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第四話 覚悟

 木々が連なる街道を、馬車はゆっくりと進んでいた。窓の外では風が草を撫で、鳥のさえずりが心地よく響いている。


「リューゲル商会は、リヴィオを拠点に各都市に支部を持つ大陸有数の大商会ですの。今の代表はエドワード・リューゲル。そして私は……その一人娘ですの」


 にこやかに語るティナの横顔に、セリーナが驚きの表情を浮かべる。


「えっ……一人娘って、それって……」


「言わなかったのですか、ティナお嬢様」

 ミーナが腕を組み、皮肉混じりの笑みを浮かべて口を挟む。

「まったく、わざと隠してたんじゃありません?」


「ち、違いますわ! 別に隠していたわけでは……お話の機会がなかっただけでしてよ」


 頬を少し赤らめるティナに、健一は頭を掻いた。


「そんな大金持ちのお嬢様が、護衛も少なく旅に出るなんて……ちょっと信じがたいというか、危なすぎるんじゃ」


「お客様や土地の空気を肌で感じなければ、良い商人にはなれませんの」

 そう言ってティナは、窓の外へ視線を移す。その瞳には、年齢に似合わぬ確かな意思が宿っていた。


 その様子を見て、セリーナが小さく感嘆の息を漏らす。ティナに対する尊敬の念が、ほんの少しだけ彼女の目に宿っていた。



 やがて、馬車の向こうに石造りの門と高い城壁が姿を現す。巨大な門を抜ければ、そこは――交易都市リヴィオ。


 人々の声、荷車の音、焼き立てのパンの香ばしい匂い、広がる屋台の喧騒。すべてが生きて動いている。これまで通ってきた道とは比べ物にならない活気に、健一は圧倒されていた。


(……これが、リヴィオか)


 馬車の窓から街を見つめながら、健一は思う。


(ここに……本当に“エリコ”の痕跡があるんだろうか)


 胸の奥で不安がざわつく。手がかりはあるのか、本当にこの世界で見つけられるのか――


 そんな彼の手に、ふいに小さな温もりが触れた。


「……大丈夫よ」


 隣に座るセリーナが、そっと囁くように言った。


 健一は彼女の方を見て、小さく微笑む。そしてふと、ティナたちに“自分が異世界の人間であること”を打ち明けるべきか、心が揺れる。


(信じてもらえるわけ、ないよな……)



 馬車はやがて、広い石畳の通りを進み、ひときわ豪奢な建物の前で止まった。白と金で彩られた屋敷には、巨大な扉と衛兵の姿。門にはリューゲル商会の紋章が誇らしげに掲げられている。


「こちらが、わたくしの家……いえ、商会ですわ」


 ティナがそう言って馬車を降りた瞬間、門番が敬礼した。


「お帰りなさいませ、ティナ様。――あっ!」


 門の奥から、白髪の老人が駆け寄ってくる。


「ティナ! 無事だったか!」


「お祖父様!」


 グラハム・リューゲル――ティナの祖父であり、リューゲル商会の元会長。背筋をまっすぐに伸ばした威厳ある老紳士が、孫娘を抱きしめる。


「盗賊に遭ったと聞いて、いても立ってもいられなかったよ。怪我はないか?」


「平気ですわ。この方々が助けてくださいましたの」


 ティナが振り向き、健一とセリーナを紹介する。


 グラハムは深く頭を下げた。


「命の恩人に、心からの感謝を」


 そのまま、彼の鋭い視線が健一へと向けられる。


「……そうだ、自己紹介がまだでしたね」


 健一は少し迷うように言葉を探し、そして口を開いた。


「“ケンイチ”といいます」


 その名を告げる時、彼の声には僅かな震えと、確かな決意が混じっていた。


 セリーナがその横顔をじっと見つめる。


「“ケンイチ”……珍しい名だな」

 グラハムが興味深げに頷く。「異郷の香りを感じる。……まるであの方のようだ」


 健一は深く息を吸い、リヴィオの空を見上げた。

 高く、澄んだ空。その向こうに、家族の笑顔を思い浮かべる。


(絶対に――帰る)


 街の喧騒の中にあって、ひときわ静かな決意が彼の中に根を下ろした。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

ようやく健一たちがリヴィオに到着し、物語もひとつ大きな節目を迎えました。


少しずつ、でも確かに広がっていく異世界の謎と人の縁。

書いていても胸が熱くなる場面が増えてきました。


さて、遅ればせながらですが――


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