あくまで仕事 ①
「えぇ⁉リリスお嬢様が、王城に招待ですか⁉」
本邸から戻ってきた私たちは、アリサとカリーナに公爵たちとの話の内容を伝える。
すると、それを聞いたアリサが素っ頓狂な声を上げた。
「ええ。と言っても、私はあくまで妹のおまけみたいなものだけどね。」
向こうがどういう思惑で招待したのかは分からないが、お嬢様はあくまで妹の付き添いという形で同行するつもりのようだ。
しかし、アリサは眉をひそめた。
「これは由々しき事態だわ……」
「どうして?別にいい事じゃない。」
カリーナの言葉に、アリサは大きく首を振った。
「駄目よ!だって王城なんかに行ったら、お嬢様の魅力が王家の方々に……いえ、国中に知れ渡ってしまうかもしれないじゃない!」
やっぱりいい事なのでは?と首を傾げていると、アリサがぶつぶつと何やらと呟き始めた。
「もしお嬢様たちが二人で陛下に謁見なんてすれば、エリスお嬢様と比べて、リリスお嬢様の魅力が際立ってしまう……そうなれば陛下もリリスお嬢様を気に入り、その様子を見た殿下はきっとこう考えるはず『ああ、やはり王族に相応しいのはリリス嬢だけだ。だが公爵は僕とエリスを婚約させようとしている、当然そのような事を許すはずがない。それどころか、このまま帰してしまえば、僕は二度とリリスと会えなくなるかもしれない……だから――君を返すわけにはいかない』って……」
アリサはそこまで一気にまくし立てると、さらに顔を青ざめさせた。
「そ、それで、殿下はお嬢様の紅茶に眠り薬を混ぜて、体調不良を理由にそのまま自室に連れ込んで――いやああああああああああああああああ⁉」
……なんか一人で変な妄想を膨らませたアリサが、勝手に発狂し始めた。
「……あんた、想像力豊かね。小説でも書けば、年頃の令嬢なんかに売れるんじゃない?」
「嫌よ!そもそもそんな作品誰が読むのよ!」
カリーナの軽口に、アリサは即座に全力で否定する。
まあ、最後の展開はともかく、そういう類のジャンルの物語はこの世界でも若い女性たちに人気だったりするので需要性はあると思う。
「安心しなさい、もしそんなことになったら、殿下の首を取って帰って来るだけだから。」
「お嬢様……」
「いや、しれっととんでもないこと言ってるんだけど。」
お嬢様の物騒な発言に、アリサは目を潤ませる。
心なしか、最近のアリサは以前と比べて随分過激になってきた気がする。
特に異性に関しては、その傾向が顕著だ。お嬢様の影響か、それとも冒険者として荒くれ者と対峙することが多いからか……そういう環境に身を置いてきたせいかもしれない。
「それよりも、城に行くにあたって、一人侍女として連れて行こうと思うのだけれど――」
「あ、それなら、勿論私が――」
私はお嬢様の付き添いの侍女として、真っ先に手を挙げて立候補しようとする。
「残念だけど、もう決めているの。カリーナ、あなたが来なさい。」
「……え?私ですか?」
指名が予想外だったのか、カリーナは自分を指さして尋ねる。
「ええ。エリーとアリサには悪いけれど、城に連れて行く以上、侍女であっても貴族としての振る舞いは求められるわ。下級貴族で、あまり他の貴族と関わりのなかったあなたたちには少し荷が重いもの。その点、元伯爵家令嬢のあなたなら慣れているでしょう?」
「ま、まあ、確かに……昔は城のパーティーやお茶会にも出ていましたし。淑女としてのマナーなら、二人よりは身についていると思いますけど……」
褒められたのが嬉しいのか、カリーナはそっぽを向きながら答える。
「お嬢様……私も経験を積むためにも行ってみたいのですが――」
「エリーは今日、本邸に連れて行ってあげたでしょう?だから今回はお預けよ。」
「うう……はい」
「お嬢様、私は冒険者としてそれなりに場数を踏んできましたよ!」
「貴族界隈と冒険の修羅場を同じなわけないでしょう……あなたを連れて行ったら、トラブルを起こす未来しか見えないもの。」
そう言われてしまうと、私たちは観念し、潔く留守番をすることになった。
そして翌日、私たちは王都へ向かうお嬢様の準備をする。
服装に関しては、あらかじめ公爵が謁見用として用意したドレスを着ることになっている。
グレーに近い地味なドレスで、正直、普段着ているドレスの方がまだましだった。
ちなみに着替え用として、同じドレスが複数用意されている。
あくまで帰ってくるまではこの地味な服装でいさせるらしい。
とりあえず時間の指定もされていなかったので、いつでも出られるように朝から準備だけして待っていると、屋敷の前に複数の兵士に囲まれた公爵家の紋章の入った豪華な馬車が停まった。
「遅いわね、何しているの、早く乗りなさい!」
「そうです、エリスお嬢様をいつまで待たせるつもりですか⁉」
馬車が停まると同時に窓が開き、中からエリスと付き添いのメイドが顔を出し、お嬢様を急かすように声を張り上げた。
地味なドレスのリリスお嬢様とは対照的に、エリスは煌びやかなドレスとアクセサリーを身に纏っており、並べば、その差は一目で分かるようになっていた。
……公爵の狙いは、きっとこれなのだろう。
そしてエリスと一緒に乗っているメイドは、以前私に水をぶっかけた主犯格のメイドだった。
もし同行していたら、あの人たちと同じ馬車で過ごすことになっていたのか……。
そう考えると、留守番で正解だったのかもしれない。
「それなら、せめて出発時間くらい教えてほしかったわね。」
「言い訳しないでください。そんなことをしなくても、あなたが外でずっと待っていればよかっただけでしょう?ほら、ぐずぐずしないでさっさと乗ってください!」
メイドの失礼な態度にも、お嬢様は何も言わず素直に従った。
……逆に、何も言わないのが怖い。カリーナも同じことを思ったのか、顔を引きつらせている。
二人が馬車に乗り込んだのを確認すると、馭者が馬を走らせる。
私は何も起こらないことを祈りながら、アリサと共にお嬢様とカリーナの乗った馬車を見送った。




