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大乱闘

「何か用かしら?」


 私たちの前に立ち塞がった冒険者風の男たちを前に、お嬢様が尋ねる。


「もしかして、あんたら今から二人で依頼に行くつもりか?」

「そのつもりだけど?」

「そりゃいけねえ。薬草採取って言っても、女と子供だけで森に入るのは危ねえぜ。どうだ? 俺たちがついて行ってやろうか?」

「あら、気持ちはありがたいけど、遠慮するわ。」


 そう言って、お嬢様はあっさりと断ると、男たちの横をすり抜け、出入り口へと向かう。

 しかし、男たちはなおも前に立ち塞がった。


「まあ、そう硬いこと言うなって」

「そうそう、俺たち『鋼の剣』がついて行ってやるって言ってんだからよ?」

「なんなら、お嬢ちゃんの方はここで待っててもいいぜ?」


 男たちは笑いながらそう口にしたが、その善意を装った言葉の裏には、下卑た思惑が透けて見えていた。


「へえ……この私にそこまで売り込むという事は、さぞかし名の通った冒険者なのでしょうね?」


 お嬢様の見下したような言葉に、男は一瞬眉をひそめたが、すぐに言葉を返した。


「もちろんだ。俺たちはこの町唯一のBランクパーティー『鋼の剣』だからな。」


 男は自慢げに名乗ったが、それを聞いたお嬢様は、呆れたように小さく溜息を吐いた。


「……ねえ、リリィ。ギルドの最高ランクって、いくつだったかしら?」

「えーと、確かSランクですね」


 先ほど受付から聞いた話では、冒険者のランクはFから始まり、F、E、D、C、B、B+、A、A+、Sの九段階に分けられているらしい。


「そう、つまり中の上、といったところかしら?私たちに同行するには、実力も気構えも不相応ね」

「な、なんだと!」


 お嬢様の言葉に、パーティーのリーダーらしき男が声を荒げるが、お嬢様は気にも留めず、淡々と言葉を続けた。


「他人から評価されるならまだしも、たかだかBランクを自ら誇らしげに語っている時点で、そこが知れているわ。残念だけど、私の眼鏡にはかなわないわね。」

「テメェ、さっきから言いたい放題言いやがって!ガキが調子乗ってんじゃねえぞ!」

「そうだ俺達はこの街で一番の冒険者だぞ!」

「なら、他の街ならどうなのかしら?例えば、王都とか?」

「そ、それは……」


 その問いに男達は言葉を詰まらせる。この街のギルドも決して小さくはないが、やはり王都と比べれば見劣りはする。


「『この街で』なんて、そんな括りで言われても何の自慢にもならないわ『井の中の蛙、大海を知らず』なんて言葉があるけど、あなたたちの場合は『井の中の蛙、大海を恐れる』と言ったところかしら?」


 挑発するようなその嘲笑に、男の顔が怒りで歪む。


「ふざけやがって!ガキが舐めてんじゃねえぞ!」


 ついに痺れを切らした男が、お嬢様に向かって殴りかかった。

 だが、お嬢様はその一撃を、身を揺らすように軽くかわすと、流れるような動きで男の足元を払った。


「のわっ――!」


 男はそのまま勢いよく体勢を崩すと、床に叩きつけられる。


「いてて……て、てめえ――⁉」


 ぶつけた顔を押さえながら、怒りに満ちた形相で振り返る。しかしそこには、すでにお嬢様の手刀が、男の目の前に突き付けられていた。

 そして、私でもはっきり分かるほどに溢れ出るお嬢様の殺気を感じ取った男は、

 顔から冷や汗を流し、次の瞬間には腰が抜けたように、その場に崩れ落ちていた。


「な、なんだこいつ……」

「……ねえ、あなた、どうして冒険者になったの?」

「え?」

「お金のため? 名誉のため? それとも女のためかしら? それとも、なんとなく?」

「そ、そりゃあ……もちろん、金も名誉も女も、全部だ……」


 唐突な問いに、男がそう答えると、お嬢様は小さく笑みを浮かべた。


「全部?フフ、それは良いわね。でもそれにしては、あまりにも覚悟足りていないんじゃないかしら?」


 お嬢様はそう告げると、表情を引き締めて続けた。


「金も名誉も女も手に入れたいのなら、たかだかBランク程度で満足していてはダメでしょう?それとも、あなたは街で一番の冒険者程度の名誉でいいのかしら?もしその程度でいいというのなら、はっきり言ってこのギルドに必要ないわ。」


 お嬢様はそう厳しい口調で言い切ると、近くのテーブルに置かれていた椅子の一つに腰を下ろし、今度は、先ほどまでのやり取りを傍観していた周囲の冒険者たちへと視線を向けた。


「そうね。この際だから、はっきり言っておきましょうか。これまでこのギルドがどうだったかは知らないけれど、今日から先、ここに半端な冒険者はいらないわ。ここで活動する冒険者は、私に相応しい者でなければならない。なぜなら、ここは今日から、私が所属するギルドだから。」


 お嬢様の宣言に、ギルド内の空気が一瞬凍りついた。

 だが次の瞬間、それを打ち破るように、罵詈雑言が爆発した。


「な、なんだと、このクソガキが!」

「何様だ、てめえ!」

「ガキが調子に乗ってんじゃねえぞ!」

「あら?文句があるなら、かかってきなさい。ここは腕っぷし自慢が集まっているのでしょう?それともその勇ましい恰好は見た目だけなのかしら?」


 お嬢様の挑発により、ギルド内は瞬く間に乱闘騒ぎとなった。

 冒険者たちは、先ほどのお嬢様と男のやり取りを見ていたからか、

 相手が子供だからと遠慮することなく、次々と襲いかかってくる。


 だが、お嬢様はそれらを軽くいなし、あっという間に全員を制圧してしまった。


「どう? これで分かったかしら?」


 お嬢様は、足元に倒れ込んでいる冒険者たちを見下ろしながら問いかける。

 だが、冒険者達は唸るだけで、返ってくる言葉はなかった。

 そして、お嬢様は少しだけ表情を引き締める。


「あなたたち、もし私が賊や魔物だったら……確実に死んでいたわね。そんなあなたたちに問うわ。もし、ここで死んでいたとして……悔いはなかったかしら?」


 そう言うと、お嬢様は静かに立ち上がった。


「名を上げたい? お金が欲しい?そんな理由で冒険者を目指すのも、別に悪くはないわ。でもね――命のやり取りをする以上、たった一度の油断が命取りになる。そんな油断で死んでしまったとして……あなたは、本当に割り切れるかしら?」


 お嬢様は冒険者たちに、改めて問いかける。

 だが、返ってくる言葉はなかった。

 だが今度は、答えられなかったのではない。誰も返す言葉を持っていなかった。


「私は割り切れるわ。なぜなら、常にそういう覚悟を持っているから。この場で殺されようが、一向に構わない。それが、私の生きざまだから。」


 お嬢様は倒れている冒険者たち一人ひとりに語りかけるように、ギルド内を歩きながら、言葉を続ける。


「そして、冒険者というのはいわば、困っている人間を助ける仕事。けれど、その中に分不相応な人間が混じっていたら、どうなるかしら?」


 お嬢様は一度言葉を切り、冒険者たちを見渡す。


「他人の足を引っ張り、被害は拡大し、そしてその者自身の命も失うことになる。あなたたちの覚悟ひとつで、救える人の数は変わる。生き残れる冒険者の数もね……そして、生き残った者にしか、欲しいものは手に入らない。」


 お嬢様が再び足を止めると、先ほどまで床に倒れていた冒険者たちが、少しずつ体を起こし始める。

 その視線は、いつの間にか全て、お嬢様一人に釘付けになっていた。


「だから、もう一度言うわ。ここに半端な冒険者などいらない。生半端な覚悟でいることは許されない、いいえ、私が許さない。もし気に入らないというのなら別のギルドに行きなさい。今日よりここはこの国で……いえ、世界で一番のギルドを目指すのよ。」


 お嬢様がそう締めくくると、再び沈黙が訪れる。すると先ほどとは違い、今度はお嬢様に対し小さな拍手が浴びせられた。

 拍手をしていたのは、受付の奥から姿を現した、頬に傷の入ったスキンヘッドの男性だった。

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