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本邸の人達

「これが陽の光かあ……」


 お嬢様よりも一足先に解放された私は、三日ぶりに太陽の光を浴びると、大きく伸びをする。

 空腹もさながら、やはり汚い牢屋での生活は精神的にきつく、やはり人間には太陽と言うものが必要だと思い知らされた三日間だった。

 さて、私がいなくなった屋敷も気になるところだし。早く屋敷へ戻ろう。


 そう思い、私はお嬢様の屋敷への帰路を歩きだした。

 しかし……


 ――バッシャーン!


 すると突如、頭から大量の水が降りかかった。


 何事かと周囲を見回すと、背後にいたのは、地下牢で私に嫌味を言ってきていたメイドたちだった。


「あら、ごめんなさい。あまりにもカビ臭かったから、つい水をかけてしまったわ。でもこれで、少しは綺麗になったんじゃないかしら?」


 そう言って、メイドたちは楽しそうにクスクスと笑いながらこちらに近づいてくる。


「あなた、主人を置いてよく出てこられたものね?」

「そうそう、もっとお嬢さまと一緒にいてあげればいいのに」

「それはお嬢様が困るわよ、地下牢に入ってまで、下級貴族出のメイドと一緒だなんて。」

「でも、私はお似合いだと思うけどね。」


 ……さて、どうしたものか。

 濡れそぼった私を見て嘲笑うメイドたちを前に、思考を巡らせる。

 ここはお嬢様のメイドらしく、反論して立ち向かうべきか。

 それとも、何も言わず穏便にやり過ごすべきか……。


 黙ったまま考え込んでいると、その反応のなさが気に食わなかったのか、メイドの一人が、舌打ち混じりに一歩前へ出てきた。


「なに、その生意気な態度は? なんとか言いなさいよ!」

「いっ……!」


 私は肩を強く突き飛ばされ、後ろへよろめくと、そのまま地面に尻もちをついた。


「やっぱり、主人よりも先に許されるメイドなんてありえないわよね?あなたにも、もう少しお仕置きが必要じゃないかしら?」


 そう言ってメイドが魔法を唱え始めると、私の頭上に水の塊が現れる。

 そうだった。ここは、魔法が当たり前に存在する世界だ。

 さっきの水も、きっとこの魔法によるものだったのだろう。


 私は思わず目を閉じる。


「こら! お前達、何をやっている!」


 すると、遠くから聞こえてきた男の声に目を開けると、騎士らしい青年がこちらへ向かって走ってくるのが見えた。


「……チッ、行くわよ。」


 魔法を唱えていたメイドが不機嫌そうに舌打ちし、魔法を解除してその場を立ち去る。

 そして、少し遅れて駆けつけてきたのは、私より少し年上に見える若い騎士だった。


「大丈夫か?えーと……お前、見ない顔だけど、もしかして新入りか?」

「あ、いえ、私はリリスお嬢様の専属メイドです」

「あー……例の……」


 私がそう告げると、騎士は事情を察したのか、気まずそうに頭を掻いた。


「話は大体聞いている。なんつーか、災難だったな。」


 その言葉に、私は思わず顔を顰めた。

 彼の言う“災難”とは、今のことか、それとも独房に入れられていた件か。

 まあ、きっと両方だろう。


「仕方ありません。それより助けていただきありがとうございました。私はリリスお嬢様の専属メイドをしているエリー・トワイトと申します。」

「俺はディル・スケールだ、見ての通りエトワール家の騎士をやっている。」


 私は礼を述べ、改めて挨拶を交わした。

 ディルと名乗った青年は、赤い髪に緑色の瞳が印象的な、なかなかの好青年だった。

 ただ、乙女ゲームに出てくる攻略対象のような、整いすぎた顔立ちではない。

 多分、私と同じ、モブの立ち位置なのだろう。


「しかし、リリスお嬢様のメイドか……噂はいろいろ聞いているが、大変じゃないか?」

「噂がどういうものかは知りませんけど、全然大変じゃありませんよ。なにせ、お嬢様はとても素晴らしい方ですから。」


 そう言って、私はディルに向けて、お嬢様の素晴らしさを語り始めた。


「へえ、随分聞いていた話と違うな……関わりもないから、あまり気にすることはなかったけど、なんだか興味が沸いてきたな。」

「……お嬢様に……興味が?」


 その言葉に、私の中で何やらドス黒い感情が芽生え始める。


「ああ、勘違いするな。単純にどういう人なのかが気になっただけで、そういう意味じゃない。それに俺みたいな一介の騎士がお嬢様に手なんか出せるわけないだろ?」

「なるほど、そういうことですか。」


 確かに、そう言われればそうだ。


「それにしてもお前、本当にお嬢様を慕っているんだな。語っている時の目、輝いていたぞ?」

「当然です。だって私は、専属メイドですから。」


私はそう言って胸を叩いた。

すると、まるで空腹を思い出したかのように、突如お腹が盛大に鳴り響いた。


「……すみません。独房では、ほとんど食べていなかったもので。」

「ハハハ、それじゃあ仕方ないな。それじゃ、俺も訓練に戻るよ。また何かあった時は、遠慮なく言えよ。」

「はい、ありがとうございました。」


私はディルに礼を告げ、立ち去っていく彼を笑顔で見送った。

ディルはああ言っていたけれど、正直なところ、私はここにはあまり来たくなかった。

できれば、もう会わないで済むことを願いたいものだ。


その後は、これ以上揉め事に巻き込まれないよう、私は足早に離れの屋敷へと戻っていった。




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