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第9姓 希望

部活終了後。


「じゃ、冥菜また!」


「はい、また。」


上機嫌で帰っていく羽衣。


「……めーちゃん、ちといいか?」


「っ!」


ビクッと身を震わせてこちらを向く冥菜。


「怯えなくたって大丈夫だよ。」


「で、でも私……。」


「二本目からちょっとブレてたな。」


「……萌菜さんには分かっていたんですね。」


「手が震えてた。

緊張してたんだな。」


「萌菜さんが掛かってたんです。

……すみません、言い訳ですね。

私が弱いだけです。」


「いやぁ?

それだけのものが掛かってて

あれで済んだんだぞ、大したもんだ。」


「え? 叱責されるんだと思ってました。

私はまだアマチュアを抜けませんが、

弓道初の羽衣に引き分けたんですよ?」


「だからだよ。

初めてのやつにあんなに追い上げられたら普通ビビるだろ。

本当なら余裕だった試合のはず。

そこも含めて弱いって言ったらあんまりだ。

あそこまで出来たことを褒めてやろうぜ。」


「むぅぅ、萌菜さん甘くないですか。」


「うーん、これが俺のやり方だしなー。

厳しくもできるんだけど俺のやり方じゃないっつーか。

褒められて伸びる方が気持ちもいいべ。」


「それはそうですけど。」


「さ、帰ろうぜ。

疲れてなかったら勉強教えてくれい。」


「はい。」




萌菜の部屋にて。


「どうすんだこの数式。」


「そこはさっきの公式を当てはめて……。」


「あー、ここで使うのか。

めーちゃん教え方上手いな。

分かりやすいわ。」


「そうですか?」


「先生とか向いてそう。

まぁ今日時分、先生も大変だと思うけど。」


「先生、ですか。」


「ありゃ、気分害したかな。

すまん。」


「いいえ?

そう言えば私って何をしたいんだろうなって。」


「決めてないんだ?」


「今の高校に入ったのも

特段何かの目標があってではないんです。

……お嬢様でいることには疲れましたが。」


「そこの苦労は分からんな。

お嬢様ったって金銭除いて満ち足りてるわけじゃないんだろうしなぁ。」


「ご存知な口ぶり。」


「合ってた?

お嬢様にはお嬢様の苦労があると思うんだよなー。

お金があるだけで自由かってそうでもない印象。」


「私は割と自由でしたよ。」


「お義母さんが苦労してそうだったな。」


「そうですね。

ただ、私に苦労がかからないようにはしてくれていました。

父の不貞もそうですね。

そもそも私がもっと可愛かったら政略結婚に使われたんでしょうけど。」


「大丈夫だ、めーちゃん可愛いぞ。」


「……好きとは言ってくださらないのにめっちゃ褒めてくれるじゃないですか。」


「照れてんの。」


「思ったことは思ったまま言うのに?」


「痛いとこ突くなぁ……。

女の子の扱いが下手くそなのは申し訳ねぇ。」


「あはは、お上手ですよ。」


「そうか?」


「一般的に見てどうかは分かりませんが、

私には最適化されているように見えますね。」


「めーちゃんも褒め上手じゃん。」


「思っていることしか言っておりません。」


「あれ?

俺らって似てないようで共通点ある?」


「確かにどこかで聞いた話ですね?」


「……努力するわ。」


「あ。どうかそのままで。」


「え?」


「これ以上魅力的になられてしまうと私から萌菜さんを取りたいだけの羽衣が

本当に好きになってしまったらどうするんですか。」


「イマイチ自分の魅力って分かってないんだが……。」


「全くオラオラされてないところでしょうか。

私に伺ってから選択肢を提示してくださるところがとても好きです。」


「あらそう?

男らしく引っ張れってのはないんだ?」


「そういうのがお好きな方ならいいんでしょうけど、私は好みませんね。

誰かを意味もなく引っ張りたいならポールに縄でもくくって引っ張ったらいいです。」


「な、何?

めーちゃんめっちゃ毒吐くじゃん。」


「お見合いが無かったと思いますー?」


「その年でお見合いか。

いや、もうちっと前だったのかな。」


「えぇ。

私が癇癪起こしてからは全くありませんけども。」


「癇癪?」


「当時の人がオラオラ系でして……。

家に入れだの尽くせだの俺についてこいだの。

本当に腹が立ってしまって。」


「めーちゃんでも怒るんだ?」


「怒りますよー。

同じことでも自発的にするのとやらされるのでは訳が違います。」


「確かになー。」


「あ、でも萌菜さん。

お嫌でしたら仰ってくださいね。

私、萌菜さんに強制しているところもありますので

お見合いをした経験からお気持ちは察して余りあります。」


「全然嫌じゃないんだが。」


「そうですか?」


「言ったろ。

俺、家では居場所ないって。

ここに置いてもらえるだけでもありがたいや。」


「必ず向こうに後悔をさせてやります。」


「あはは、期待しないで待ってるー。」


「萌菜さんはどうしてやりたいですか?」


「勉強できないしスポーツも大してだし、うーん。

兄貴にどこに勝てるんだろうな。」


「ふむ。

差し支えなければお調べしても?

とはいってももうこちらでの調査は済んでいると思いますけど。」


「全然、気にしない。」


「では。」


そういって立ち上がった冥菜が部屋を出る。

少ししてA4用紙を手にして戻ってきた。


「お、めーちゃんなにそれ。」


「お兄さまの調査報告書のコピーです。」


「恐ろしいものを持ってくるな……。」


「可愛がられているのは間違いないようですね。

ただ、性格が破綻していますというか。」


「嘘は言ってないなぁ。」


「あはは、そこじゃないですよ。

……まぁ、女性の扱いも雑だそうです。

勉強は……、そこそこなんですね。

本当に兄弟ですか。」


「溺愛されてるからな、兄貴。

結構人気もあったんじゃなかったかな。」


「ふふ、学生の頃の人気何て一過性のものです。

女性の扱いに長けていて、とはいっても慣れているのも問題ではありますが、

基本的な接し方がなっていれば将来どれだけプラスになるか知っておくと

非常に人生が生きやすくなります。」


「そんなもんかなぁ。」


「今は苦しいかもしれませんが、

どこかで必ずひっくり返ります。

私が、三羽扇家が全力で応援いたします。」


「ありがとうねぇ。」


「……気になることが書いてありますが、

面白いので放置しておきましょうか。」


「なんだろ。」


「将来のお楽しみです。」


「ほーい。」


「さぁ、勉強を続けましょう。」


「あいおー。」


自分でもこんなに集中力があるとは思わなかった。

たぶん、めーちゃんの教えが上手いからモチベーションが上がるんだろうね。

成績が伸びるといいな……。

Copyright(C)2025-大餅 おしるこ

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