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序章――萩――
誰かを好きになったことは無い。
ただ、自分より弱かったから、
守れるなら守ってみようと思っただけだ。
私にとってそれが大切なものだったから。
でも本当に大切なものほど、
なんでかすぐに壊れてしまう。
誰もそんなこと、望んでないのに……
それが本当に大切なものであればあるほど、
理不尽とさえいえる速さで崩れ去っていく。
ただ、私はそれを悲しいと思えない。
たとえ壊れたとしても、
憶えていないから。
きっとそれはとても悲しいことなのだろう。
それでも私は悲しいと思えない。
姉ならどう思うのだろうか。
やっぱり悲しいと思うのだろうか。
分からない。
嗚呼、そうか。だから私はこんなにも
弱いのか。
――身を切るような冷たさの雨は今も私を責めている。
理由は全く、憶えてない。