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エターナルクライシス

お嬢様がいた前世の世界『アムステルダム』には、古くから続く四つの国が存在していた。


 かつての勇者が建国した『アステマ王国』

 代々聖女を擁立する『サクラ法国』

 軍事国家として知られ、世界覇権を虎視眈々と狙う『レイジー帝国』

 そして、エルフの王が治める、亜人たちが暮らす国『ウッドラント』


 それぞれが異なる成り立ちと思想を持ちながら、互いに牽制し合い、覇権の均衡を保っていた。


 エターナルクライシスの物語は、その中でも最も広大な国土を持つ『レイジー帝国』の首都が、突如、上空に現れた光に飲み込まれ、一瞬にして滅び去るところから始まる。


 その光が消えた後、空には巨大な穴が穿たれ、そこから『強欲の魔王』と名乗る存在が姿を現した。

『強欲の魔王』の目的は、人々が生きる世界『アムタリア』と、死者が行くとされる『冥界』を一つにすることだった。


 彼はその野望を宣言すると同時に、世界へ向けて宣戦布告を行い、さらに、自分以外にも、『七つの大罪』の冠を戴く六人の魔王が存在することを明かす。


 そしてこの未曾有の危機を打破すべく、勇者の末裔であるアステマ王国の王子『ジェイク』は、世界各国を巡り仲間と協力者を集め、七人の魔王に立ち向かっていくことになる。


 初めは魔王たちに手も足も出なかったジェイクたちだったが、旅での経験や神々の試練、そして仲間たちとの絆を深めていく中で徐々に成長し、やがて魔王たちと渡り合えるようになっていく。

 そして 旅の過程で、彼らは魔王たちに隠された真実を知ることとなる。


 その事実を最初に知ることになるのは、初めに討伐することになる『憤怒の魔王』との戦いの最中だった。

 戦いの途中、突如として『憤怒の魔王』の記憶が、ジェイクたちの中へと流れ込んできた。


 ……憤怒の魔王は、かつて勇者と共に世界を救ったパーティーの一人である賢者だった。

 若くして亡くなった勇者の死後、その意思を継いだ彼は、世界中の人々の暮らしを豊かにするためだけに己の人生を捧げ、数多くの魔道具の発展に尽力した。

 しかし、彼の死後、長い時を経るうちに、その成果はいつしか殺戮兵器へと姿を変えていった。

 守るために生み出した力が、奪うために振るわれている。

 そしてその兵器が彼の大切な人々の命を奪った時、冥界にあった彼の魂は、深い憤怒に染まり、憤怒の化身へと変えて行った。


 ジェイクたちは、この戦いをきっかけに、相対する魔王たちの過去を知っていく。


 種族差別によって存在を英雄譚から消し去られたダークエルフ――『嫉妬の魔王』


 森に生きる獣たちを守るため、人と交わした約束を守り続け、ついには餓死した食人竜――『暴食の魔王』


 自らの名声と功績を奪われ、すべての罪と悪名を押し付けられた英雄――『高慢の魔王』


 多くの男を魅了し、その美しさゆえに権力の道具として扱われ、愛した者と結ばれることのなかった聖女――『色欲の魔王』


 魔王たちの正体は、時の流れの中で、自らが遺した想いを踏みにじられた、かつての英雄たちだった。


 そして、『怠惰の魔王』カーミラ・レイジ―。

 彼女は、レイジ―帝国第四代皇帝にして、歴代最強と恐れられた王だった。


 腐敗した帝国の政治により、隣国との戦争や内乱が相次ぐ乱世の時代。

 帝国の第七皇女として生まれたカーミラは、最も玉座から遠い立場にいた。

 皇帝の末の子であり、なおかつ女性という立場の彼女は、政略結婚の駒として扱われるだけの存在だった。

 それでもカーミラは、その境遇に不満を抱くことはなかった。

 ただ、母とメイドたちに囲まれ、何事もなく、静かに生きていければ……それだけを願っていた。


 しかし、そんな彼女の想いとは裏腹に、幼い頃から見せていた異様と評される才能に、兄弟たちは次第に強い危機感を抱き始めていた。

 そしてカーミラが十歳を迎えた年、皇帝の死によって即位した兄は、権力を固めるための粛清を開始する。

 その粛清により、彼女の周囲にいた人々は、次々と命を奪われていった。

 目の前で大切な物を奪われたカーミラは、すべてを奪った者たちを自らの手で殺したその夜、即位から三日しか経っていなかった兄を殺し、僅か十歳で玉座に座った。


 ――自分が王になれば、この争いを終わらせられる……


 そう信じての行動だったが、幼さゆえの浅はかさは、やがて国内外に大きな波乱を招くことになった。

 カーミラを認めない他の兄弟の勢力、そしてこの内乱を好機と見て帝国を狙う隣国との戦争。

 強引な即位により、味方と呼べる者が一人もいなかった彼女は、自ら戦場に立ち、いつしか無数の屍の上に帝国を築き上げていく。


 そして、誰一人として逆らう者がいなくなり、ようやく「何もしなくていい時間」が訪れたその頃、孤高奮闘を重ねてきた彼女の身体は限界を迎え、命を落とすこととなった。


 その後、彼女に代わって他の皇子の子供たちが即位していったが、彼女の思いなどなかったかのように、帝国は再び戦争に明け暮れる軍事国家へと戻っていった。


 そんな彼女がこの世界に再び降り立った理由は、自分の理想を踏みにじった国家への怒り……ではなく、ただ、生前一度も許されなかった「何もしない時間」を、今度こそ過ごしたかっただけなのだ。


 そして魔王として召喚されたカーミラは、強欲の魔王の命令に従うことなく、自由気ままに過ごしていた。帝国の町で何もしない時間を楽しむこともあれば、敗戦国の民を差別する街を、気まぐれに滅ぼすこともあった。

 暇つぶしにジェイク達と戦うこともあれば、逆にジェイクたちと行動を共にすることもある。

 その行動原理は一貫しておらず、誰にも彼女を縛ることはできなかった。


 だが、やはり彼女は、何もしないままでいることに耐えられなかったのだろう。

 最終局面において、彼女は崩壊した帝国軍をまとめ上げ、街を襲うモンスターから人々を守り抜き、その生きざまを次代の帝国へと示した。

 そして、強欲の魔王がジェイクたちに討たれると同時に、彼女もまた、召喚の終わりとともに冥界へと還っていく。

 彼女が去り際に残した言葉は、今でもはっきりと記憶に残っている。


『やはり私に怠惰は似合わない。次に生きる時は……私に見合った、相応しい怠け方を見つけてみせるわ。』


 そう言い残し、自分を貫いた最強の魔王は、最後まで堂々とした態度のまま去っていった。

 その背中を見たレイジ―帝国の次代の皇帝は、彼女の意思を継ぐかのように、平和を目指す道を選んだという。


 何も望まず、何にも縛られなかった彼女は、ただ生きざまを示すことで、自らの想いを次世代へと繋いだのだった。


 ――


「――というのが、お嬢様の前世の世界の話。」


 そう締めくくり、私はベッドに倒れ込みながら、エターナルクライシスの物語を語り終えた。


 もっとも、これはあくまで“ゲーム”として描かれていた物語だ。

 実際にどこまでが真実なのかは、正直なところ分からない。

 それでも、今のお嬢様の様子を見る限り、概ね間違ってはいないのと思える。


「お嬢様、大変だったんだね……」


 話を聞いたアリサは、お嬢様に向けて目に涙を浮かべていた。

 この反応は、概ね予想通りだ。


 ただ――


「カリーナも、泣いてるの?」

「べ、別に泣いてなんていないんだから。」


 気づけば一緒になって私の話に耳を傾けていたカリーナも、目を赤くしながら鼻を鳴らしていた。


 これは予想外の反応だった。


 個人的には、アリサにはお嬢様の身の上話で同情を誘い、カリーナにはカーミラの恐ろしさを伝えて、裏切らないよう牽制するつもりだったのだが、まさか、彼女まで同情するとは思ってもいなかった。

 案外根はいい子なのかな?


「まあ、とにかく、お嬢様は私の憧れであり『推し』でもあるの。だから私は、お嬢様に生涯を捧げて仕えるつもりよ。」


 お嬢様が前世で最後に言い残した『私に見合った、相応しい怠け方』。

その答えを見つける手助けをすることこそ、今の私が、この世界でやりたいことだ。


そう、つまり私は、この世界で『推し活』がしたいのだ。


「エリーがお嬢様に執心な理由が、分かったわ。私は家のこととかもあるから先のことは分からないけど……お嬢様に仕えている限りは、精一杯頑張るね。」

「私には選択肢がないから、そうするしかないけどね。ま、いい相手が見つかったら、速攻で出ていくけど。」


 それぞれの思惑を胸に、私たちは三人で改めて気合を入れ直す。

 そしてまた、お嬢様の特訓に明け暮れる日々が始まるのだった。


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