Scene-5(200)
『穏やかな風に抱かれて』の本編には書かれていないエピソードの一場面を200文字で書いてみました。
机の上に彫り込まれた小さな相合傘の落書き。
自分の名前の隣には“広瀬孝太”と書かれている。
いつも素朴な彼のことが知美はずっと好きだった。
この春から彼は知美とは別の大学へ行ってしまう。
もう、明日しかチャンスはない。
卒業・・・
このまま会えなくなるのはつらい。
想いを伝えよう。
孝太に渡したメモには知美の下宿先の住所を書いた。
今の知美にはこれが精いっぱいだった。
「神様、どうか孝太君が振り向いてくれますように」