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25,そういう気持ちなのだろうか

 着替えを終えた俺と紗月は、コスプレ衣装の会計を済ませた後、ちょうど昼時(ひるどき)に差し掛かっていたため、昼食を求めてショッピングモール内を歩いていた。


「何が食いたい?」


「そうね、正直なんでもいいわ」


「そうか……アレなんてどうだ?」


 たまたま目に入ったカフェスタイルのタイ料理店に人差し指を向ける。


「タイ料理……いいわね、エスニック料理は好きよ」


「そうなのか……お、値段もまぁ手頃だな」


 近寄って店舗前に設置されたメニュー表を見ると、まあまあ高い料理はあるが、千円以下で食べられるメニューも揃っており、学生の財布(さいふ)でもギリギリ捻出できる価格設定だった。


「いいわね、ここにしましょう」


 紗月の同意もあり、昼食はこのタイ料理店で決まった。

 休日の昼時ではあったが、奇跡的に空席があったため、すぐに店員に案内されて着席する事ができた。

 メニュー表を開き、何を食べようかと目を通す。


「私、茄子のグリーンカレーにしようかしら」


「じゃあ俺、トムヤムヌードルにしよう」


 メニューを決めたところで店員を呼び出し、注文を済ませる。

 家族で行く店はファミレスばかりで、アッくん達と行くのはファーストフード店か、あるいはラーメン屋ばかりであるため、こういった綺麗で洒落(しゃれ)た店で、しかも女子と二人で食事を取るのは非常に新鮮だ。


「お昼食べたらどうする?」


「そうだな……特に考えてないな」


 デートというわけでもなかったため、買い物を済ませた後は完全にノープランである。


「優斗があなたに会いたがっていたけれど、今日は家に親がいるわね……」


「そうか、それなら俺が行くのはマズいな」


 優斗君に会いに行くという大義名分があるなら、紗月の家に行く事自体は問題ではないかもしれないが、両親がいるなら話は別だ。

 真面目な優等生で通っているであろう紗月が、見た目がヤンキーな男を連れてきたとしたら、俺が親なら確実に警戒する。


「まあ、かといって金の問題もあるからなぁ……」


 明日の安達との約束もあるため、ある程度はお金を残しておかないと破産してしまう。


「そうよね……まあ、今日はお開きにしましょうか」


「そうだな」


「ええ、そのうち機会があったら誘ってちょうだい」


「ははは、そうだな」


 歯を見せてにっこりと笑う紗月に、俺は苦笑(にがわら)いをしてしまう。

 誘ってちょうだいという事は、また一緒に出掛けてもいいという事だ。

 むしろ紗月の口ぶりは、誘ってもらえる事を期待しているようにすら思えた。


「それにしても、私たち一ヵ月で随分関係が変わったわよね」


 紗月はそう言いながら顔に喜色を浮かべる。


「あんなに俺の事、嫌っていたのにな」


「それは……っ!! それは悪かったわよ」


 少し慌てた様子を見せる紗月を見て、俺は小さく吹き出してしまった。


「なによ、そこ笑うところ?」


「いや、マジでお前のそういう姿、一か月前だったら想像できなかったわ」


「そうね……私も、慎君が意外と初心(うぶ)でオタクで臆病(おくびょう)だって、一か月前なら想像もできなかったわね」


「お前、それは褒めてねーだろ」


「あはは」


 紗月も吹き出して、満面の笑みを浮かべた。


「でも私ね、今がとっても楽しいと思っているわ」


「そ、そうか……」


「ええ──あなたと仲良くなれて本当によかったと思っているわ」


「──ッ」


 最近、紗月も安達レベルの時々爆弾発言をしてくるから心臓に悪い。


「まぁ、俺もだ……友達(ダチ)になれてよかったとは思ってる」


「……っ、慎君も随分素直に気持ちを言ってくれるようになったわね」


「うるせ」


 恥ずかしさを紛らわせようと、テーブルに置いてあったコップの水を口に含む。


「あはは。まあ、()()()()()()()()


「あ? 何が?」


「なんでしょうね?」


 紗月が頬杖をついた状態で、俺の顔を覗き込むようにニヤニヤしている。

 まるで安達が俺をからかうみたいで、勘違いしそうになってしまう。


 ──いや、勘違いじゃないのか?


 なんとなく、紗月からは()()()()()()が伝わってくるような気がする。

 

 ──いやぁ、普通は仲いい男女ってそういう感じになると思うよ~オレは。


 ここにきて、アッくんの言葉が脳裏を(よぎ)る。

 恋人のフリを解消したあの日、俺は紗月と友達になりたいと思って、我ながら臭いセリフを()いて今の関係を構築した。

 紗月とは良き友達関係に落ち着いた、そう今まで思っていた。


「どうかしたのかしら? 慎君」


 紗月に声をかけられて我に返る。


「いや、なんでもねーよ」


「そう、なにか考え(ふけ)っていたように見えたけど」


「別に大した事じゃねーよ、今日の晩飯なにかなーって思ってた」


「これからお昼なのに晩御飯の事考えてたの?」


 紗月が吹き出して、楽しそうに笑った。


 ──まあ、考えるのはやめよう。


 俺の自意識過剰の可能性だってあるし、仮にそうだったとして、じゃあ俺はどうしたらいいのか現状わからない。

 他人を避け続けてきた人生、恥ずかしながら他人に恋をした事がない。

 だからなのか、どういう気持ちが好きなのかすら、俺にはわからない。

 

 ──ピンとこないうちは動かない。


 それがベストだと思った。

 半端な事をしてお互い傷つくよりは、それがいいと思った。


 この後、俺と紗月は出来上がったタイ料理をおいしくいただいた。

 その間は他愛のない話、綾森祭の話、アッくん達の話で盛り上がり、食事を終えて会計を済ませた後は駅前まで一緒に歩き、そこで少し話をしてから解散という流れになった。

 結局、俺からは何も話を切り出していない。

 紗月の方もあれから爆弾発言はなく、普通に俺たちは駅前で別れた。


 まあ、嫌われていないという事だけは理解した。

 それ以上の事は考えないよう、スマホゲームに(きょう)じながら帰路についた。

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