12,巡り合う後輩と委員長
「あの。春田君、小森さん、ちょっといいかしら?」
紗月が声をかけてきたのは、昼休みが始まって早々の事だった。
「ん、琴石?」
「んだよ、これからメシだって時によぉ……」
特に小森のほうは露骨に嫌そうな表情を浮かべて、まるでお前の顔を見ていると飯がまずくなると言わんばかりの嫌悪感を漂わせる。
だが紗月がどういう心境で二人に話しかけているのか、それを理解している俺は黙って紗月の事を見守る。
「二人に謝らなきゃいけないわ。あなた達の内面を理解しようともしないで、酷い事を言ってしまったわ。本当にごめんなさい」
そう言葉を紡いで、紗月は深々と頭を下げる。
これには流石に面を食らったのか、アッくんは口をぽかんと開けて固まり、小森も動揺した様子で回りをキョロキョロし始めた。
「お、おい。ちょ、頭上げろ。おまえ、どういう風の吹き回しだよ!?」
この様子をクラスメイトに見られるのは、流石に小森としても嫌なのだろう。
頭を下げ続ける紗月に対し、頭を上げるように催促した。
「言葉のままだぞ? コイツにお前らの事を話したら、反省したって事だ」
「アッくんが謝罪を促したってこと?」
「いや、自発的な行動だぞ? な?」
紗月に話を振ると、頭を上げた紗月は真剣な面持ちで二人を見つめる。
「慎君に対してやってしまった過ちと同じだから、あなた達は慎君の大切な友達だから、全面的に私が悪いと思ったから頭を下げたのよ」
そうハッキリと紗月から言われた二人は、お互いの顔を一度見合ってから、再び紗月のほうに顔を向ける。
「まぁオレは別にいいよ?」
「本当に……?」
「だって実際オレら校則は守ってねーっしょ。アンタにとっちゃ仕事だし、そんなアンタが頭下げるって事は、なんか思うところがあったんでしょ?」
「春田くん……」
流石アッくん、心の広さにちょっと感動した。
「ま、こっちもゆりちゃんがスカート捲ってるしね」
「おい、ちょっとあーくん!!」
アッくんの言葉に、小森が声を荒げた。
そしてバツが悪そうに黙り込み、じっと紗月の事を見つめる。
「小森さん?」
ずっと見つめられている紗月が狼狽え、不安そうな目で小森を見る。
「……はあぁぁ」
すると小森が大きくため息を吐いた。
やっぱり小森は紗月に対するヘイトが大きかった分、紗月の謝罪を受け入れ難いのだろうかと、勝手な推測をした次の瞬間だった。
「ほら!!」
小麦色の引き締まった肢体と、白と黒のゼブラ柄のショーツ。
信じられないモノが見えた。というより、見せつけられたというか。小森が若干顔を引きつらせながらも、笑顔を作っておもむろにスカートを自ら捲り上げた。
その結果、小森のパンツが丸見えになっていたのだ。
「ちょ、ゆりちゃん!! ダメダメ!!」
ワンテンポ遅れてから、アッくんが小森を止めようとして、小森の手を掴んで捲り上げたスカートを下ろさせようとする。
アッくんの行動を受けて、小森も捲り上げるのをやめた。
「……え?」
これには流石に面を食らったのか、紗月の顔もほんのりと赤みを帯びている。
俺も、目を逸らす事かできなくて、ついガン見してしまった。
堂々としつつも恥じらいの混じった小森の顔と、その下に広がる普段絶対に見えない、小森の健康的な肢体に、ギャルっぽいチョイスのショーツを見てしまい、顔というよりも別な部分が反応しかけてしまった。
こんなところで臨戦態勢になったらヤバい、マジで人生終わる。
落ち着け、義父さんの全裸でも想像するんだ。
「いやぁ。メンズの前でやるのは普通に恥ずいね、コレ」
「なにやってんの、ゆりちゃん!! ダメでしょ!!」
照れ隠しのように笑う小森に、アッくんは真面目な声のトーンで説教をする。
場所が場所だけに、俺たち以外のクラスメイトにも見られる可能性も高く、彼氏としては気が気じゃないだろうな。
「……ま、とりあえずコレでいい?」
小森がアッくんの説教を無視して、ぶっきらぼうな様子で紗月に声をかけた。
「え?」
「お前にやった事だよ、コレでチャラでいい? それとも脱ぐ?」
「い、いや!! いいわよ!! あなたの気持ちは十分に伝わったわ……」
小森の事なら、本当にこの場で脱ぎかねないと思ったのだろう。
紗月は慌てた様子で、これ以上小森が何もしないよう小森の気持ちを認めた。
「つーかいいんちょ、悪かったよ。自分でやって普通に恥ずかったわ」
「いえ、こちらこそ。今までひどい事言ったりして、本当に悪かったわ」
少し波乱はあったものの、電話で話した通りに謝罪が出来たようだ。
これで少しは紗月の中にあった心のつっかえも取れただろうし、この二人も紗月と表立って対立する事はなくなるのだろうか。
もしそうなれば、平和になったという事で万事解決だな。
「……で、櫻井。おまえ今日は放課後暇なの?」
「急だな、まぁ暇だけど?」
「聞いたあーくん? 先週の埋め合わせしてもらおう?」
「言質は取ったね」
突然小森に予定を聞かれたと思いきや、そういう話か。
確かに先週、漫画を買いに行くという我欲にまみれた理由で、二人からの誘いを断っている。あの時、誘いを断ったからこそ優斗君を助け、紗月とも関わるようになったのだが、二人への埋め合わせは確かに未だできていない。
「しょうがねーな、じゃあ学校終わったらどっか行くか」
「はい決定!! じゃ、いいんちょもね!!」
そう元気よく言いながら、小森が紗月の肩をポンと叩く。
「え、私も?」
「当たり前じゃん、あんた櫻井の彼女でしょ? 拒否権ないよ」
少々強引な気もするが、小森なりに気を遣っているのかもしれない。
忘れかけていたが、小森は距離感がバグっているというか、元々フレンドリーな性格なので人と仲良くなるのが得意な人種だ。
彼女なりに因縁を清算したいと、紗月に伝えたいのかもしれない。
「まぁ、いいんじゃね? なぁ、アッくん?」
「そうだね。オレらの事知らねぇで今まで色々言ってたんなら、とりあえず知ってもらおうって事で。オレも琴石さんの事何も知らないしねぇ?」
アッくんの切り替えの早さにも、素直に心の中で感謝した。
こういうところはアッくんも小森も、似た者同士なんだろうと感じさせられる。
「つーわけだ。お前にも友達はいるんだろうけど、今回は付き合えよ」
「……みんな、わかったわ。そういう事なら是非、ご一緒させてもらうわね」
「いいんちょには根掘り葉掘り、櫻井との馴れ初め聞かせてもらうからね!!」
いたずらっぽく笑う小森を見ていると、それが狙いで紗月を誘ったのではないかと思ってしまう。
とはいえこれで二人と紗月の関係も改善し、クラス内に少々あったギスギスした雰囲気も和らぐかもしれない。
あとは何処かのタイミングで、安達の事を紗月に話せばいいだろう。
◇ ◇ ◇
──予想以上に、そのタイミングは早く訪れた。
「あ、センパイ……」
「安達……」
放課後になり、俺と紗月、そしてアッくんと小森で遊びに行こうと、玄関を出たタイミングだった。
安達も下校のタイミングだったらしく、ばったり遭遇して俺と目が合い、お互い口から声が漏れた。
「おぉー、この子が前噂になってた櫻井の後輩ちゃんか~」
小森が俺の横に並んで、物珍しそうに安達の事を見つめる。
「初めまして、一年の安達です」
「うち小森、こっちは春田。で、この真面目そうな子が櫻井の彼女ね」
「朝ぶりだね」
「んだよ、あーくん知ってたの?」
「今朝知り合いになったんだよ、慎ちゃん経由でね」
小森とアッくんがやり取りをする中、やはり安達の視線は紗月に向いていた。
同様に紗月も安達の事を、意味ありげな様子で見つめている。
──ついに出会ってしまったか。
紗月には安達の事を話すつもりだったし、安達にも紗月の事をもう少し詳しく話してやるつもりだったが、意外にも本人同士の遭遇が早かった。
俺と紗月の件から、安達との件も起きてしまったわけで、俺にも緊張が走る。
「初めまして、私は琴石紗月」
「……センパイの、彼女さんですよね?」
「ええ、一応そういう事になっているわね」
安達は紗月とは偽装カップルだと知っているし、紗月には安達に関係を打ち明けた事を伝えている。
その結果が、この色々と意味深な言い回しなのだろう。
「ねぇ安達ちゃん、暇?」
若干重苦しい空気が漂う二人の間に、小森が割って入る。
「え? はい、今日は何もないです」
「じゃあこの子も連れて行こうか~」
「……えっ!?」
そう言って小森は安達を抱き寄せ、安達はびっくりして目を見開いた。
当然、小森の強引な行動に俺もアッくんも、そして紗月も呆然として口をぽかんと開く。
「オレはいいけど、無理矢理すぎない? 安達ちゃんにも都合あるんじゃね?」
「別にいいじゃんかよ~。で、安達ちゃんどうする~?」
安達の肩に腕を回す小森を見ていると、地元のややこしい先輩とはこういう人間の事を言うんだと実感する。
小森に絡まれている安達はというと、小森とは別の方に視線を送っていた。
紗月とお互いの顔を見つめ合っている事に、たった今気づいた。
「……あの、ご迷惑でなければご一緒させてください」
意を決した顔つきになった安達が、小森に同行を願い出た。
「お、いいじゃん。ノリいい子うち好きだよ~」
「あの、ちょっと!!」
「…………。」
盛り上がって安達を抱き寄せる小森。
その様子を少し離れた場所から、無言で見続ける紗月。
──なんだ、この空気は?
紗月の件があって最近よそよそしかった安達と、その原因の一つである紗月の邂逅。その間に挟まれる俺は、気まずさから俯いて黙り込んでしまう。
何も起きない事を祈りつつ、俺たちは駅へと向かった。




