表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/52

第11話 携帯兵糧ではなく、お弁当

 勇者学校で迎える最初の朝は、鐘の音から始まった。


 魔王城の朝は、もう少し重々しい。


 遠くで魔獣が吠え、訓練場では兵士たちの掛け声が響き、廊下ではノノが無音で扉を開ける。


 対して、勇者学校の女子寮は明るかった。


 鐘が鳴り、誰かが廊下で「寝坊した!」と叫び、別の誰かが「リボン知らない!?」と叫び、さらに別の誰かが「朝ご飯終わっちゃう!」と叫ぶ。


 敵地の朝にしては、かなり騒がしい。


 私はベッドの上で身を起こし、まず窓を見る。


 鍵は閉まっている。


 次に扉。


 昨夜確認した通り、異常なし。


 ティナは窓側のベッドで毛布にくるまり、まだ眠っていた。


 ミナはすでに起きており、静かに弓の弦を確認している。


 朝から武器の状態確認。


 よい習慣だ。


「おはようございます、ミナ」


「……おはよう」


 ミナは短く返した。


 彼女の視線が私の手元に移る。


 私は寝る前に枕元へ置いていた小さな短杖を確認していた。


「それ、毎朝見るの?」


「はい。異常があれば困ります」


「そう」


「ミナも弓を確認していますね」


「うん」


「合理的です」


 ミナは少しだけ不思議そうな顔をした。


「そういうふうに言うんだ」


「他にどう言えば?」


「別に。悪くない」


 悪くない。


 これは、好意的評価と見てよいのだろうか。


 慎重に記録する。


 ミナとの関係、わずかに改善の可能性あり。


「んん……あと五分……」


 ティナが毛布の中で呻いた。


「ティナ。起床時間です」


「あと五分だけ……」


「鐘はすでに鳴りました」


「鐘が早いんだよぉ……」


「鐘に責任を転嫁しても、朝食時間は延長されません」


「言い方が厳しい……」


 ティナはようやく起き上がった。


 髪が跳ねている。


 彼女は眠そうな目で私を見て、それからミナを見て、最後に自分の髪を触った。


「うわっ、ひどい! ルシェラ、なんでもうそんなに整ってるの!?」


「起床後すぐに身支度を済ませました」


「早すぎるよ!」


「魔王――いえ、辺境の家では、朝の準備は迅速に行うものと教わりました」


「今、何か言いかけなかった?」


「気のせいです」


 ミナの視線が一瞬こちらに向いた。


 危ない。


 朝は注意力が落ちる。


 今後、起床直後の発言管理を強化する必要がある。


 三人で食堂へ向かう。


 廊下は昨夜以上に騒がしかった。


 新入生たちはまだ寮の構造に慣れておらず、あちこちで道を間違えている。


 階段の前では、ポルカが男子寮側から走ってきていた。


 なぜ女子寮側にいるのか。


「ポルカ」


「ひゃっ!? あ、ルシェラさん! 違うんです! 僕は女子寮に侵入しようとしたわけではなく、食堂へ行こうとして、気づいたらここに!」


「経路を誤ったのですね」


「はい! 地図は見たんです! 見たんですけど、廊下が僕を惑わせてきて!」


「廊下は惑わせません」


 ミナが静かに言った。


 ポルカはびくっとした。


「ミナさんの正論、朝から鋭い……!」


 ティナが笑いながらポルカの背を押した。


「ほら、一緒に行こ。食堂はこっち」


「助かります……朝食に辿り着けないまま一日が終わるかと……」


「終わらないよ」


 朝食は、昨日の夕食よりも簡素だった。


 パン、スープ、卵、焼き野菜。


 私は栄養配分を確認しつつ食べる。


 ティナはパンにジャムを塗りすぎている。


 ポルカは周囲を警戒しながら、卵を大事そうに食べている。


 ミナは静か。


 食堂の向こう側には、アレンがいた。


 彼は一人で座り、パンをかじりながら教科書を眺めている。


 勉強熱心というより、周囲と会話しない口実に見えた。


 クロードは貴族生徒たちと同じ席にいる。


 姿勢がよい。


 朝食中でも家柄の威厳を維持している。


 人間社会では、食事の席にも階層が出るらしい。


 私は観察を続けようとしたが、ティナに止められた。


「ルシェラ、ご飯中に周りを分析する顔してる」


「していましたか」


「してた」


「改善します」


「改善っていうか、もっと普通に食べよ?」


「普通に食べる」


 普通。


 やはり難しい。


 朝食後、私たちは一年二組の教室へ向かった。


 今日から本格的な授業が始まる。


 最初の授業は、担任グレインによる基礎戦術講義だった。


 彼は黒板に大きくこう書いた。


 ――勇者とは何か。


 教室が静かになる。


 グレインは振り返り、生徒たちを見た。


「お前たちは勇者学校に入った。だが、全員が勇者になるわけではない」


 その言葉に、数人が息を呑んだ。


 アレンは頬杖をついたまま、少しだけ目を細める。


「勇者の名を得る者は、ごくわずかだ。多くは騎士、魔法士、治癒士、斥候、伝令、研究員、あるいは別の道へ進む。それでもこの学校で学ぶ意味はある」


 グレインの声は硬い。


 だが、冷たくはない。


「勇者とは、強い者の名ではない」


 黒板に、次の一文が書かれる。


 ――最後に逃げなかった者の名だ。


 私はその文字を見た。


 最後に逃げなかった者。


 魔王城では、逃げることを一概に否定しない。


 生きて帰ることも任務である。


 ノノもそう言った。


 生きて帰ることが最優先。


 だが、グレインの言葉は「逃げるな」とは少し違う気がした。


 最後に。


 つまり、逃げるべき時を知ったうえで、それでも立つべき時に立つ者。


 そういう意味かもしれない。


「先生」


 クロードが手を挙げた。


「では、力のない者でも勇者になれると?」


 教室の空気が少し動く。


 アレンへの視線が混じった。


 グレインはクロードを見る。


「力の種類による」


「種類、ですか」


「剣の力、魔法の力、治癒の力、見る力、逃がす力、耐える力。戦場で必要なものは一つではない」


 アレンの指が、机の上で止まった。


 私はそれを見た。


 彼も聞いている。


「ただし」


 グレインの声が低くなる。


「自分の弱さを言い訳にする者は、何者にもなれん」


 厳しい。


 だが、必要な言葉でもある。


 アレンは顔を上げない。


 クロードも黙った。


 ティナは真剣にノートを取っている。


 ポルカは「逃がす力……逃げてもいい力……?」と小さく呟いている。


 ミナは黒板を静かに見ている。


 私はグレインの言葉を心の中で記録した。


 勇者とは、強い者の名ではない。最後に逃げなかった者の名。


 これは人間側の勇者観として重要。


 同時に、アレン・フォルクの今後に関わる可能性あり。


 午前の授業は、基礎戦術、校則説明、魔法安全講義と続いた。


 校則説明では、廊下での魔法使用禁止、無断決闘禁止、召喚獣の持ち込み制限、食堂での魔法加熱禁止などが告げられた。


 私は一つ一つ確認する。


 無断決闘禁止。


 つまり、許可があれば決闘可能なのか。


 そこを質問しようとしたが、ティナに袖を引かれた。


「聞かない方がいいよ」


「なぜですか」


「たぶん目立つ」


「……承知しました」


 危なかった。


 午前の授業が終わると、昼食時間になった。


 この学校では、食堂へ行く者もいれば、教室や中庭で持参した弁当を食べる者もいるらしい。


 弁当。


 ノノから厳重に注意された言葉である。


 携帯兵糧ではない。


 お弁当。


 かわいく言う必要あり。


「ルシェラ、お昼どうする?」


 ティナが椅子をこちらへ向けた。


「食堂を利用する予定です」


「えー、せっかくだし今日は教室で食べようよ。あたし、お弁当持ってきたんだ!」


 来た。


 お弁当。


 私は慎重に頷いた。


「お弁当ですね」


「そう、お弁当!」


「携帯兵糧ではなく」


「そう! 分かってるじゃん!」


「学習しました」


「偉い!」


 褒められた。


 人間は褒めると伸びる。


 だが、魔王の娘も少し嬉しい。


 私は自分の反応を心の中で記録する。


 褒められると士気が上がる。人間に限らない可能性あり。


 ティナは机の上に布包みを広げた。


 中には、小さく握ったパン、焼いた肉、卵焼き、野菜の酢漬け、果物が詰められていた。


 彩りがよい。


 保存性と栄養配分も悪くない。


 魔王軍の遠征食に比べると、かなり柔らかい。


「これが、お弁当」


「うん。家で作ってきたんだ。昨日のうちに下ごしらえして、朝に詰めて」


「手間がかかっていますね」


「まあね。でも、好きなんだ。誰かと食べるの」


 ティナは照れくさそうに笑った。


 誰かと食べるのが好き。


 食事を単なる補給ではなく、関係構築の場として扱う傾向。


 昨日の夕食でも確認した仮説だ。


 私は興味深く弁当を見つめていた。


 すると、ティナが卵焼きを一つ、私の前に差し出した。


「はい、ルシェラ。食べてみて」


 食糧の分与。


 再び。


 今回は明確にお弁当のおかずである。


 ノノの講義が頭の中に蘇る。


 友人から食べ物を分けてもらった場合。


 感謝して受け取る。


 補給線の共有と言ってはいけない。


 心理的負債を心配しすぎてはいけない。


 私は両手で受け取った。


「ありがとうございます」


「どうぞどうぞ」


 私は卵焼きを食べた。


 甘い。


 少し塩気もある。


 柔らかい。


 魔王城の料理人が作る卵料理より素朴だが、温かい味がする。


「おいしいです」


「ほんと?」


「はい。補給効率だけでなく、士気向上効果が高いです」


「惜しい! でも褒めてるのは分かる!」


「褒めています」


 ティナは嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見た瞬間、私は少しだけ理解した。


 彼女は食べ物を分けることで、何かを得ようとしているのではない。


 ただ、相手が喜ぶのを見たいのだ。


 無償の食糧提供。


 心理的負債ではなく、友人関係の表現。


 人間社会は複雑だ。


 だが、すべてが危険というわけではないらしい。


「それで、ルシェラのお昼は?」


「私は食堂を利用する予定だったので、持参していません」


「じゃあ、これ半分食べていいよ」


「半分」


「うん。多めに作ってきたし」


「それは、かなり大きな補給線の――」


 言いかけて止まる。


 ティナがじっと私を見る。


 私は言い直した。


「……お弁当の共有ですね」


「よし!」


 ティナが親指を立てた。


 成長している。


 私は自分を少し褒めた。


 ただ、弁当を半分もらうのはさすがに重い。


 何か対価を考えるべきか。


 いや、友人関係では「ありがとう」で十分な場合がある。


 だが、継続的な一方通行は関係の不均衡を招く。


「ティナ」


「うん?」


「次回は、私も何か用意します」


「え、ほんと? 楽しみ!」


「携帯兵糧を」


「お弁当!」


「お弁当を」


「よし!」


 魔王城式の保存食をそのまま出すのは危険だろう。


 ノノに相談する必要がある。


 通信石は緊急用なので使えない。


 手紙か。


 人間界のお弁当について、ノノに教えを請うべきかもしれない。


 その時、教室の前方から声がした。


「平民の弁当を、辺境貴族の娘が分けてもらうのか」


 クロードだった。


 彼は自分の席で、きちんとした昼食の包みを広げている。


 その周囲には数人の貴族生徒。


 声には露骨な悪意はない。


 だが、身分差を意識した響きがあった。


 ティナの手が止まる。


 彼女は笑おうとしたが、少し表情が硬い。


「いいじゃん、別に。友達なんだし」


「悪いとは言っていない。ただ、家の格というものもある」


「弁当のおかずに家の格が関係するのですか」


 私が尋ねると、クロードは少し顔をしかめた。


「そういう単純な話ではない」


「では、どういう話でしょう」


「貴族には貴族の、平民には平民の距離感がある。無用な馴れ合いは、互いの立場を曖昧にする」


「なるほど」


 私は頷いた。


「つまり、身分が上の者は、下の者から食糧提供を受けるべきではないということですか」


「まあ、簡単に言えばそうだ」


「では、身分が上の者は、下の者へより多く提供する責任があるのですね」


 クロードが止まった。


 教室の空気も少し止まる。


 ティナが小さく「あ」と言った。


「……それは」


「身分が上なら責任も上。昨日あなたが言っていたことと一致します。であれば、平民から一方的に受け取るのが問題なら、貴族側がより多く支援すれば均衡します」


「君は、またそういう」


「合理的では?」


「正論で殴るな」


 後ろからアレンの声がした。


 彼は自分の席で、硬そうなパンをかじっていた。


 いつの間に聞いていたのか。


「ルシェラ、それたぶん正しいけど、クロードの逃げ道も残してやれ」


「逃げ道」


「言い返せなくなるだろ」


「議論では、誤りがあれば修正すべきでは」


「お前、ほんと敵に回したくないな」


 アレンは呆れたように言った。


 クロードは咳払いをする。


「別に、支援を否定しているわけではない。貴族には責任がある。それは当然だ」


「では、ティナのお弁当を問題視する必要はありませんね」


「……今回に限っては、そうだな」


「承知しました」


 私は頷いた。


 ティナが横で小さく笑っている。


「ルシェラ、ありがと」


「私は確認しただけです」


「それでも、ありがと」


 ティナの声は少し柔らかかった。


 私は卵焼きの残りを見た。


 平民の弁当。


 貴族の距離感。


 身分差。


 ティナは明るく振る舞っているが、こういう場面で遠慮を求められてきたのだろう。


 クロードは悪人ではない。


 だが、身分という枠組みを当然のものとして話す。


 人間社会にも階層がある。


 魔王城の階級制度とは違うが、確かにある。


 私は心の中で記録した。


 人間社会における身分差は、食事や交友にも影響。

 ティナは平民として遠慮を抱えている可能性。

 クロードは責任という言葉に反応する。活用可能。


 その時、アレンが私の机の横まで来た。


「で」


「はい」


「お前、わざとやってるのか?」


 私は首を傾げる。


「何をでしょう」


「クロードを黙らせるやつ」


「黙らせる意図はありません。論点を整理しただけです」


「それが一番怖いんだよ」


「怖いですか」


「怖いというか、面倒というか……いや、面白いけど」


 アレンはそう言って、ティナの弁当をちらりと見た。


「うまそうだな」


「食べる?」


 ティナがすぐに聞く。


「いや、いい。俺はこれがある」


 アレンは硬そうなパンを掲げた。


 それは昼食というより、非常用保存食に近い。


 私は少し気になった。


「アレン、それはお弁当ですか」


「購買で買ったパン」


「栄養配分が偏っています」


「腹に入ればいいだろ」


「活動効率が下がります」


「お前は俺の食事管理係か」


「必要であれば」


「要らない」


 即答。


 だが、彼の食事は本当に偏っている。


 落ちこぼれ勇者候補の観察継続には、栄養状態も重要かもしれない。


 ティナが笑いながら、卵焼きを一つアレンに差し出した。


「はい、アレンも食べなよ」


「いらないって」


「いいから。余ってるし」


「余ってるって量じゃないだろ」


「友達だからいいの」


 友達。


 ティナはまた簡単に言う。


 アレンは一瞬だけ困ったような顔をした。


 それから、ぶっきらぼうに卵焼きを受け取る。


「……どうも」


「どういたしまして!」


 アレンはそれを食べた。


 表情が少しだけ変わる。


「うまいな」


「でしょ!」


 ティナが嬉しそうに笑う。


 私はその様子を見た。


 食糧の共有。


 士気向上。


 関係改善。


 やはり弁当には、戦略的価値がある。


 ただし、そう言うとティナに訂正されるだろう。


 私は言葉を選んだ。


「お弁当は、重要ですね」


「うん! お弁当は大事!」


 ティナは満足そうに頷いた。


 昼食後、午後の授業が始まった。


 魔法安全講義。


 基本詠唱の復習。


 寮生活の注意。


 私はノートを丁寧に取る。


 人間式魔法の説明には、魔族式から見ると非効率な部分もある。


 だが、今は黙っている。


 訂正したくなっても黙る。


 ノノの教えは偉大だ。


 放課後。


 教室を出ようとすると、ティナが私の隣に並んだ。


「ルシェラ、今日はありがとね」


「弁当の件ですか」


「うん。クロードに言ってくれたこと」


「私は論点を確認しただけです」


「それでも、嬉しかった」


 ティナは少し照れたように笑う。


「あたし、平民だからさ。貴族の子と話す時、ちょっと気を使うんだよね。別にみんな嫌な人ってわけじゃないけど、なんか、線があるっていうか」


「線」


「うん。でもルシェラ、そういうの気にしないでしょ」


「身分差は認識しています」


「認識してても、気にし方が違うんだよ」


 ティナは私を見た。


「ルシェラって変だけど、公平だよね」


 公平。


 その言葉は、少し意外だった。


 私は公平であろうとしたのではない。


 ただ、身分が上なら責任も上だと考えただけだ。


 魔王城でも、上に立つ者ほど責任を負う。


 父上がそうだった。


 だから、当然だと思った。


「公平であることは、組織維持に必要です」


「ほら、そういうとこ」


 ティナは笑う。


「でも、ありがと」


 私は少しだけ目を伏せた。


「どういたしまして」


 そう答えると、ティナはさらに嬉しそうにした。


 ありがとう。


 どういたしまして。


 簡単な言葉。


 だが、人間関係では重要らしい。


 寮へ戻る途中、ミナが少し前を歩いていた。


 彼女はこちらを振り返り、短く言った。


「ルシェラ」


「はい」


「今日の、弁当の話」


「はい」


「……悪くなかった」


 それだけ言って、ミナは先に歩いていった。


 ティナが小声で囁く。


「ミナがああ言うの、けっこう珍しいと思う」


「そうなのですか」


「うん。たぶん、褒めてる」


「褒めている」


 私はミナの背中を見た。


 対魔族感情あり。


 警戒対象。


 接し方に注意。


 その分類の横に、新しい情報を加える。


 不公平を嫌う可能性。


 そして、少しだけ、会話の余地あり。


 その夜。


 私は寮の机で、父上への報告書の下書きをした。


 正式な報告はまだ送らない。


 だが、記録は必要だ。


 ――勇者学校初日。

 ――人間社会では、食事の共有が友人関係を強化する。

 ――弁当は携帯兵糧ではない。お弁当と呼称する必要あり。

 ――平民と貴族の間には見えない線が存在。

 ――身分が上なら責任も上、という論理は一定の効果あり。

 ――アレン・フォルク、栄養状態に課題あり。

 ――ティナ・マール、食糧共有による士気向上能力が高い。


 そこまで書いて、私は羽ペンを止めた。


 最後に一行、迷いながら書き足す。


 ――お弁当を分けてもらうと、少し嬉しい。


 報告書としては不適切かもしれない。


 だが、事実ではある。


 私はその一文を消そうとして、しばらく迷った。


 結局、消さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ