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来客②

 ――レオンハルト視点


「はぁ……」


 エトワール公爵家への訪問を終え、王城へと向かう馬車の中、僕は同乗しているのが護衛のクレスだけなのを良いことに大きなため息を吐いた。


 いつもなら、この程度の態度でも小言の一つは飛んでくるのだが、今回は同情しているのか、クレスは険しい表情を浮かべるだけで、何も言ってこなかった。

 今日、僕が公爵家を訪れたのは、この家の令嬢であるエリス嬢と、婚約を前提とした話し合いのためだった。


 彼女と初めて会ったのは、今から五年ほど前に城で開かれた記念式典のパーティーの時だ。

 その時の彼女の態度は、正直に言って、決して好ましいものではなかったが、当時はまだ幼かったこともあり、そういうものだと受け止めていた。

 しかし、あれから五年が経った今も、その印象は何一つ変わっていなかった。


 婚約の話自体は、当時から何度も持ち上がっていたが、エリスのことをあまり良く思っていなかった母が、そのたびに話を引き延ばしていたらしい。

 しかし、他に見合う令嬢も見つからないまま、気づけば五年が過ぎ、僕は十二歳になっても、いまだ婚約者のいない状況が続いていた。

 そのことに、ついに貴族派の面々が痺れを切らし、半年前に開かれたパーティーの席で、事実上、話を前へ進められたのだ。

 そして今日、エリス嬢と二人で話をして、改めて確信した。

 彼女は、とても王妃になれる器ではない。


 使用人に対する態度に、目上の人間に対する礼儀作法、そして何より、政治への関心があまりにも薄すぎた。


「なあ、クレス。僕はこのまま、エリス嬢と婚約することになるのだろうか?」

「恐らくは……現在、三つある公爵家のうち、殿下と年齢が近い令嬢がいるのは、エトワール公爵家だけですから」


 そう言われると、僕は何も言い返せなくなる。

 エトワール家は、公爵家の中でも最も王族に近しい血筋を持つ家だ。

 血筋を重んじる貴族から見れば、彼女以上に都合のいい王妃候補はいないのだろう。


 僕はもう一度、ため息をつくと、ただ馬車の窓から見える景色を、ぼんやりと眺めていた。

 すると、ふと視界に入った建物に目が留まる。

 それは、公爵家の屋敷から少し離れた場所に、ぽつんと建っている小さな屋敷だった。


「なあ、クレス。あそこにある屋敷は何だ?」

「あれは、恐らく公爵の前妻の娘、リリス嬢が住んでいる屋敷かと」

「リリス?」


 その名を聞いて、僕は首を傾げた。

 エトワール公爵に、他にも娘がいるなど聞いたことがなかったからだ。


「ええ。エリス嬢とは異母姉妹の姉にあたる人物で、生まれつき病弱なため、ずっとあの屋敷で療養しているという話です。歳は殿下と同じだと聞いていますが、病に伏せることが多かったため、礼儀作法も学んでおらず、かなりわがままに育ったため、とても人前には出せないとのことです。」

「へえ……」


 それは、なかなか面白そうな話だ。

 ()()エリス嬢を公の場に出せている公爵が、表に出せない娘がいるというのは、逆に興味をそそられる。

そこには、表に出せない何かしらの事情があるのか。

それとも、本当に病弱なだけなのか……


「なあ、クレス……少し、あそこに寄っていけないだろうか?」

「……へ?」


 そう言って僕は、馬車を屋敷の前で止めさせると、馬車から降りて、門の前に立つ。

 門は、まるで外の世界を拒絶するかのように、固く閉ざされていた。


「殿下、やめておいたほうがよろしいのではありませんか?勝手に屋敷へ立ち入ったことが知られれば、

公爵に弱みを握られることになりますよ?」

「どうしてだい?今日の僕の目的は、公爵家の令嬢と顔を合わせることだろう?リリス嬢だって、公爵家の令嬢であるはずだ。」

「そのような理屈が通るとは思えませんが……」


 もちろん、そんなことは僕も分かっている。

 だが、もしエリス以外に選択肢があるのなら、それに越したことはないだろう。

 ならばせめて、どのような人物なのか、一目だけでも確かめておきたかった。


 ただ、異母姉妹とはいえ、あのエリスの姉だ。あまり過度な期待はしないほうがいいだろう。

 せめて、彼女よりはマシであってほしい……そんな淡い期待を胸に、僕は門を開け、屋敷の中へと足を踏み入れた。

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