第8姓 対決
その夜の事。
驚いたことに冥菜は気をよくしたのか
俯いたと思ったら萌菜の部屋で寝落ちしてしまう。
「めーちゃん、風邪ひくぞ。」
「うぅーん……、むにゅ。」
「完全に寝てるな。
起こすのも可哀そうなんだよなぁ……。
もともとめーちゃんの部屋だったのかな。
落ち着いてるし。
何かかけてあげるか。
毛布なかったかな……、タオルケットあるや。」
タオルケットをかけられたまま座って眠る冥菜。
「やー、どうしよっかな。」
うつらうつらする冥菜の隣で悩む萌菜。
「何気に隣に座ってるけど、
俺距離感やっぱバグってんな。」
突如、こてん。
と萌菜の肩に頭を置く冥菜。
「めっ……!」
言いかかってぐっと堪えた。
起こしてしまう。
「あっぶねぇ。」
「すぅ……、すぅ……。」
「……警戒心ねぇなぁ。
ってか、逆に気になるな。
どうしたんだろーか。
めーちゃん疲れることしてたのかな。」
「……ん?」
「あ、起きた。」
「はっ! す、すすすすいません!」
ぱっと離れる冥菜。
「めーちゃん、何かストレスないか?」
「ど、どうしてですか?」
「油断してたってか、疲れてんのかなって。」
「自覚ないんですね……?」
「俺!?」
「どれだけ落ち着く方か。」
「あ、そっちか。」
「うーん。」
「どうした。」
「一緒に寝たらだめ?」
「だーめ。
高校生には刺激が強すぎる。
もうちょっとしたらな。」
「もうちょっとっていつですか。」
「20歳くらい?」
「待たせすぎです!」
「そ、そうか?」
「羽衣のことだってあるのに……!」
「全然見てないんだが。」
「……萌菜さんが取られちゃったら私泣いちゃう。」
「つい先日まではパッとしないって言ってたのにな。」
「そ、それはそれです!」
「しかしそうかー。
どうしたら心配拭ってあげられるかな。」
「悩んでくださるんですか?」
「まったく興味がない。
行動で示すしかないんだろうなとか思ったり。」
「ふあああ……。」
「眠そうだな。」
「萌菜さん、今日ここで寝ていいですか。」
「だーめ。」
「じゃ、風邪ひいちゃうもん。」
「なんじゃそりゃ。」
「萌菜さんに看病していただけますし
羽衣も近くには寄らないでしょう。」
「短絡すな。」
「あいて。」
軽く突っ込みを入れられる冥菜。
「我慢な、めーちゃん。」
「むぅぅ。」
姿勢を変えた冥菜が萌菜の膝に頭を置く。
「めーちゃん!?」
「おやすみなさい。」
タオルケットをまくりながら転がる冥菜。
「マジかー……。」
次の日の朝。
「やべぇ、寝不足で死にそう。」
「あー、よく寝た。」
伸びをする冥菜と対照的にげっそりな萌菜。
「勉強どうしよう、マジで集中できない。」
「お教えしましょうか?」
「めーちゃん勉強できるの?」
「……ほどほどにですけど。」
「今日寝るわ。
あとで教えてくれい。」
「もう。」
学校。
「よーアラっち……、死にそうな顔してんな。」
「寝れないのよ、マジ死にそう。」
「何してんだよ、夜遊びか?」
「んなことするように見えるか?」
「見えんけど。」
「いくつか授業寝るかな……。」
「不真面目だねぇ。」
「事情があんの!」
キーンコーンカーンコーン……。
「今日は部活を決めてもらいます。
希望の部に行くように。」
と、先生から案内が来る。
「めんどくせー……。」
「萌菜さんっ。」
「めーちゃん、部活やる?」
「はいっ!」
ここで事件が起きるとは……、思わなかった。
「あの三羽扇冥菜さんが弓道部に……!?
来てくれるの!?
中学校でトップだったよね?」
「……一応は。」
「めーちゃん、自分をよく言わないんだな……。」
「恥ずかしくありませんか?」
「実力は結果で出てるだろー?」
「そうでしょうか……。」
「で、入部してくれる条件が
そこの男の子を専属のマネにしてほしいってこと?」
「彼は私の能力を限界以上に引き出してくれます。
ただ、彼自身は弓道に長けているわけでもないんですけども
私にとっては特別ですので。」
「ふーん、信頼の置けるカレなんだ?」
「ふっ!?
こ、恋人であることは否定しませんが
マネージング能力をしっかり見据えたうえで交渉しております!」
「いいよ、あの冥菜ちゃんが来てくれるだけで
うちの高校のインターハイもらったもんだし。」
「萌菜さん!やりました!」
「めーちゃん、見かけ通りってか強いな……。」
「もえな?」
「あぁ、またここで説明するんか……。」
袴に着替えた冥菜は慣れた様子で弓を手に取っている。
ほー。
結構重そうだな……。
「冥菜さん、そんな重いのを引くんですか?」
「え? これ何キロでしたっけ。」
「15キロですよ。
14キロでも強いのに……。」
「そんなには重くないですね。」
「流石トップなだけはありますね……。」
「えー!結構重い!」
対するは羽衣。
ってか、弓道部に来るんかい。
体験入部期間は終わってるよな……?
なんとか袴を着て弓を選定しているがつらいようだ。
今さっきめーちゃんの弓は15キロとか言ってたよな……?
「9.5キロです。
ここにある下限ギリギリなのでそれで。」
「頑張るかぁ。」
ギャルっぽいのにやる気はあるんだな。
見た目だけでは測れないところがあるね。
キリキリ弦を引いて矢を放つが的に届かず矢道に落ちる。
「やや!?
届かないじゃーん!
あはははは!」
めっちゃ明るいな……。
「ちょっと上向きにしてやればいいんじゃね?」
パーン!と弾いた矢が的の隅に当たる。
「お!当たんじゃーん!」
ひょっとしたら、だけど羽衣ちゃん化けそう。
バァン!と大きな音を立てて冥菜が水平に矢を射ている。
めっちゃかっこいいな。
……ん?
「めーちゃん、俺よー知らんのだが
引くのつらそうに見えるな。」
「え? そうですか?」
「弦を引いたときにちょっと体勢が反ってねぇ?」
「む。それは姿勢が悪いですね……。」
弓を変えている冥菜。
軽いものにしているのだろうか。
弦を引いている冥菜、今度はまっすぐだ。
「……萌菜さん、どうですか?」
「真っ直ぐだな。」
「大分軽いんですけど私に合っているんでしょうね。
弓は重ければいいものでもありません。
気付きませんでした。」
「偉そうにすまんね。」
「いえいえ。」
「冥菜、ちょっと。」
「何ですか、羽衣。」
「どっちが当てられるか勝負しない?」
「部活ですよ、そんなこと」
「許可取ってきた。」
「えぇ……?」
一つの的に3本的中を続け、
外したほうが負けという的中制の勝負らしい。
部長も羽衣がすぐに終わると踏んだようだ。
相手は中学トップだもんなー。
「弓の重さはハンデにならないかんね。」
「当然です。
自分の体に合っているかどうかですから。」
「ちな、アタシが勝ったら萌菜狙うよ。」
「ご勝手に。」
先鋒は羽衣。
姿勢は冥菜と比べて綺麗ではない。
しかし何だろうな。
挑戦者特有の泥臭い強さを感じる。
気のせいだろうか。
やや矢先を上げて放たれた竹の矢はドンッと的に中る。
「よっしゃ!」
割と中心からは離れているが、
この勝負の場合的に当たればアタリだ。
次は冥菜。
水平に矢を引き、放つ。
竹の矢は中心に近いところに命中。
周囲からおぉ……、と声が上がる。
流石だ。
「ふーん、やるじゃん。」
「羽衣も本当に初めてですか?
そんなに命中するものでもないんですけどね……。」
「アミューズでアーチェリーなら遊んでたけどねー。」
「感覚はあるんですね。」
「あはは、知らないけどねー。」
再び矢を引いて放つ羽衣。
先にあった冥菜の矢に中って跳ねる。
「あっちゃ、外した。」
「今のはアタリだ。
的自体には当たってるからな。」
「よっしゃ!」
部長の言葉に喜ぶ羽衣。
「どういうセンスをしているんですか……。」
再び冥菜の番。
……あ、まずいな。
でも指摘していいのかな。
もう動いちゃってるから駄目だろうな。
ヒュッと放たれた矢が的に中る。
今度は割と隅の方だ。
「おー、当たんねぇ。
流石冥菜だねー。」
「……いえ。」
にこやかな羽衣とは対照的に表情が落ちている冥菜。
「次はアタシだー。」
矢が放たれるが大きく外れる。
「あー、流石に外したかぁ。」
次に構えるは冥菜。
勝ちは確定に見えた。
……しかし。
外した羽衣の矢のそばに命中。
「ありゃ、難しいねぇ。」
「明るいですね、相変わらず……。」
「部長、こういう場合どうなるんスか?」
「そうだなぁ。
マジでやるなら得点用の的のところだな。
あの色付きの的。
真ん中ほど点数が高い。」
「げげ……、勝ち目ないって。
アタシ当てるだけで精一杯なのにそんなルールあんの?」
「羽衣、やりますか?」
「いやぁ、降参だなぁ……。
もっと練習するよぉ。」
勝利に拍手が送られる冥菜だったが、表情に明るさはなかった。
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