プロローグ
プロローグ
俺は今何もない白い空間の中にいる
おそらくはここは死後の世界なんだろう
確信はないが多分そうだ。だって俺は・・・・・
東京の下町に生まれ早くに両親を亡くし高校にもいかずに親が残した多額の借金を払うために中学を卒業してすぐに働いた。借金は10年程で全て払いきったが当時付き合っていた女が腐った女で俺のカードを勝手に使いカード会社から催促の連絡が届いて事が発覚。気づいた時には女とは連絡が取れずブラックリストに俺の名前がきざまれた。そして『運』がないことにその頃働いていた会社が倒産し強制解雇。その日暮らしを強いられ細々と暮らしていた。まるで世界に拒絶されているみたいに。だがここ最近やっとまともな生活ができるようになり会社帰りにスーパーに寄り帰宅しようと歩いていた時、赤信号なのにもかかわらず小さな女の子が飛び出したのだ。
親はどうしたんだとか、なぜ急に飛び出したんだとか、色々考えていたのかもしれないが気づけば俺は走っていた。
間に合わないと咄嗟に判断した俺は女の子に向かって飛びだし優しく押し出すように女の子を路肩に押し出しホッとしたところで横を向くと自分の顔よりでかいタイヤが目の前にあり、『アッ』と思ったときにはもう自分の意識はブラックアウトしていた。
「俺は・・・トラックにはねられて・・・死んだ・・よな。」
誰に語りかけたわけでもない独り言のように呟いた言葉に返事が帰ってきた。
「はいそうです。」
声の方に振り返るとそこには金髪碧眼の美女がそこにいた。
「初めまして私は運命の女神ディスティナといいます」
「初めまして神崎鳴海です」
「あまり驚かれないのですね」
「いやこれでも結構驚いている方なんですけど」
「そうは見えませんが・・・ここに来る方の大半の方は皆、現実逃避や自分が死んだことに納得いかず発狂するものが大半でましてや自己紹介をされた方は初めてです。」
「そう・・・ですか。あの聞きたいことがあるんですがいいですか?」
俺は曖昧な返事をしつつ気になっていることをきいた。
「死んだってことはここは天国とか死後の国とかになるんですか?」
「いいえ正確にはその一歩手前の空間。運命の間です」
「運命の間?」
わからない俺に女神はわかりやすく説明をしてくれた。
「運命の間とは本来その時に死ぬはずではない人間・生とゆうものを実感できないまま死んでしまった人間・不運によって死んでしまった人間のいずれかを選別しもう一度生まれ変わり世界を見ていただくために魂を一時保管するための空間です。」
「それに該当するのが俺だと?」
「はい。ですがあなたの場合は特別です。」
「特別?」
「はい。あなたの場合先ほどあげた3つ全てに該当しています。」
「・・・・・・・・・はい?」
女神は少し困ったような顔をしつつ答えた。
「まずあなたは本来あそこで死ぬはずの人間ではありません。少なくともあと18年は生きていたはずです。そして早くに両親を亡くしお金を稼ぐために友人や青春等も謳歌していません。最後にあなたの人生そのものが不運に満ちています。」
女神が答えてくれた三拍子揃った俺の特別に納得しつつも俺は女神に質問をぶつける。
「俺が三拍子揃った凶運の持ち主ってことは分かりましたがそれと生まれ変わりにどうゆう関係があるんでしょうか?さっきの話だと強制でもないようですし俺の次の候補にでも」
「世界に絶望していませんか?」
(!?)
「人間に失望していませんか?」
(!?)
俺の言葉に重なるように発せられた言葉は今まで32年間溜め込んでいた俺の心に住み着く暗い部分を的確に捉えていた。
「世界は平等なんです。プラスもマイナスも良いも悪いも完璧な平等はありえませんが微々たる誤差の範囲内ではバランスが保たれているんです。しかし運命の間に選別された人たちは負のエネルギーが強すぎるんです。バランスがかたよるぐらいに。それをあなたの場合3つ全てに該当する特別。負のエネルギーが測れないぐらいに」
「だからバランスの均衡を保つために生まれ変われと?」
「はい。女神の意見としてはそうですが私個人の意見としてはあなたに世界を見て欲しいからです。偏った負の世界しか見てこなかったあなたに世界にはまだ素晴らしいことがたくさんあるのだと知ってほしいのです。それに負のエネルギーに満ちているあなたが最後に誰かの為に幸せを与えたのにあなた自身に何もないのはやはり一神として見過ごせませんしね」
最後のセリフに鳴海は首をかしげた。
「幸せを与えた?」
「はい。あなたが最後に助けた女の子は生きていますよ。」
その言葉に鳴海は驚きつつも安堵していた。咄嗟に出た行動ではあったが鳴海はあの女の子がちゃんと無事かどうか確認する前に死んでしまっていた。だから心の中では気になっていたのだ。
「・・・そうか・・・良かった。」
そう言葉にだすと女神が聞いてきた。
「生まれ変わりの事に関してはいかがですか?」
「生まれ変わり・・・・かぁ。」
やはりあまり気が進まないとゆうか全然進まなかった。もし来世があるのだとしたら鳴海はカブトムシでもいいと思っていたぐらいだそれがまた人間になって世界を見ろとか正直罰ゲームとか拷問とか呪いとかの類にしか思えなかった。その感情が強かったのか鳴海は自分でも気づかないうちに言葉に出していた。
「また日本で一から」
「日本ではありませんよ?」
俺の発した言葉にまた女神の言葉が重ねられた。
「へっ?」
「地球でもありません」
「はい?」
この発言には驚いた。地球の日本でもう一度世界を見るものだと思っていた鳴海には地球意外日本以外には考えられなかった。そもそも地球いがいに星があること自体鳴海は知らない。なので鳴海は女神に聞いた。
「じゃあ俺はどこで生まれかわるんですか?」
「申し訳ございませんそれを教えることはできません。ですが世界はあなたが住んでいた地球一つではないのです。別次元・別空間にファンタジー、SF、近未来と様々な世界が存在しますその数ある一つの世界にあなたは生まれ変わりをはたします。」
32年間育った日本で良い思い出が一つもない鳴海にはこの情報は嬉しかった。その日暮らしを強いられ細々と生活してた頃なんかは時間を潰す為に小説やライトノベルに手をだし気づけばハマっていたぐらいだ。そうゆう世界に興味がありしかも実在すると言われれば興奮せずにはいられなかった。
「それなら生まれ変わりも・・・悪くない・・かな」
「本当ですか!?それでは今すぐにでも儀式を始めたいのですがよろしいですか?魂を一時的に保管している空間とはいいましても時間は限られていますので」
「あっあぁわかりました。すいません。じゃあお願いします。」
そう言うと女神は目をつむりお祈りをするような体制になった。
「我が運命の女神ディスティナの名において汝神崎鳴海に生命の樹の雫を与えん」
直後周りが淡く光りだす
「最後に鳴海。どうか世界に、自分に、絶望しないでください失望しないでください世界はあなたを拒絶しません。あなたの未来に幸多くの事が訪れるのを切に願って」
鳴海は初めて呼ばれた自分の名前に驚きつつも最後にとびきりの優しい笑顔に見送られ白い空間から淡い光とともに消えていった。
そこにはもう女神ディスティナしかいないしかし彼女の頬には一つの雫が流れていた。
「どうか最愛なる息子に女神の加護がありますように」
そして白い空間から消えていった。