一話
…………1…………
日課になっている、ハーブや薬草、野草などを取りに行くために私は怪我をしないよう、肌の露出が殆ど無い服に着替えて外に出ようとしたとき、村一番の狩人とも最近言われるようになってきた幼なじみのカイルが家にやってきた。
「おい、アメリア!」
「………………………」
森に早く行くために、カイルの呼びかけを無視する。
どうせいつものことだ。次に奴が言う言葉も決まっている。
「おい、俺様がせっかく声をかけてやったんだ!返事ぐらいしろ!」
「やです。いちいち返事をするのも面倒ですし。」
「なっ!俺様のことを無視するのか、このチビ!」
チビ?
この私をチビと言うか。確かに私は15歳では小さい方かもしれませんが、そんなに小さくない。……はずだ。
「失礼な。私はまだ成長期が訪れていないだけです。」
「えっ、マジで?」
「…………。」
この男、素で返事をしやがった!
「もういいです。さよなら。」
「お、おい!ちょっと待て!待てって!」
何にも分かっていない阿呆は放っておくに限る。
後方でこちらに手を伸ばしているカイルを尻目に私は自宅を後にした。
我が家は村の端の方にある。
そのため、家の裏手には森が広がっているのだ。
その森にはあまり危険な魔獣などはおらず、比較的様々なものを一年を通し採ることができる。
春になれば瑞々しい山菜が。
夏になれば森を流れる川に戻ってくる魚達が。
秋になればキノコや果実が。
冬は特に採るものは無いが、それ以外は基本的に採るものが存在している、我が村にとっても素晴らしい資源の一つである。
そして今は初夏。
この時期とれるのは龍花の実という、花の形が龍が大きく口を開いた姿に似ている山菜だ。
この赤い花をつける山菜は食べてみると甘辛く、クセになる味わいをしている。夏になると滋養強壮の食べ物として村で愛されているのだ。
その龍花の実を取りに、この花の自生する清流の川辺に来ていた。
龍花を根ごと採っていく。
10株程採ったところで止めにするが、龍花はやや根が長く細かく絡み合っており、非常に疲れる。
まぁ、その根もおいしく頂くけど。
というわけで汗もかいてしまったし、水浴びをしに行こう。
ただし、この川には他にも龍花の実を取りにくる人がいるので、私だけが知っている秘密の場所に行こう。
龍花が生えていた川の上流には池がある。
信じられないくらい澄んだ水で、なぜだかその周りには獣は一切近寄らない。
ともあれそこは他の村人も近づかず、居心地も良いので、よく利用させて貰っている。
「秘密基地サイコー。あ、復活草発見。」
復活草を見つけてしまった。
コレ、売ると物凄く高く売れる。
なんせ万能薬の原材料で、栽培に成功していないので自生しているものを採るしかない。
まさかこんな所に生えているとは…………。
いちおう採っておこう。
それから10分程歩くと木が生えていない場所が見えてくる。
ようやくオアシスについたか……………?
「なんか暗いな……………?何だろ?」
そして私は運命と出会った。
足が震える。
今日こんな所で死ぬことになるとは。
あぁ、天国のお父さん、お母さん。顔も知りませんが不出来な娘でごめんなさい。お父さん達よりも(おそらく)早く死んでしまいそうです。
あぁ村長ごめんなさい。
捨てられていた私を拾って育ててくれたのに、毎年あなたが楽しみにしていたアメビの実の砂糖漬けを勝手に食べてごめんなさい。
あぁカイルごめんなさい。毎日毎日俺様口調で話しかけてくるのがウザくて、靴にカイルの嫌いな虫をいれてごめんなさい。
「あぁ神様。豊穣祭であなたに捧げられた神聖な食べ物を勝手に祠から盗んでごめんなさい。……………でもおいしかったです。ごちそうさまです。」
『何を馬鹿なことを言っているのだ……………?』
懺悔をしている途中また頭の中に声が響く。
驚いて前を向くと、黒竜がこちらを見ていた。が、なぜだか呆れたような顔をしているように見える。
「なぜでしょう?無性にその真っ黒な鼻っつらを砕いてやりたくなりました。」
『気のせいだ。それよりも、なぜニンゲンがこんな場所にいる?』
「なぜといわれても、ここは私の秘密基地ですし。ってか、怪我してるじゃ無いですか!……………大丈夫なんですか?」
『もうじき我は死ぬ。色々やってきたツケが回ってきたのだろう。死んだら我の体は好きにす「あ。これ食べます?」……………は?』
あんまりにもドラゴンが遠い目をしてとんでもないことを言い出すので、顔を下にそむけたら復活草を見つけた。
復活草はそのまま食べると逆に死んでしまうほどの効能だけど、ドラゴンなら大丈夫じゃないかな?
『それは復活草………。確かにそれがあれば傷は癒えるが、良いのか?』
「別にいいですよ?どうせ使い道もありませんし。」
『なぜ手を振りかぶって、むぐっ!?』
ドラゴンの口の中に復活草を放り投げる。
ドラゴンの体が光り始め、あまりの眩しさに目があけていられない。
そしてーーー光が収まってゆっくり目を開けると、そこには小さなぬいぐるみのような可愛らしい子竜がいたーーー