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11,ダル絡みしてくる後輩は、やっぱりウザい

「昨日はたのしかったね!!」


 月曜日の朝、いつものように陽葵と手を繋いで歩いていると、陽葵は満面の笑みを向けて昨日の話を振って来た。

 昨日、家族で埼玉(さいたま)の動物園まで出向いて、その事もあってか陽葵の機嫌がいつも以上に良い。その分、義父さんと母さんは疲れ切って目が死んでいたけど、陽葵が満足ならと空元気(からげんき)を見せつけていた。

 俺も疲労が無いわけではないが、まあ陽葵が楽しければそれで良い。


「そうだな、色んな動物とも触れ合えたしな」


「うん!! 今度はどこいこうね?」


「その前に週末、運動会だろ?」


「そうだった、がんばらなきゃ!!」


 やる気に満ちた陽葵を見ていると、自分が小学生だった頃を思い出す。

 最も俺の場合、スポーツが得意な子ではなかったため、運動会に関してはあまりいい思い出はない。

 小学生男子のヒエラルキーなど、運動ができるか(いな)かで決まるようなもので、ましてイジメられっ子だった俺にとって、運動会など地獄でしかなかった。

 嫌な事を思い出して若干ブルーになりかけた頃、陽葵と別れる。

 そして駅へ向かう中、また一つ思い出した事があってブルーな気分になる。


 ──安達。


 先週の事もあってか、安達に会うのが気まずいと思ってしまう。


「…………はあ」


 そしていつも通りの車両に乗り込んで、思わずため息を()いてしまう。

 結論から言うと、安達は()なかった。

 学校を休んでいるのか、遅刻か、あるいは俺と会わないよう別な車両に乗っているのか、それはわからない。だが向こうから()けられている以上、これは予想ができた結果とはいえ、心に来るものがある。

 電車内で、まるで不審者のようにキョロキョロしてしまう。

 つい安達の事を探してしまう。


「……チッ」


 どうしようもない現実に、つい悪態(あくたい)をついてしまう。

 舌打ちはその(あかし)

 安達にダル絡みされる事が日常と化していたせいか、どうも落ち着かない。

 

「よぉ慎ちゃん」


 突然、名前を呼ばれながら肩に手を置かれる。


「……なんだ、アッくんか」


「なんだとは随分(ずいぶん)な言い草じゃん……で、慎ちゃんが探してる子、アレ?」


 そう言いながらアッくんが人差し指を向けた方向に目を向けると、二つほど離れたドア付近の手すりに掴まり、体が隠れていないのに隠れているかのような様子で、俺の事をじっとりと睨む安達の姿があった。

 俺と目が合った瞬間、安達の体がビクンと(ふる)えた。

 そして背中を向け、何事もなかったかのようにスマホを弄り始める。


「アイツ隠れるの下手すぎだろ」


「行ってやりなよ、琴石とは"フリ"なんでしょ?」


「……しょうがねーな」


「素直じゃないねえ、慎ちゃんも」


 アッくんに茶化されながらも、やはり安達の事が気になって仕方がない。

 立ち客の合間を縫うように移動しながら、背中を向けた安達に近寄っていく。


「オイ」


 そして声をかけながら、安達が逃げないように肩にポンと手を置いた。


「セ、センパイ?」


 安達の体がびくんと小さく()ねた。

 そして気まずそうに、恐る恐るといった感じで安達が顔をこちらに向ける。


「なに人の事避けてんだよ」


「直球ですね……あの、あたしこれでも気を()ってるんですよ?」


 安達は俺から顔を()らし、向こうを向いたまま喋る。


「そんな事は分かってる」


「あの、いいんですか? フリでも一応、彼女いるんですよね?」


「そういう設定になっているな」


「だったら、あたしと仲良くしてるの他の人に見られたら……まずくないです?」


 口ではいつも俺の事をからかう癖に、こういう時には気遣いができて、実は()い奴だと感心(かんしん)させられる。


「別にまずくねーよ」


 だからハッキリと、安達が配慮する必要はないと(つた)えてやった。


「はぁ? いや、まずいですよね? だってもし学校で噂になったら……」


 こちらを向いた安達の顔には、不安の色が(ただよ)っている。


「まあ、俺が二股かけてるクソ野郎だって事になるな。別に構わねーよ、上等」


「いや、気にしてくださいよ。センパイの評価に関わる問題ですよ?」


「今更評価とか気にする必要ある? 見た目が派手で目つきが悪い、ヤンキーって言うのが俺の評判だ。これ以下があるのかよ?」


「それは……」


 俺の現状をありのまま伝えてやると、安達が困った様子で言葉に()まる。

 この見た目と、それを起因(きいん)とする評判のおかげで、子供の頃から因縁はつけられるわ、高校生になっても最近まで紗月に辛辣(しんらつ)な態度を取られていたわで、今更どう思われようが知ったことではない。

 それが俺の本心だし、この気持ちが本気だと目でも(うっ)たえる。


「……センパイ、そんなじっと見ないでください。目、怖いですよ?」


「俺なりに覚悟を伝えてるつもりなんだけどな」


「……あの、後から()(ごと)を言ったりしませんよね?」


「男に二言は無い」


「……くすっ」


 安達の確認に対し、自信満々に答えてやると、安達の表情が久しぶりに(やわ)らぐ。

 声を漏らして笑う安達を見るのは先週ぶりだ。


「センパイ、結構ええかっこしいですよね」


「うっせ、(わり)ぃか?」


「悪くないですよ、ちゃんとカッコいいので」


「──っ!?」


「あ、センパイ赤くなった!!」


 安達の不意打ちのような言葉を受けて、顔に灼熱(しゃくねつ)を帯びる。

 すると安達が前のように、楽しそうに俺の事をからかってきた。


「うるせえ……」


「きゃははは!! そこで赤くなるなんて、まだまだセンパイはお子様ですね」


「ちっ、やっぱウゼーなお前」


「うざ可愛いって言ってくださいよ!! センパイはあたしの事が可愛くて、離れたくないから自己犠牲に走ったんですもんね!?」


 安達は左右の頬に人差し指を当てて、わざとらしく笑ってみせる。

 わかっている。

 からかっているだけだし、この笑顔は悪魔の笑顔だって。

 それでもやっぱり顔が(ととの)っているから、あざとくても可愛いと思ってしまう。


「……勝手に言ってろ」


「はい、いつまでも(こす)ってやりますからね!!」


 前言撤回、()ねている方がしおらしくて良かったのでは。

 何はともあれ、覚悟を伝えた事で安達はいつもの調子に戻ってくれたようだ。


「おーい、オレの存在忘れてね?」


 安達といつものようなやり取りをしていると、横からアッくんが呆れた様子で声をかけてきた。

 そういえばアッくん居たんだっけ。


「あ、えっと……センパイのお友達ですよね? 何度か見た事はありますよ」


「初めまして、オレ春田。キミが噂の慎ちゃんの後輩ね」


「はい、安達です。いつもセンパイの面倒を見させてもらっています」


 そういえば安達とアッくん、初対面だったか。

 安達の方もアッくんの存在は認知していたのか、アッくんもそのまま自然な流れで自己紹介を済ませる。


「面倒見てるのはこっちだろ」


「え、あたしの方じゃないんですか?」


「てめえのハンカチ拾ったのは誰だよ」


「あー、センパイって過去の事ほじくり返すタイプだったんですね!!」


「人の反応見て楽しんでるお前よりよっぽどいいだろ」


「ははは……お前らホント仲いいのね」


 俺と安達の言い合いを横で見ていたアッくんが苦笑する。

 その時ちょうど綾の森に到着したため、三人で電車から降りて駅構内を歩く。

 一足先を歩く安達は心なしか機嫌が良さそうで、歩く姿がいつも以上にルンルンとしていて、テンションが高そうに俺の目には(うつ)った。


「で、慎ちゃんどっちが本命なの?」


 そんな安達を後ろから(なが)めていると、アッくんが唐突(とうとつ)に耳打ちをしてきた。


「何の話だよ?」


「決まってるっしょ。彼女カッコ仮とあの子、どっちが本命なのって話」


「知らねーよ。どっちも話すようになってから日が浅いし」


 どっちも見た目は美少女だし、特に安達にはいつも穏(おだ'やかではない感情にさせられてはいるが、二人をそういう視点で意識した事はなかった。

 紗月のほうは多分。安達のほうは要審議だが。

 いや、でも安達は告白しても振るらしいし、余計な事は考えない方が(きち)だ。


「慎ちゃんが選べる立場になるとは……春って感じだねえ」


「なんだよ、何が言いてーんだよ?」


「まぁフツーにいい奴だし、目つきの悪さを除けば顔も悪くないしねぇ?」


「だからなんなんだよ」


「いやぁ、今年は色々ありそうですねえ!!」


 人の顔を見てニヤニヤし続けるアッくん。

 コイツは人が振り回されているのを見て、楽しんでいるだけだろう。

 

 ──まあそれはともかくとして。


 この結果、紗月には報告しておく必要があるだろう。

 先週、紗月からも安達とはしっかり話すようにと言われたわけで、その結果どうなったかは向こうも気になるはずだ

 それ以前に仮とは言え、紗月は彼女という設定なので、女子である安達との関係は明らかにしておく必要がある。

 微妙な関係ではあるが、その辺の報連相(ほうれんそう)はしっかりしておきたい。

 それが俺の考えだ。

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