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読みですが、竜也です。
歴史上で最も激しい戦いと言われた、第三次世界大戦により荒れ果てた灰色の無機質な街を三条竜也は走っていた。彼が走っている理由は、
「待て、クソガキィッ!!」
何だか怖いお兄さん達に追いかけられていたからである。
と言ってもほとんど、いや、全部三条が悪い。彼はどこぞの漫画やラノベの主人公みたいに闇取引を見てしまった訳でも、女の子を助けに行った訳でも、強いから不良に襲われる訳でもない。食べ物を盗んだ。ただそれだけである。
一昔前なら犯罪――いや、今でも法律の上では犯罪だ。警察や裁判所が人員不足で動けないだけである――になるこの行為だが、食料難に陥った現在は金持ち等から食べ物を盗むのは、当たり前に等しいことになっていた。
かといってそのような人物や組織から盗むのは容易では無いのだが、それを簡単にやってのける者もいた。銃や刃物の扱いを極めた者、もしくは――
「待てと言われて待つバカがいるかよ!」
三条はそう答え、音も無く姿を消した。
――超能力者。戦時中、偶然発見されたもので、戦争が激化した原因の一つでもある。
三条の能力は瞬間移動。姿を消したならば、当然別の場所に出現する。
「うおッ!? ……三条か。脅かすなよ」
移動先の建物に音も無く現れた三条に、仲間で彼の親友の八雲ハヤテは驚く。
「脅かしてねぇよ。いい加減慣れろ。そんなことより今回の戦利品は凄いぞ」
「……マジかよ、肉じゃないか」
戦争により大地が荒れ、植物が育ちにくくなった今では、大量の牧草を消費する家畜はかなり高級で肉、卵、ミルクは民間人の手には届かない物になっていた。そんなごちそうを食い盛りの十代が我慢できるはずも無く。
「俺達だけで食っちゃおうぜ。全員集まると人数が多すぎる」
三条はそう提案する。当然八雲も、
「賛成。食べれる時に食べるのはむしろルールだろ」
その後二人で食べきり、仲間にも見つからなかった。次は八雲が盗ってきて二人で食べるという真っ黒な約束を交わし、何事も無かったかの様に仲間の前で振るまった。
「本当に動かない警察様々だよな」
「そうか? 確かにお陰さまで食料が手に入るけどさ、逆に俺らの物も盗まれているんだぜ」
突然切り出された八雲の話に三条は答えた。 脈節の無い話が終わり、沈黙が広がる。数秒か数分のち、三条が口を開く。
「……まあ、最後に信じられるのは自分だけさ」
おかしいところ、直した方がよいところがあったら教えてください。