第7姓 同族
朝。
「ぜ、全然寝れなかった。」
コンコン。
「あいー、開けますよー。」
そろりと扉が開く。
「あれ、開いてもた。」
「萌菜さんっ。」
がばっと抱きつく冥菜。
「こ、こら。
あぁ、やわらか……じゃない。
なにをする。」
「恋人同士なら、いいんでしょう?
私、ずーっと我慢してたんですよ?
ご褒美ください。」
「……うぐぐ。」
自ら蒔いた種だ。
ふわりと冥菜の腰に手を回す。
「ひゃんっ。」
「あら、背中だとダメだと思ったんだが。」
「覚えていたんですか?」
「あれ、夢だったか?」
「夢じゃないですよ?
もっとも、私も同じ夢を見ていなかったらですけど。」
「……同じ夢を見るって有り得ないだろうな。」
「私、一応出来ます……けど。」
「いや、できるんかーい。」
「あはは、萌菜さんおもしろーい。」
「なんだよー。」
「朝ごはんを済ませて学校に行きま……、あ。
背中を痛めてましたね。」
「うーん。」
ぐいぐい体を回してみる。
「……ちょっと痛いけど大丈夫じゃねーかな。
大分よくなった。」
「よかった。」
車で登校。
本当に贅沢よね……。
「お、アラっちー。
大丈夫かー?」
「チト痛むけど動かない分には大丈夫そう。
すまんだな。」
ペアを組んでいた池坊と朝の会話を交わす。
「池坊さんはおうちが華道の方とか?」
「いんやー?
何にも知らないんだよなー。
記憶の限り誰もやってないんだが、なんでこの苗字なんだか。
冥菜ちゃんが知らないなら謎のままだな。」
「私もこの辺には疎くて……。」
「そっかそっか。」
「その苗字、襲名じゃねーの? 知らんが。」
「俺もそう思ってるんだよなー。」
「やってないのに生け花って呼ばれてて面白いな。」
「そうだよな!も・え・な!」
「やかましい。」
「あはは。」
授業が始まった。
ぜーんぜん分からん。
何の気なしに過ごして下校になった。
「萌菜さん、帰りましょう。」
「おうよ。」
ホールに出る。
「冥菜ー、待ってくんなーい?」
「うん?」
声のする方に見ると、ギャルっぽい女の子。
「どちら様ですか?」
「どう言ったらいいかなぁ。
三羽扇冥菜、いえメナエルとか。」
「っ!」
言葉を聞いた冥菜の顔が引きつる。
「……めーちゃん、お知り合い?」
「どこかで見た気がします。
誰ですか。
名を名乗りなさい。」
「覚えてなーい?
エスティエル。」
「エスティエル!?
エステルなんですか!?」
「こっちの名前では小赤沢羽衣かな。
こっち来た用事はあんたと一緒。」
「機械的な男性が嫌に?」
「そーそー!
あいつらつまんないよねー!」
「それには同感しますが。」
「で?
一緒にいるそこの子、兄弟?」
「いえ?」
「まさかもう見つけたの!? 婿を!?」
「そ、そういう言い方……。」
「めーちゃん、気にしなくていいぜ?」
「そ、そうですか?
そうですね、昨日から恋人同士になっています。」
「きゃーっ、きゃーっ!
やるじゃーん!」
「テンション高ぇなぁ。」
「萌菜さん、彼女はいつもこんな感じで……。」
「もえな? 誰?」
「俺の名前だよ。」
「は? マジで?」
「うーるせぇなぁ。
萌菜なもんは萌菜なの。
親は恨んでねーけど、なんでやねんって感じで。
女の子の名前じゃん。
自分らの名前が俺についてるもんだぜ。」
「……冥菜。」
「何ですか?」
「面白い人見つけたね……。」
「ま、まぁ。」
「ちょっと欲しいかも。」
「エステル!」
「ごっめーん。
でもでもぉ、萌菜っちが私の方を好きになるかもしれないでしょ?」
「ありえねーな。」
「言い切った。」
「ないもんはねーの。
付き合いたての二人にそりゃ失礼だぜ。」
「だからだよ。」
「好きじゃねーなぁ。
めーちゃん行こうぜ。」
ぐいっと冥菜の手を引く萌菜。
「あ……。」
「あー、行っちゃった。
いいなー。」
その夜、萌菜の部屋にて。
「押しかけている形ですけどよろしいんですか?」
「すまん、俺が女の子の部屋に行けなくてな。」
「そういうことでしたら……。」
「羽衣ちゃんだっけ、知合いだったっぽいけど
めーちゃんは来ること知ってたの?」
「いえ、まさか同じ高校の別クラスとは思いませんでした。
かなり低い確率です。」
「年齢が一緒の確率的にも?」
「天界から降下していることすら知らなかったんです。
ゼロではない、程の確率です。」
「ふーむ、だったらこうだ。
向こうが合わせてきた。」
「あ……。」
目を見開く冥菜。
「どした?」
「エステルは何かと私のものを取る癖がありましてね。
狙ってきた可能性を考えれば有り得そうだなと。」
「たまにいるよなー。
人のものばっか欲しがる子。」
「エステルはそういう子ですね。」
「だめじゃん。」
「……エステル、可愛いでしょう?」
「んー、俺は好きじゃないかな?
ギャルっぽい子って苦手なんだ。」
「あの子の事です。
その情報を得たら見た目を変えてきます。」
「そこまでする!?」
「するんです。」
「流石女の子だなー……。
ただ、めーちゃんから取るなら
めーちゃんじゃないとダメなんだよなぁ。」
「私、胸小さいもん……。」
指いじりをしていじける冥菜。
「そういうところ、可愛いと思うけど。」
「どういうところですか?」
「今のめっちゃ女の子らしかった。」
「そうでしょうか。」
「そそ。」
「エステル、胸大きいもんなぁ……。」
「俺、胸で女の子判別してないぞ。」
「そういえば萌菜さんのことあんまり知りませんね……。」
「聞いて聞いて。」
「女の子のどこが好きですか?」
「髪かな?
真っ先に髪を見るかな。
さらさらしてるのすっごい好き。」
「私は……、どうですか。」
「めーちゃん髪長いよね。
さらさらして綺麗。」
「そ、そうですか?」
「うんうん。」
「えへへ。」
照れ笑いする冥菜。
「いやー……、可愛いなめーちゃん。」
「そうでしょうか。」
「そういや俺もめーちゃんのことあんま知らんな。」
「どうぞ聞いてください。」
「めーちゃん部活してるの?」
「まだ学校が始まったばかりなのでまだですね。
ただ入部しようとしているところは決めていますよ?」
「マジかー。
どこ部?」
「弓道部です。」
「えっ、マジ?
めーちゃん弓道できるの?」
「趣味程度ですけど……。」
「趣味で弓道ってやれるんだっけ……?」
「一応、こんな生活をしておりますので。」
「そうだそうだ、めーちゃんそういう人だったな。
親しみやすいんで忘れそうになる。」
「萌菜さん、嬉しくなっちゃいます。」
「思ったことしか言っとらんぞ。」
「だからです。」
「わかる?」
「目を見たら。」
「そりゃありがたいや。」
「萌菜さんは部活決めているんですか?」
「めーちゃんが部活するのに帰宅部はな、流石に。」
「お迎えを呼べるようにいたしましょうか?」
「それは堕落してるな、何か考えるよ。」
「お気に召す部活が無かったら仕方ないのでは?」
「秀でてるものがないんだよな、逃げじゃねぇ?」
「うーん……。」
しばらく考え込む冥菜。
「では萌菜さん。」
「なんでしょ。」
「私のマネージャーをしていただけませんか。」
「俺が!?」
「部活に所属しない、私のサポーターです。
装備だったり身の回りまでは自分では大変なので。」
「ほぉん。
でも俺何も知らんぞ。」
「流石にお教えいたしますよ?」
「弓は持ってるの?」
「……恥ずかしながら、持っております。」
「恥ずかしい? どして?」
「まだ満足に自分で扱える領域ではないからですね。
なのに弓を持っているなど恥です。」
「そういうものかな……?
欲しかったら買ったらいいと思うんだが。」
「一般的には始めても数年持たない方が多いんです。
金持ちの道楽ですよね……。」
「めーちゃん、それはよくないぜ。」
「えっ?」
「確かに僻んだら言われるかも知れんが、
めーちゃんは数あるうちの財力を使ってるだけだぞ。
しかもそれを誇って自慢してるわけでもねぇ。
今さっき、弓を満足に扱える領域じゃないって言ったよな?
自分の実力をよく見てるじゃねーか。
自信持てよ、努力してない者にはその感覚すら分からん。」
「も、萌菜さん……?」
「あ、すまん。
偉そうに語ってしまった。」
「いいえ。
嬉しかったです。
そのように言っていただけることは
私どもにはまずありませんので。」
「厳しい家庭だなぁ……。」
「そんなこと仰ってくださるの、
萌菜さんだけですよ。」
「そうかね。
可愛い彼女さんの事だ。
悪くは言わんぞ。」
「は、はぅ。」
照れて目をそらす冥菜。
「あ、勘違いしないでくれよ。
悪く言わんってのは思ってるけど言わない、
じゃなくて、そもそも思ってない。
元気になってほしい、自信をつけてほしいから言ってるだけで
悪い意味じゃあないんだ。」
「うふふ、分かってます。
萌菜さんってそういう方ですもんね。」
「そ、そうか?」
「えぇ。」
よくわからないけど、表情が明るくなった冥菜。
良かったんだろうか……?
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