21,クラス委員のお仕事
学校行事と聞いて、何を真っ先に想像するだろうか。
入学式、卒業式、修学旅行、体育祭と色々あるが、やっぱり何処の学校にもある目玉行事といえば文化祭ではないだろうか。
もちろん綾の森高校にも綾森祭という名前で文化祭は存在しており、地域や学校によっては七月だったり、九月だったり、開催時期もまちまだが、うちの高校では毎年中間考査と期末考査の間にあたる、六月末の週末に開催されている。
そのためうちの高校では、六月とは必然的に綾森祭一色になる季節だ。
「今日は今年の綾森祭での、うちのクラスの出し物を決めようと思います」
クラス委員長である紗月が、黒板の上の方に今年の出し物とチョークで書き、凛とした佇まいでロングホームルームを仕切る。
「お、ついに来たねえ!!」
「今年はなにやるー!?」
クラスの陽キャたちが沸き上がる。
陽キャという生き物はイベントが大好きで、テスト明けという事も相まって、彼らのテンションが一気に高まったようだ。
──まあ、この手の議論に俺が参加する事はない。
文化祭自体は嫌いではないが、巷でヤンキーとして恐れられている俺が、何かを意見したところでクラスの雰囲気が悪くなるだけだ。
紗月のクラス委員長としての仕事ぶりを、黙って見守るとしよう。
「あまりお金のかかる事は無理よ。所詮は公立高校、予算があまり無いので」
「え~、琴石さんなんとかならんの!?」
「ならないわよ、スポンサーは随時募集しているけれど期待できないし」
「マジかぁ~」
「いや当たり前でしょ、村井」
騒ぐ村井という茶髪の男子に、苦言を呈する矢口というウルフカットの女子。
サッカー部の速水を中心とする陽キャ連中は、このクラスでも一番目立つ存在で、やはりあのグループが仕切る形で議論は進み、それを紗月がまとめて決断する形になるのだろう。
「とりあえず、低予算で出来そうな出し物を列挙していったほうがいいよね」
彼ら陽キャグループを仕切る速水が、落ち着いた物腰でグループのメンバーをまとめる。
ワインレッドカラーの、ツーブロックのベリーショート。絵に描いたような爽快感のあるイケメンで、サッカー部ではエースであり、しかも成績も悪くなく、コミュ力も非常に高くて、俺とは正反対に人気のある奴だ。
速水の言う事なら、クラスの人間はみんな従うだろう。
「お化け屋敷とかいいんじゃね!?」
「村井にしてはいい案じゃん、まぁベタだけど盛り上がるよね!!」
村井と矢口が盛り上がる。
陽キャグループ以外のクラスメイトはほぼ無言なため、実質彼らと紗月による議論と化していた。
「飲食とかいいんじゃね?」
「コンカフェだっけ、最近の言い回しって。アリだよな」
彼らと仲のいい男子二人も案を挙げる。
「あとは縁日とかかな、道具はある程度自分たちで自作できるしね」
「勇太、それいいね!!」
速水の案に、矢口がノリ気で賛同していた。
ちなみに速水のフルネームは、速水勇太と言うらしい。
「ふわぁぁ……」
陽キャグループが賑やかな傍ら、アッくんは大きなあくびをしていた。
「でけえあくびだな、アッくん」
「だってメンドーじゃん?」
「まあ、そうだな」
アッくんは基本、こういった行事に対してやる気がない。
小森も同じ様子で、全く無関心といった感じで堂々とスマホを弄っていた。
「お前ら、一応聞いてるフリでもしとかねーと紗月に怒られるぞ?」
「大丈夫っしょ、琴石さんはそもそもオレらに期待してないって」
「そうそう、うちどうせあーくんと他のクラスの出し物見て回るだけだし」
「それにオレらが何か言わなくても、アイツら勝手に決めるっしょ」
「まあ、そうだな……」
去年もこんな感じだったな。
一応、クラスメイトとして指示された事を手伝いはするものの、俺ら三人は綾森祭にはそれほど乗り気ではなかった。
他のクラスメイトとの壁を感じるというのもあるし、不良グループが何かを提案したところで、陽キャたちからしてみたら不快なだけだろう。
一応、俺たちは自分の立場を弁えているというわけだ。
「お化け屋敷、飲食、あとは縁日と……ほか何かあるかしら?」
黒板に挙がった候補を淡々と書きつつ、クラスメイトに発言を促す紗月。
恐らく速水たち以外からの意見を期待しているのか、紗月はクラス全体を一瞥するような仕草を見せる。
「はい!!」
それに反応したのか、一人の女子生徒が挙手をした。
確か高橋侑那だったか、紗月と仲が良いらしい陸上部の女子だ。
「自主制作映画とかどう!? ウチ、こう見えて動画編集できるで!!」
「あー、青春映画的なやつ? 良くね!?」
「いいかもね~!!」
高橋の案に、村井と矢口が割とノリ気だった。
しかし紗月の表情がどうにも芳しくない。
「準備期間が短いのよね……脚本に配役、撮影、編集……間に合うかしら?」
「あ~、そっか。確かに……」
紗月の指摘に対し、高橋はしゅんとした様子で大人しくなる。
「もう無難に飲食で良くね~?」
「俺もそう思うね。ところで田口、コンカフェって何?」
「コンカフェって要するにコンセプト・カフェって言って、特定のテーマで世界観を作るカフェだよ。メイド喫茶とかが一例かな?」
速水の質問に、同じグループに所属する田口という坊主頭の男子が答える。
田口は野球部だった気がするが、意外とサブカルチャーに詳しいんだな。
「琴石さん、調理器具や衣装とかって予算出るのかい?」
「そうね、調理器具に関しては問題ないわ。衣装については……多分予算オーバーになると思うわ。足りない分は自分たちで用意という形になるかしら」
それを聞いた陽キャグループ、そしてクラス全体が黙り込む。
確かに、仮にメイド喫茶をやるとしても、接客する人数分のメイド服を用意するとなると、そこそこの値段になってしまうだろう。
男子が執事をやるとしても、やはり衣装の費用は課題になってくる。
「やっぱお化け屋敷? それか縁日?」
「う~ん、それだとやっぱあたしらが目立たないし、地味じゃない?」
村井と矢口はあくまで自分たちが目立ちたいようだ。
速水も何か考えている様子だが、この状況を打開する具体的な案が浮かばないまま、時間だけが過ぎていく。
「もうなんでもいいじゃん」
「わかるー、オレ今日バイトだし帰りたいわぁ」
小森もアッくんも堂々とスマホを弄っていて、議論に参加する気はゼロだった。
「なぁ、それやったら紗月の次に頭ええ人に聞いてみようよ」
突然、そう発言した高橋がチラッと、俺の事を見たような気がする。
なんだ、この背筋に覚えた悪寒は。
「そうね。何かいい案あったりするかしら──櫻井慎君」
ほら来た、やっぱり来た。
紗月の指名を受けて、速水ら陽キャグループを含め、クラスメイトの注目が俺に集まってしまう。
「櫻井?」
「そういえば琴石さんって、櫻井と付き合ってる噂あったよね?」
「でも別れたって噂もあるよ」
「え、どっちなんだろう?」
クラス中が一時騒然。
中には俺と紗月の関係について盛り上がる者も居て、俺にとっては地獄絵図だ。
「いいんちょからのご指名だね~」
「がんばれ~、慎ちゃん」
「てめえら……」
アッくんと小森がニヤニヤしながら、俺の事を煽る。
コイツら、俺に助け船を出す気など全くないらしい。
「はぁ……」
俺はため息を吐きながら、紗月の方を見る。
──そうだな。
今までの話をまとめると、まず綾の森高校は公立高校で、一クラスにつき支給される予算はそれほど多くはない。
そのため予算内で出来る事は限りがあるし、超過する場合はスポンサーを募集するなり、自腹を切るなり、そういった自分たちでどうにかする手段しか残されていないわけだ。
そして準備期間という制約もあるため、学生の遊びのように思えて案外シビアなスケジュール、そして立ち回りと気合いが求められる。
そして我がクラスは、陽キャグループのご機嫌が全て。
彼らはお化け屋敷や縁日は自分が目立たないとして、自分たちで挙げておきながら採用には乗り気ではないという、我儘な態度を見せている。
コンカフェについても、予算がネックとなっている。
だけどコンカフェなら確かに目立てる奴は目立てるし、男子も女子も自己を表現できる場としては……表現。
──そうか、思いついた。
「コンカフェ、やるならジャンルを縛らなけれゃいいんじゃね?」
「それってどういう事かしら?」
俺がそう提言すると、紗月は俺の真意を確かめようとする。
「メイドとか執事とか、ジャンル決めると人数分の衣装を揃える必要があるだろ。だけどジャンルを固定しないで仮装というか、コスプレというか、そうすれば自前の衣装を用意できるだろ。最悪、ボンキホーテで安く買えるし」
「……それだ!!」
「アリかもしれないね」
「確かに、それなら最悪自前で安い衣装を用意できるよね」
村井が俺の案に乗ってきた事を皮切りに、矢口や速水など、陽キャたちが賛同してくれた。
この案に対するクライメイトの反応は、意外にも良かった。
なるほど、と言った感じで唸るクラスメイトもいて、予想外の好感触に俺の方がびっくりしてしまう。
「慎君……流石ね。各々で着たい衣装を用意してもらって、お金の問題で用意が難しい人には予算を割いて……これなら確かに成立するわ」
この場を取り仕切る紗月からの評価も上々だった。
「慎ちゃんやるねぇ」
「櫻井やっぱ頭いいじゃん」
「……うぜえ」
アッくんと小森。
こいつらはただ、ウザかった。
「それじゃあコンカフェというか、仮装カフェでいいかしら?」
「いいと思うよ」
「賛成!!」
速水達から賛成の声が上がり、他のクラスメイトからの否定的な意見も上がらなかったため、クラスの出し物は仮装カフェという事で決定となった。
「それじゃあ次は飲食、という事で……何を提供するか議論しましょう」
それから議論は、提供する食べ物を何にするかというものに移り変わる。
──もう、これ以上は何も喋りたくない。
一定、クラスメイトからの注目を浴びてしまったが、以降の俺は話を振られない限りは黙ってやると固く誓った。




