姉と彼と私
私には双子の姉が居る。
「――でね、達也君ってば自分も出来そう、なんて言い出しちゃって、バク宙しようとするの」
明るく元気で表情豊か。結構可愛いんじゃないかなと思う。そんな姉に笑い掛け合いの手を入れながら、私は聞き手に回る。
「で、見事頭から着地! ゴチンッて。涙目になっちゃって!」
そんないつも明るい姉だが、特に最近は彼――藤堂達也の事を話す時の表情は輝いて見える程だ。
「痛そうだったけど、ちょっと可愛くって」
今も今日遊びに行っていた彼の家での出来事を、コロコロと表情を変えながら話している。
「普段大人しめなのに偶にああいう事するんだよね」
男の子ってそういうところあるよね。なんて、愛しそうに笑う。
姉と彼は付き合っているわけではない。しかし最近、2歳年上で、幼い頃から私たちの面倒を見てくれていた彼に、姉が恋をしたのだ。
正確には以前から惹かれていた。彼の中学卒業で少し距離が空き、自分の想いに気がついたのだろう。
少し前までお兄ちゃんなんて呼んでいたのに、今は達也君、だ。
それは、姉の事ばかり見ている私には分かる。
姉に恋をしている私にはよく分かる。
元より姉の事は大好きだったが、この好きが両親や兄のように慕っている彼とはまた違うものだと、姉が彼に恋をするまで気付かなかった。いつから、なんて分からない。
そして気付いた時、気付いてしまった時私は悩んだ。が、選択肢など初めからない。伝えるわけにはいかないのだから。
姉は、彼の話をニコニコと笑って聞く、妹としての私を求めている。自分に恋をする私ではない。
彼も姉の事を憎からず思っていると思う。最近は私が一方的に気まずく思い、姉に比べ彼とは疎遠気味だけれど付き合いは長い。それなりに分かっているつもりだ。
何よりこういう事は当事者たちよりも、周りの方がよく分かるものなのかも知れない。
2人はいずれ付き合う事になるのだろう。
輝く笑顔で報告してくる姉に、私も笑顔で祝福する。そんな少し未来の事を思い浮かべる。
泣くのは私らしくない。嫌だって縋るのは私らしくない。姉の求める、私らしくない。
そんな事を考えていると、姉は少しだけ表情を曇らせ私の顔を覗き込んできた。
どうしたんだろう。そんな表情似合わないのに……
「――アキ、大丈夫?」
「――え?」
「アキさ、最近偶に変だよ。笑ってるけど笑ってないっていうか、無理してる気がする」
「……そんな事ないよ」
いつも通りにしているつもりだけれど流石に鋭い。動揺する気持ちを抑え、笑いながら返事をする。でも――
「ほらまた。アキらしくないよ」
今は自分でも上手く笑えている自信がない。それでも、らしい表情を作り話し掛ける。
そう、姉の言う通りに。私らしく、姉の求める私らしく――
「違うの。お姉ちゃんさ、最近お兄ちゃんと仲良いでしょ? 話聞いてると羨ましくってさー」
「えっ、いやその、それは……」
予想外の話だったようで動揺している。顔が赤い。そんな姉を見て少し落ち着きを取り戻す。
「私もそういう体験したいなーって、でもこればっかりはねぇ」
相手も居ないし、と笑う。
「そ、そっか」
完全に信用したかは分からないけれど、今はなんとか誤魔化せたみたいでホッとする。
そして私は、よくお似合いですよ。なんておどけ、からかう。
少し胸が痛いけど、別にイイ。
知られてはいけない、この想い。大好きな姉にだけは、絶対。
これからも私は、私らしく姉に笑い掛ける。
キーワードにガールズラブを入れるか悩みましたが、キーワードで落ちてしまうので入れない事にしました。申し訳ございません。