ごまんと居ますから。」
満面の笑みでそう言うと、私は、スツールをそっと降り、雨の上がった店外に一人出た。
あまり星は見えないけど、私は夜空を仰ぎ、
「やった!悪い事、してやったぞ!会社の憧れの的を、振ってやったぞ!」
と喜んだ!
私は、すがすがしい気分でおうちに帰る事にした。
だって、私は彼が好き。
完