第5姓 欠如
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ジリリリリ。
朝かー。
リン。
目覚ましを止めて体を起こす。
「あ、そっか。
めーちゃんの家だったんだなー。
俺の部屋になるらしいが
急には慣れないなー。」
コンコン。
「あ、はーい。」
扉を開けると冥菜がそこにいた。
「おはようございます、萌菜さん。」
「おはよう、めーちゃん。
可愛いパジャマだね。」
「えへへ、フリフリです。」
「お嬢様っぽいなー。」
「あの。」
「なんだい?」
「おはようの、ぎゅーは?」
「ぶっは!」
「憧れてるんですー!」
「それ恋人同士だよな!?」
「あれ? そうなんですか?」
「知らない人といきなりハグしたらダメでしょ!?」
「萌菜さんのことは知ってますよ?」
「恋人って前提忘れないでね!?」
「あはは、萌菜さんおもしろーい。」
「めーちゃん、色々抜けてんなぁ。」
「よく言われます。」
「それ、他の人にもよくやってたの?」
「いいえ?
私、普段は全然話さない子なんです。
萌菜さんだから甘えているというのありますね。
無知な自分でも恥ずかしくありません。」
「信頼してくれてるんだ。
ありがてぇな。
少しずつ知っていけばいいんで。
びっくりはするかもしれないけど別に笑ったりしないから。」
「えぇ。
ですから心から信頼しています。
それで……。」
「ん?」
「やっぱりぎゅーは、だめ?」
「うへ。
僕んら恋人同士じゃないからね?」
「おかしいですね。
中学校では女の子同士結構していたんですが。」
「そういうお花が散りそうなものは俺にはわからねぇ世界だな。
男女ではまた異なるんでね。」
「知り合いは異性兄弟でもしてたんですけど……。
何かあるんでしょうか……。」
「そもそもお嬢様論があるのか。
俺が教育係でいいのかな。」
話しているとメイドさんがやってくる。
「冥菜様、萌菜様。
朝食のお時間です。」
「あら、もうこんな時間。」
「行こうか。」
「えぇ。」
めっちゃ豪華な朝食。
緊張しすぎて喉通りづらい。
またしても車で登校。
こんな生活でいいのかなー。
ホームルーム開始。
「えー、今から男女共同で体育館にてスポーツテストを行います。
女子生徒はこの教室で、男子生徒は準備室にて着替え。
着替え終わり次第体育館に向かいなさい。」
「準備室って隣だったな。
行くか、生け花。」
「あいよ。」
「あの、萌菜さん。」
「どうした、めーちゃん。」
「廊下で待っていていただけませんか。」
「心配だよなぁ。
おっけー、待ってるわ。」
「ありがとうございます!」
準備室にて。
「アラっち、冥菜ちゃんにめっちゃ懐かれてるな。」
「んだな。」
「なんか一緒に登校してなかった?」
「道一緒なんでな。」
「付き合ってんの?」
「いんや。」
「そこまで仲が良くて!?」
「俺なんかとは住む世界違うだろ、どう考えても。」
「アラっちはこっちの人っぽいよな。」
「だろー?」
「冥菜ちゃんに好きって言われないの?」
「好意っぽいのは見えるけど俺の勘違いかもしれない。
第一、思い上がりが酷い。」
「でも冥菜ちゃん可愛いよな。」
「そうだなー。」
さっさかと着替えて廊下へ。
少し待っていると冥菜が出てきた。
「あれ?
冥菜ちゃんってアラっちと中学一緒だったん?」
「あ……。」
「世間は狭いってこったろ。
たまたま一緒ってこともあらーな。
気にすんな、行くぜ!」
「お、おぅ。」
池坊が体育館に向かっていく。
「萌菜さん、すみません。」
「本当のこと言うと拗れるからな。
気にすんなって。
ズボン気をつけてな。」
「えぇ。」
体育館にて。
「アラっちとペアとはやりやすいねー。」
「だな。」
「背筋だな、見てるぜー。」
「ふんがー!」
「97……、114……、アラっち、アラっち!?」
「もうちょっと、もうちょっと!」
ゴキッ。
「あがっ。」
「127キロ、バケモンかよ。
どうした、壁に手なんかついて。」
「い、息できねぇ。
すーはー、息してるな。
背中が、いででで……。」
「おいアラっち、ギクッたんじゃねぇ?」
「やっちまった……。」
遠投。
「アラっち、大丈夫か……?」
「マジでいてぇ。
投げ……、いででで!」
「おいおい……、7メートルだぞ。
しょぼくねぇ?」
「あたたた……。」
「保健室行こうぜ。
どう見てもやべぇよ。」
「これ治んのか……。」
ここで池坊を呼ぶ声がする。
「やべ、呼ばれた。」
「保健室行くって言っといてくれね。
無理だわ。」
「一人で大丈夫か?」
「ギリ歩けるから大丈夫。
すまねぇ。」
「任せろ。」
痛い背中を押して保健室に向かった。
ガラガラ。
「サーセーン。」
「ん? どうかした?」
「先生、背筋やったらグキって。」
「あー、ギックリ背中ね。
それは安静にして放っておくのが一番ねー。
熱を持つようなら湿布だけど、そうでもないでしょう?」
「マジかー……。」
「歩いてはこれたんだ?」
「ギリギリっすけど。」
「早退なさい。
家は?」
「家……、家?
あれ? 俺の家ってどうなるんだ?」
「どういうこと?」
「住んでるところ変わったんすよ。
どうすっかな。」
「どこに変わったの?」
「三羽扇さんの家。」
「三羽扇さん?
あの家の子なのね。
呼び出しかけとくから、ベッドで寝てなさい。
下手に動いたら悪くするから。」
「はーい……。」
ベッドに横になってしばらくすると
血相を変えた冥菜が保健室にやってきた。
「萌菜さん!」
「だっせぇ、ギックリ背中だって。」
「大丈夫なんですか?」
「とりま、帰れって。」
「私も早退します。」
「めーちゃんは普通にやっておきな。
俺寝てるから。」
「心配です。」
「ほっときゃ治るって。」
「……ここにいます。」
「俺のせいで迷惑かけたくないのよ。」
「……にぶちん。」
「ん?」
「行ってきます。」
「おう。」
あっさりと冥菜が保健室を出て行った。
「歩いたことないからめーちゃん家知らねーな。
贅沢病にかかってるなこれ。」
しばらくすると制服に着替えた冥菜が両手いっぱいにやってきた。
「めーちゃん?」
「早退します。
先生には許可をいただいています。
これ、萌菜さんの制服と鞄です。」
「持ってきてくれたの!?」
「家、分からないでしょう?」
にこーっと笑う冥菜。
優位に立てて嬉しいんだな……。
「めーちゃん頼りだな、申し訳ねぇ。」
「午後は授業がありません。
一日スポーツテストだそうですので。
車は呼びましたのであと少しお待ちください。」
「ありがとう。」
「……。」
「……。」
校庭からきゃいきゃい声がする。
保健室の先生も不在で沈黙が流れる。
「めーちゃん、退屈じゃねえ?」
「どうして?
萌菜さんを見てると退屈しませんけど。」
「何もしてないが。」
「頭がゆるゆる動いたり視線がゆらゆら。
気にしていただいているんだろうなぁって。」
「着眼点凄いな。
その感覚って自分でつけたの?」
「意図はしてませんけど……。」
「女の子だなぁ。」
「……あの。」
「ん?」
椅子に座りながら俯いている冥菜。
膝に握り拳を置きながら機会を窺っているようだ。
「言いにくいこと?」
「はい。」
「待った。」
「え?」
「それ俺に言って大丈夫?」
「萌菜さんなら大丈夫だと踏みました。」
「おっけ。」
「私……!」
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