表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/52

第5話 隊長(不審者)と騎士(お邪魔虫)と私

「ミレイユ司書! 大変だ! 王宮から至急の使いが……って、あれ? ヴァレンティア隊長? なぜ貴方がここに?」


息を切らせて第二書庫の奥に飛び込んできた騎士様、レオンハルト=アーヴィングは、私の隣に立つ黒服の男――カイエン=ヴァレンティアを見て、驚きと警戒を露わにした。


(た、隊長……? えっ、ちょ、待って? ヴァレンティア隊長って……あの!? 王都の悪党どもがその名を聞いただけで震え上がり、夜泣きする子供も黙るっていう、あの鬼の治安隊長のこと!?)


私の脳内データベースが、猛スピードで検索を開始する。黒ずくめ、無愛想、鋭い眼光、神出鬼没……うわぁ、噂と目の前の人物像が、恐ろしいほど一致しているんですけど! このどう見てもカタギじゃない雰囲気(失礼千万)の人が、あの!?


あまりの衝撃に、私は口をパクパクさせることしかできない。その間にも、レオンハルト様とカイエン隊長(仮)の間には、バチバチバチッ! と激しい火花……のようなものが見える気がする。え、なにこの空気? 知り合いなの? 仲悪いの?


「ヴァレンティア隊長、なぜ貴方がこのような場所に? まさか、例の件で……?」

レオンハルト様が、詰問するようにカイエン隊長(もう隊長って呼ぶしかないわね!)に問いかける。対するカイエン隊長は、表情筋一つ動かさず、壁に寄りかかったまま素っ気なく答えた。

「……ただの調査だ。騎士団には関係ない」

「関係なくはないでしょう! この図書館は王家の管轄、貴方の独断での捜査は問題になるのでは?」

「俺は俺の仕事をしているだけだ。邪魔をするな」


(うわぁ……仲悪いんだ、この二人……。というか、子供の喧嘩みたい……)


火花散る二人の間に挟まれ、私は完全に居場所を失っていた。埃まみれの元悪役令嬢、生真面目すぎる騎士様、そして無愛想すぎる治安隊長。なんだこのシュールな絵面は。誰か助けて。


「あ、あのぅ……わたくし、そろそろお暇してもよろしいでしょうか……? 午後からは第一書庫の貸出カウンター業務が……」


今がチャンス! とばかりに、そろり、と後ずさりしようとした私。しかし、その企みは、左右から突き刺さる二対の鋭い視線によって、無慈悲にも打ち砕かれた。


「「待て(待て)」」


声、ハモってるし! なんなのよもう!


完全に逃げ場を失った私を見て、レオンハルト様はようやく本来の目的を思い出したらしい。私に向き直り、騎士らしい(?)凛々しい顔で告げた。


「ミレイユ司書、話の途中だったな! 王宮より緊急の指示だ! 例の――」


(あ、これ絶対アレだわ……さっきカイエン隊長が言ってた……)


「――『アークブレイド王家の血脈に関する異聞録』、もしくはそれに類する可能性のある文献を、至急探し出してほしいとのことだ!」


(ほら来たーーーーーーーーっ!! やっぱりーーーーーっ!!)


内心で盛大に頭を抱える。もうね、デジャヴュ。さっき聞いた。聞いたけど聞きたくなかった!


「ですからレオンハルト様、わたくしはまだ新米で、そのような貴重な文献については皆目……」


必死で言い訳を重ねようとする私に、レオンハルト様は有無を言わさぬ口調で続ける。

「言い訳は聞かん! 君がこの第二書庫の曰く付き古文書の整理を担当していると、館長から聞いている! 何か手がかりを知っているはずだ! これは王命だぞ!」


(館長ぉぉぉ! アンタ、やっぱり全部仕組んでたのね!? 私を厄介払い……じゃなくて、厄介事処理係に任命する気満々だったのね!?)


もはやこれまでか、と私が観念しかけた、その時。それまで黙って二人のやり取り(というか、私の受難)を眺めていたカイエン隊長が、ふと、先ほど彼が気にしていた、あの奇妙な紋様の描かれた古びた木箱に目をやった。


そして、まるでタイミングを見計らったかのように、ボソリと呟いた。


「……その文献とやらが、もし実在するなら。あるいは、この中かもしれんな」


その言葉に、レオンハルト様が「本当か、ヴァレンティア隊長!?」と、カエルの干物を見つけた時とは比べ物にならない勢いで食いつく。そして、その勢いのまま、私に向かってビシッと指をさした!


「よし、ミレイユ司書! 聞いただろう! すぐにその木箱を確認するんだ!」


「はいぃぃぃぃ!?」


ちょっと待て! なんで私が!? 指示するだけして、自分はやらない気!?


私が抗議の声を上げるより早く、カイエン隊長までもが、まるでそれが当然であるかのように頷いた。


「ああ、ちょうどいい。俺も中身が気になっていたところだ。開けてみろ」


(ちょっ……アンタまで便乗するなぁぁぁぁっ!)


左からは騎士の威圧感、右からは治安隊長の無言の圧力。そして目の前には、見るからに「開けたら呪われます」的なオーラを放つ曰く付きの木箱。


……完全に、詰んだ。


もはや抵抗する気力も失せた私は、「もう……どうにでもなれ……」と力なく呟き、震える手で、その古びた木箱の留め金に、そっ……と指をかけたのだった。


(ああ……私の平穏な読書ライフ……さようなら……。来世は、無人島の灯台守にでもなりたい……)


果たして、このパンドラの箱(物理)の中身とは!? そして、私の明日はどっちだ!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ