あ
僕は惰性で生きている。ただ生きている。これといった趣味はない。ただ学校に行って、帰って、スマホ触って寝るだけ。本当にただそれだけの日々。時がたてば多少なりとも変わるのだろうが、それは環境だけで僕の本質自体は変わらないだろう。そんな僕だが、ある日、異世界に転移した。なぜ僕なのか、そして誰が僕を転移させたのかはわからない。最初に来た時、僕は困惑した。それはもう困惑した。急に元居た場所とは似ても似つかない場所にとばされ、元の世界では見ない格好をした人ばかり。僕は慌てながら近くにいた人にここはどこなのかと尋ねた。その時その人は怪訝そうな顔で僕を見ていた。最初はその答えが明白だからなのかと思ったが、違った。僕の言葉がわからなかったのだ。彼は不気味そうに僕を見つめ、そして去って行った。言葉が通じないと分かった瞬間、僕はさらに焦りと不安が押し寄せた。僕はいったいこれからどうすればいいのだろう。何か仕事をして金を稼いで暮らしていく?...だめだ、言葉が通じないから僕が働きたいということも伝わらないし、どこで誰に言えばいいのか何もわからない。奇跡的に働きたい意思が伝わったとしても、言葉が通じないやつを雇おうとはしないだろう。僕は頭を抱えた。普通に考えて一一般人以下の僕がこんな状況でなんとかできるわけないのだ。あれこれと考えているうちに気が付いたら夜になっていた。久々にこんな頭を働かせた気がする。疲れてそこら辺の壁によしかかりながら座る。ふいに僕のおなかの音が鳴った。「そういえば今日、何も口にしていなかったな.... 。」僕はこのまま餓死するのだろうか.... 。それは、嫌だな。そんなことを考えていると自然と涙があふれてきた。誰か....助けてくれ...。僕は無意識にそう呟いていた。「...大丈夫ですか...? 」ふと聞きなれた言葉が聞こえた気がした。まだ一日もたっていないのに僕の精神は幻聴が聞こえるほどすり減っているのだろうか。我ながら貧弱すぎやしないだろうか。「...あのー?」僕は顔を見上げる。そこには一人の女性がかがんでこちらを見ていた。「大丈夫ですか?良ければ話を聞きますよ?」さっきと同じ声で尋ねてきた。「にっ日本語だ。日本語.... 。」日本語を話している姿を見て僕はうれしく、そしてほっとしたのか、さっき流した涙とは比にならないくらいの大涙を流した。こんなに泣きじゃくったのは小学生以来かもしれない。見知らぬ奴が急に泣いてしかも抱き着いて鼻水も垂れ流していたというのに彼女は何も言わずただ慰めてくれた。彼女は天使なのだろうか。僕の涙が落ち着き、しゃっくりも止まったところで、彼女から食事の誘いを受けた。誘いに対し僕は金がないことを理由に断ろうとしたがどうやらおごってくれるのだそうだ。見ず知らずの相手にそこまでしてくれることに対し不思議に思ったがあまり考えないことにした。彼女についていくと、とある居酒屋らしきところについた。中へ入り、なにかを話している。どうやら受付のようだ。受付をすまし、僕と彼女は席に着いた。メニュー表らしきものを受け取る。...読めない。いったい何がどれで何なのだろうか。僕が頭にはてなマークを浮かべていると彼女が教えてくれた。僕はその中から焼き魚を、彼女はステーキを選んだ。数分もしないうちに料理が届けられた。僕は合掌した後すぐに魚にかぶりついた。うまい、めちゃくちゃうまい。僕には語彙力がないためうまく言うことはできないがとにかくうまかった。食べている最中、彼女から何があったのかを聞かれた。僕は彼女に正直に話した。彼女は僕の話を疑わずに聞いてくれているようだった。僕が誰とも話せず困っている旨を話したとき、彼女は首から下げているアクセサリーを外し僕に渡した。このアクセサリーには翻訳機能があり、そのおかげで彼女は僕の言っていることを理解し、話すことができたのだという。それは分かったがなぜ彼女は僕に対してこんなにも親切にしてくれるのだろう。それが少し...いや、かなり怖かった。無償の施しほど怖いものはない。だがこれがあれば僕は何とか生きていけるかもしれない。僕は素直にこのアクセサリーを受け取った。食事が終わり、店を出て、別れようとしたとき、僕はあらためて彼女にお辞儀をし、そして感謝を伝えた。彼女はいいよいいよといいながら僕に一つの袋をくれた。渡す際にじゃらじゃらと音が鳴る。まさかと思い、中を見ていいか確認を取った後見るとそこにはお金らしきものが入っていた。僕は固まった。この人は本当に何を考えているんだろう。受け取れない旨を伝えると、彼女はいいからいいからと話を聞かない。「どっどうして僕にこんなに良くしてくれるんですか?もしかしたら僕は人の情に付け込んでただ飯食おうとしているようなやつかもですよ?」「...そうなの?」「いや違いますけど!」どうやら彼女は本当に善意で僕を助けてくれたようだ。僕はこんな人もいるのかと感心した。僕はまた素直に彼女の善意でくれたお金を受け取り、いつか必ず返す、約束をし、彼女と本当にお別れをした。そのあとは僕は彼女に書いてもらった地図を頼りに宿屋に向かった。ドアを開けて受付をする。




